マツダ・アテンザ 開発者インタビュー
マツダロイヤルカスタマーを作りたい 2018.05.26 試乗記 マツダ株式会社商品本部 アテンザ担当主査
脇家 満(わきいえ みつる)さん
現行型「マツダ・アテンザ」が、デビュー6年目にして4回目の改良を受けた。過去に例を見ないほどの“ビッグマイナーチェンジ”は、なにを意図してのものなのか? マツダのフラッグシップモデルを進化させるという重責を担った、主査の脇家 満さんに話をうかがった。
フラッグシップは象徴
揺るぎない自信とアツい意気込みを感じた。マツダ・アテンザの事前取材会は、マイナーチェンジとしては異例なほどの充実ぶり。商品概要説明のほかに「デザイン」「クラフツマンシップ」「人馬一体」という3つのプレゼンテーションがあり、今回の改良について詳細な説明が行われた。アテンザ単体というよりは、マツダの技術やデザインが進む方向性と現時点での到達点をトータルにアピールするイベントのように感じられる。
――アテンザがフラッグシップモデルであるということを強調されていますね。
フラッグシップって、象徴じゃないですか。すべての機能が一番でなければならないということではありませんが、やはりあるタイミングでは一番になれるという状態でいるのがフラッグシップ。アテンザは2012年のデビュー以来4回目の改良になりますが、今回はビッグチェンジで通常進化の中でポテンシャルを見せていくということになると思いますね。
――マイナーチェンジとしては、かなり大がかりなものだと。
私はマイナーチェンジという言葉が大嫌いなんです。マイナーじゃないんですよ。一部商品改良といっても、今回はメジャーチェンジだと思って全員がやっていますし、ほぼフルモデルチェンジに近いと思っていますけどね。
――アテンザに限らず、マツダはどのモデルも毎年少しずつ改良していきますね。
「CX-5」から、そういうやり方になりました。新車が出て1年後にエンジンを変えるというようなこともしています。商品はエイジングしていきますから、新たに興味を持っていただいたお客さまにも、常に一番いい状態のものを買っていただきたいと思いますから。
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ゴージャスは目指さない
――ちょっとした変更だと、乗っても違いがよくわからないことがあるのでは?
それは当然あると思います。ことさらにアピールするのは好きではありません。私たちの考える理想状態があって、それにちょっとでもリーズナブルに提供できるのであれば出し惜しみしてはいけないでしょう。
――「一括企画」ということを提唱していますね。
次の世代をにらんで、機能の進化につながる研究開発を続けています。あらゆる領域で、要素要素の技術を使えるようになっています。たとえばサスペンションの動かし方では、タイヤの入力から体に伝わるまでどのように効率的・効果的にエネルギーマネジメントをするかということを考えています。その中で出てきたタイヤをサスペンション機能の中でもっと活用してやるという考え方は、次の進化に向けた技術開発で出てきたものを先取りして入れています。
――今回の改良で、何が一番大きく変わったんでしょう。
ひとことで言うと、すべてが上質になったと思っていただいていいでしょう。2ランク3ランク上がったというイメージがあるかもしれません。静粛性と乗り心地の面では、まだまだ足りてないと思っていました。これで、本来アテンザが目指すべき状態まで上がってきたかなあと思っています。
――アテンザはスポーティーなイメージもありますが、大人っぽさとか落ち着きも重視するということですか?
ゴージャスとかラグジュアリーを目指しているということは絶対なくて、やっぱり走る歓びを常に感じていただきたい。ハンドリングとか走りのよさは、きれいな道を走っている限り感じていただけます。でも、日常のシーンではうるさかったりデコボコだったりという場面にも遭遇してしまう。そういう時に走る歓びをスポイルしてしまうところをなんとかしたい。静粛性と乗り心地で、全体的な底上げをしたかったんです。以前とはクルマの動かし方も変わってきていますし、なおかつ乗り心地がよくなって静かになったと思います。そういう意味で、質が上がったと感じられるでしょう。
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デザインチームは世界一
――デザイン面でもかなり変化がありますね。
エクステリアでは、フロントとリアを大きく変えました。それだけでかなり印象が変わります。内装も素材の開発から取り組み、これまでやり残していたところを埋めることができたと思います。
――デザイナーさんの話がとてもロジカルだったのが印象的でした。
うちのデザイナーは機能的なことをちゃんと理解していますから、ロジカルに語れるんです。機能としてこれは必要だと言うと、それを消化した上で形にする。うちのデザインチームの力量は、世界一と言ってもおかしくないと思いますよ。変更のタイミングが遅くて、もっと早く言ってくれよと思うこともありますが(笑)。まあ、それは仕事ではよくあることで。
――マツダはCX-5をはじめとするSUVの販売が好調ですね。セダンについてはフォードが開発の終了を発表しましたし、あまり状況がよくないようですが……。
ビジネスではそうでしょう。ヨーロッパではステーションワゴンが主流ですし、売れているのはロシアぐらいですね。世界的にSUVがトレンドになっています。でも、アテンザがマツダのクルマづくりの中心にあるというのは、会社全体の意識なんです。マツダが持っている信念であり、伝統です。
――小飼社長も「セダンもしっかり開発する」と話していましたね。
SUVもすごくよくなりましたが、CX-5や「CX-8」で実現した状態をセダンに持ってくればもっとよくなります。重心が低くて限界が高いので、操る楽しさの面では有利です。マツダが訴求する走りの歓びがあるというのが重要ですね。
いつかはアテンザ?
――マツダというブランドは、今では技術とデザインで語られるようになりました。失礼ながら、15年前には想像もできなかったことです。
デザインが変わったと言われるのは、CX-5からですね。実際にはそれまでにも変化はあったんですが。顕著に表れたのは、やはり2012年のアテンザでしょう。開発の途中で「SHINARIコンセプト」が出て、そのエッセンスを入れようということになった。いろいろ難しいところはあったんですが、生産技術や工場の現場を含め、全社的にサポートしましたね。
――今回のアテンザについては、「最後のFFセダンになるのか」などと取り沙汰されていますが……。
それはわからないですよね。よくFFとかFRとかおっしゃる方はいますが、私たちはそんな記号性で物事を決めることはありません。いろいろな背景を考え、ロジカルな形でいろいろな可能性を排除せずに検討しているんです。もしかしたら、RRかもしれないし、すべてを四駆にしたいと思うかもしれない。
――FR化だとかロータリーエンジンの復活とか、マツダはそういう注目のされ方をしています。
それはポジティブなうわさだと思っています。そのように話題にしていただけるのはものすごくうれしいこと。社内のマインドは、いいクルマを作りたい、いい技術を作り上げたいという空気になっているのを感じますね。初代CX-5を開発している頃から、自分が仕事をしたかった状態が実現できています。自分たちが理想とするもののために何を課題にして取り組まなくてはならないのか、自分たち自身が設定してそれをみんなに理解してもらって合意して仕事を進める。そういう状態が今できているんですよね。それってものすごく健全なことで、エンジニアにとってはものすごくいい環境です。
――ユーザーの意識も変わってきて、好循環になっているように思えます。
小さいのは「アクセラ」で、大きいのはアテンザで、マツダの考え方をしっかり表現できている。マツダブランドを訴求して、私としてはその中でアテンザだとうれしいけれど、「デミオ」でも「CX-3」でもいいんです。マツダロイヤルカスタマーを作りたいんですよ。デミオから入ったお客さまが、将来自分を表現する上で別なクルマが欲しいという時にいろいろな選択肢がある。マツダのこれが欲しいと言っていただけるようにしたいんです。
――いつかはアテンザ、という感じですか。
そうかもしれないですね。そのフレーズを使うのが適当かどうかはわかりませんが(笑)、考え方としてはそういうことだと思います。
(文=鈴木真人/写真=田村 弥/編集=堀田剛資)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。