日本での常識は通用しない?
日・米・欧、都市部のクルマ事情
2018.04.23
デイリーコラム
マンハッタンのクルマはおおむね汚れている?
世界的な都市部への人口集中が加速する中、公共交通の整備やクルマを使った新たなるサービスの普及が進んでいる。例えば、次世代型路面電車(LRT)の新設や、ライドシェアリング、そして個人間での自動車レンタルなどだ。そうした時代変化を踏まえた上で、アメリカ、欧州、そして日本のクルマ事情を比較して見ると、意外な違いが浮き彫りになってくる。
トランプ政権の強硬な経済政策が奏功し、なんだかバブルっぽい雰囲気が漂うニューヨークのマンハッタン。地下鉄は整備され、またイエローキャブも多く、さらに最近はUberやLyftなどライドシェアリングを利用する人も増えている。
そんな世界屈指の大都市では、ピカピカの高級車がウジャウジャいるかと思いきや……。ロールス・ロイスやベントレーなど3000万円級の欧州車にお目にかかることは極めて珍しく、メルセデスやBMWでも最上級モデルではなく「Eクラス」や「5シリーズ」が主流といった印象だ。一方、アメリカ車の場合は、黒塗りの「キャデラック・エスカレード」や「リンカーンMKX」が目立つ。こちらは、ホテルの送迎車でもエグゼクティブ用の運転手付きの社用車でもなく、ライドシェアリングのUberやLyft用に個人が所有しているクルマが多い。
驚くことに、こうしたマンハッタンを走る高級車は、ボディーが汚れているケースが少なくない。室内は最低限の清掃はしているものの、日本のようにガソリンスタンドで徹底的にボディーを磨き上げるという感じではないのだ。どんな高級車であっても、アメリカ人にとってクルマは“移動のための道具”という意識が強いためではないだろうか。
欧州型のカーシェアは“路上駐車”が前提
では、マンハッタンから大西洋を渡って欧州の都市部はどうか?
LRTとともに、北欧では専用レーンがある次世代バス交通(BRT)を併用するケースが増えている。ライドシェアリングについては、一部の都市ではタクシー業界などの既得権益を守るため、行政によって導入が許可されていない。これは日本も同じだ。
次に道行くクルマの様子を見ると、こちらはアメリカと同じく、高級車のボディーのピカピカ具合で日本に劣っている印象だ。ただ、古き良き時代からの伝統あるホテルの送迎車などは、当然のごとくケアが行き届いており、内外装ともに奇麗なクルマが多い。
別の視点で欧州の都市部を見ると、とても気になることがある。それが路上駐車だ。止められているクルマのボディーは、前後バンパーなどに大きな傷がある場合が多い。なにせ、車間距離が数cmといったキュウキュウな状態で縦列駐車しているのだから、そこから脱出しようと思ったら前後のクルマを押しのけるしか手がない。結果的に、バンパーが傷ついてしまうのだ。
以前と比べて、そうした強引な駐車マナーはだいぶ減ったようだが、それでも日本では考えられないような、超過密な路上駐車をよく目にする。ヨーロッパの都市部では、集合住宅に駐車場が完備されていない場合が多く、路上駐車を容認する地域も多いのだ。
逆に、こうした路上駐車の事情から発想されたサービスが、メルセデスのCAR2GOとBMWのDriveNowだ。これらは、決められた地域内でなら、路上での“乗り捨て”が可能なカーシェアリングとして、急成長している。会員数はそれぞれ300万人と100万人で、車両台数は約1万4000台と6000台。ダイムラーとBMWは、両サービスの統合に向けて調整を進めている段階だ。
日本でも都市部を中心にカーシェアリングの普及が進んでいるが、指定の駐車場を発着することが基本であり、片道での利用は不可。そもそも路上駐車が法律で禁止されているため、欧州型のサービスは実施できないのだ。
日本ではなじみのないカンパニーカーという存在
もうひとつ、日本と欧米の都市部におけるクルマ事情の大きな違いは、カンパニーカーの存在だ。欧米企業では、中間管理職以上の幹部社員や役員に対する就業規定の一部として、通勤に利用する自動車を貸与する制度がある。これを一般的にカンパニーカーと呼ぶ。もちろん、週末に家族と一緒に出かける場合でも利用は可能だ。車種についても、幹部社員や役員なら、企業が設定する予算に応じて新車を選ぶことができる場合もある。
日本でもガソリン代や高速料金など、自動車に対する通勤手当はあるが、社長など経営陣の一部を除き、社員にクルマを丸ごと貸与するカンパニーカー制度を導入しているケースは稀(まれ)だ。一方で、欧米の都市部で目にする個人が乗る高級車の多くは、実はカンパニーカーなのだ。
昨今、都市部におけるクルマの話題というと、自動運転や通信によるコネクテッドサービスを使ったEVの活用など、ITを用いた革新的な技術が取りざたされることが多い。だが、そうした技術開発を進める上でも、現状における各都市でのクルマの使われ方を十分に理解する必要があるのではないだろうか。アメリカや欧州各国を巡りながら、あらためてそう感じた。
(文=桃田健史/写真=堀田剛資/編集=堀田剛資)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。