第506回:神仏習合発祥の地・国東半島に幻のレストランが登場!
「DINING OUT KUNISAKI with LEXUS」でアメージング体験
2018.06.14
エディターから一言
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食を通じて地方の持つ魅力を再発見する野外イベント「DINING OUT(ダイニングアウト)」の第13弾が2018年5月27~28日に大分県国東市で開催された。2日間だけ現れた幻のレストランに記者が参加、その様子をリポートする。
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開山1300年にふさわしいイベント
大分県の北東部、周防灘に面したところに、丸いこぶのように突き出た半島がある。国東半島だ。ここは、日本古来の神道と大陸から伝わった仏教とが融合する「神仏習合」発祥の地。島の中央にある両子山(ふたごやま)から延びる谷筋に沿って開けた6つの郷と、半島一体にある寺院群の総称を「六郷満山」と呼び、独特の山岳宗教文化が栄えてきた。
そんな国東において、2018年は開山1300年という節目にあたる年。そこで、「DINING OUT KUNISAKI with LEXUS」が開催される運びとなった。
ダイニングアウトは、会場へたどり着くまで行き先を明かされることのないミステリーツアーだ。
国東市にある大分空港から、里山が迫る道を30分ほど走っただろうか。緑濃い山道の中腹で送迎車を降り、導かれるがままにこけむした石段を登り始める。見上げると、石段は山の上のほうに向かって一直線に延びていた。
腰に手を当てながら文殊仙寺の山門をくぐり抜ける。聞けば330段も登ってきたらしい。右手に本殿文殊堂、左に目を移すと、台地状に切り開かれた場所に、白いクロスのかかったテーブルが見えた。
ここが会場だったのか!
木の根が太いツタのように大きな岩石に絡みつき、山の斜面をつかんでいる。長い長い年月を感じさせた。
茶の個性を愉しむ繊細な中華
大陸の文化と日本の文化が融合する国東、この地をイメージする料理ということで白羽の矢が立ったのは、「茶禅華(さぜんか)」の川田智也シェフだ。
和魂漢才をテーマに、ダイナミックに炎を操る中華の技と、和食の繊細な味わいとを融合させたコース料理は、刺激的でありながらも、とても滋味深いもの。体が欲する味わいとでも言おうか、どれも文句なしにおいしかった!
中でも、「爆米炸泥鰌(どじょうのおこげ揚げ)」には驚いた。
生きたままのどじょうを紹興酒に漬けて酔わせたところで、細かいおこげをまとわせて揚げている。どじょう1本に対してこのように丁寧な仕事を施した料理を見るのも初めてだったが、それにも増して驚いたのは、その食感。温泉で養殖されたどじょうは、骨まで柔らかく、サクサクとした衣の後に、フワッとした食感が広がる。しかも泥臭さがまったくない。
「冠地鶏四囍(冠地鶏 四つの味)」も忘れがたい。
冠地鶏のガラを使った無色透明のスープに、黄色い香港麺を合わせた、見た目はとてもシンプルな麺料理だ。
だが、このスープがすごかった。まったく雑味がなく、繊細で優しい味わいのなかに、しみじみと奥深い滋味がある。いつもポットに入れて持ち歩きたいと思ったほどだ。さらに、国東半島周辺の乾物を使用して作ったオリジナルのXO醤と毛ガニをあえたものを加えると、またひと味もふた味も違ったエキゾチックな味わいに変わった。
お茶の個性をこれほどまでに愉(たの)しめた回も初めてだ。
休憩所で味わった「翠峰」という翡翠(ひすい)色の冷たい台湾ウーロン茶に始まり、コース料理では、中国を代表する高級茶「太平猴魁(タイヘイコウカイ)」、福建の紅茶「薫香正山小種(ラプサンスーチョン)」など、料理ごとに違うお茶が提供され、それぞれの香りと味わいを愉しむことができた。
とりわけ印象深いのが茶禅華のオリジナルティー「玫瑰金芽紅茶(スパイスティー)」だ。金芽紅茶に、サイフォンでバラの花弁やレモングラス、シナモンなどの香りを移してあり、琥珀(こはく)色のお茶はまるで香水のようだ。スパイシーで甘やかな、とても品のある味わいに、酔ってしまいそうになった。
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市民の声から実現したダイニングアウト
川田シェフの料理や会場の演出がすばらしかったことは言うまでもないが、これまで4回にわたってリポートを続けてきた記者として、ぜひとも紹介したい事柄がある。というのも、今回の国東での開催は、主催者側が主導で行うものとは一線を画し、地元のいち市民が声を上げることで実現にいたったという経緯があるからだ。
発起人は、レストラン「国東食彩ZECCO」を営む、中園彰三さん。
国東に移住し、地元食材の発信に尽くせる店を目指して起業するものの、その後の道のりは容易ではなかった。ダイニングアウトを人づてに知り、この地でイベントを開催しようと、直接市長に呼びかけたのだ。
そもそも、国東という場所は、大分の中心地である大分市から約80km離れている。海上交通がすべてだった大昔とは違い、陸上交通ではなかなか外から人が入って来づらい、いわば現代の秘境的な側面を持っている。だからこそ1300年もの間、六郷満山という独自の文化が守られてきた。そしてその半島特有の文化は、人々の生活においても根強く残っていた。
「観光を含め食の力を共有、発信するためには小さな町の飲食店同士の横のつながりは必須だと感じていました。基本的に交流がないこの地域に、ダイニングアウトという形で、同じキッチン、同じ目標で仕事をし、生産者や行政と関わる舞台を実現したかったのです」(中園さん)。
中園さんの強い思いは、市を動かし、次第に多くの人たちの声となって、今回の開催へとつながっていく。
イベント開催から1週間後、再び中園さんに話を聞くことができた。
「国東のいいところは、とにかく人との距離が近いこと。ほとんどの方が、お互いに何かしらのつながりがあるんです。都会ではそれが煩わしく感じられることもあるでしょうが、この町では避けて通れません。それぞれの心が開かれ、つながりが生まれていけば、この町は大きく変わると思います。ダイニングアウトはまさにその役割と、そのきっかけになる経験を与えてくれました。わずか1週間ですが、その効果はとてつもなく強烈に響いています。参加者にとっては恐らく人生初のサプライズですね」
そして、最後にこう続けた。
「人が近いこと、囲まれていることは束縛ではなく喜びであること、それがこの町の財産だと思います」。
地域活性につながる新たな原動力へ
ダイニングアウト2日目は、「レクサスLC500h」で、八幡総本宮の宇佐神宮を参詣し、両子寺(ふたごじ)へと足を運んだ。
両子寺は、六郷満山の総持院として、かつて全山を統括してきた寺。お香の香り漂う境内には、奥の院本殿へと続く鳥居があり、神仏習合の証しが見て取れる。
受付に人の姿が見えなかったので、本堂で寺の奥さんとおぼしき人に拝観料を手渡す。すると「お昼がまだでしたら、住職とご一緒されませんか?」と声をかけられた。毎月28日は不動縁日で、護摩焚きと精進料理のおせったいが受けられることを後日知ったのだが、何の予約もなしに立ち寄ったにもかかわらず、思いがけなくお誘いを受けたことがうれしかった。
会場となった文殊仙寺での思いがけないはからいや、両子寺での出来事を思うと、新たな参拝者との交流を持ちながら寺を守り、六郷満山文化を後世にも伝えていきたいという、この地に根を張る人たちの思いが伝わってくる。
前述の中園さんからはこんな話を聞いた。
近年、国東では食材はもちろん、加工品や伝統工芸品、お祭りなど、派手さはないものの力強い魅力を放つものが、移住者とともに掘り起こされ始めているという。もともとあった自然や文化が多くの人を魅了し、地域の人たちが、確かな自信を持ち始めているようなのだ。
この地で実現したダイニングアウトもまた、地域の人たちの新たな自信となって、地域活性につながる原動力となっていくのかもしれない。
13回目となる国東での開催は、地域の人の声に端を発したという点において、このイベントが主催者主体のものから、ようやく地域に根付き始めたことを意味している。
新たな局面を迎えたダイニングアウトから、まだまだ目が離せない。
(文=スーザン史子/写真=スーザン史子、ワンストーリー)

スーザン史子
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