MINIクーパー 3ドア(FF/7AT)
これぞ完成型 2018.06.22 試乗記 マイナーチェンジを受けたMINIに試乗。お化粧直しもさることながら、今回の改良の“キモ”となるのはガソリンエンジンを搭載する主要モデルへの、デュアルクラッチ式トランスミッションの採用。新たなアイテムを得てMINIのキャラクターはどう変化した?“3本柱”がマイナーチェンジ
試乗車の「MINIクーパー 3ドア」のボディーカラーは、新色の「ソラリスオレンジメタリック」。人目を引く華やかさと上品さを兼ね備えていて、「小さな高級車」というMINIのキャラクターに似合っている。
2014年に登場した3代目MINIのうち、「MINI 3ドア」「MINI 5ドア」「MINIコンバーチブル」という“3本柱”がマイナーチェンジを受けた。マイチェンにあたっては、冒頭に記した新色の追加のほか、外観にいくつかの変更を受けている。
デイライトランニングランプがヘッドランプの周囲をリング状に囲うようになり、リアのコンビネーションランプがユニオンジャックをモチーフにした意匠に改められた。
というわけで、デビュー4年を経て、新鮮さを取り戻すためのお化粧直しかと思ってステアリングホイールを握ると、そんなに単純なものではないことがわかった。なかなかに中身の濃いマイナーチェンジだ。
マイチェンのキモは、「ジョンクーパーワークス(JCW)」を除くガソリンエンジン搭載モデルのトランスミッションが、従来のトルコン式ATから7段DCT(デュアルクラッチトランスミッション)に変更されたこと。7段DCTは、すでに「MINI ONE」が先行して搭載しているものだ。
参考までに、JCWには6段MTと8段ATが設定され、ディーゼルエンジン搭載モデルにはトルコン式の6段ATが組み合わされる。
新しいトランスミッションがMINIクーパー 3ドアの走りにどんな変化をもたらすのか。楽しみにしながら駐車スペースを出て真っ先に感じたのは、実はトランスミッションについてではなかった……。
DCTの出来栄えは文句なし!
駐車スペースを出て、路面の荒れた一般道を数十メートル走ったところで受けたファーストインプレッションは、「乗り心地がよくなっている!」というものだった。びっくりマークを付けたくなるぐらい、マイチェン前とは歴然とした違いがある。4本の足が巧みに伸びたり縮んだりして、路面から伝わるはずの衝撃の角を丸くしているのだ。
タイヤのおかげかも、と思ってチェックすると、205/45R17の「ピレリPゼロ」と、なかなかハードコアなタイヤを履いている。プレスリリースには足まわりの変更に関する記述はないけれど、乗り心地ははっきりと快適な方向に進化した。後述するけれど、同時にMINIらしいちょっとやんちゃなフィーリングとしっかり両立しているところに感銘を受けた。
で、7段DCTに関しては文句のない出来栄えだ。シームレスという言葉を使っても差し支えないほど変速のショックは感じないし、変速自体が素早い。念入りに観察すると、普通に走るかぎりスッスッスッと早め早めにシフトアップしていることがわかるけれど、変速がスムーズで迅速だから煩わしさは感じない。
一方、アクセルペダルを踏み込むと、程よい案配でキックダウンしてギアを落とし、欲しかった加速を手に入れることができる。試乗車にはパドルシフトは備わっていなかったけれど、アクセルペダルの踏み加減だけで適切なギアで走れるので、不満は感じない。
どうしても手動でのシフトが必要となれば、シフトセレクターを操作することになる。MINI/BMWの流儀で、シフトセレクターを手前に引くとシフトアップ、押し込むとシフトダウン。この動作については「逆のほうが操作しやすい」という好き嫌いもあるけれど、加速Gを感じてシートに体を押しつけられる状態で手前に引く、減速Gを感じて前のめりになる体勢で奥に押し込む、というMINI/BMW方式は、慣れると自然で、使い勝手がいい。
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快適でありながら“MINIらしさ”も失っていない
興味深いのは、7段DCTを採用した理由が、効率を上げて燃費をよくすることだというのに、JC08モード燃費を見ると悪化していることだ。
試乗したMINIクーパー 3ドアを例にとると、JC08モード燃費は6段ATの18.3km/リッターから、7段DCTでは17.7km/リッターへと、むしろ悪くなっている。ちなみに排気量1.5リッターの直列3気筒ターボエンジンは変わらない。
この件については、変速のタイミングなどトランスミッションの設定がJC08モード燃費の計測モードと相性が悪いことが理由で、欧州複合モードでの燃費は向上しているとのことだ。
このあたり、実際に使ったときの燃費で判断するほかないけれど、ドライブフィールに関しては文句の付けようがない。スムーズな変速がより上等なクルマになったと感じさせるし、電光石火の変速がクルマにさらなるスポーティーさを与えている。
乗り心地が快適になっていることを確認してから、ちょっとしたワインディングロードに足を踏み入れる。山道でも乗り心地のよさは変わらない一方で、わずかなステアリングホイールの操作にダイレクトに反応する、MINIらしいチャキチャキ感が失われていないことに感銘を受けた。
そう、どんなに快適になっても、このすばしっこいフィーリングがなくなったらMINIではなくなってしまう。
頭に浮かんだのは「角を矯(た)めて牛を殺す」という言葉で、MINIらしいとんがった感覚はしっかりと健在だ。
実利の大きいマイナーチェンジ
市街地や、真っすぐな道でスピードを上げるような場面では、コンパクトカーらしからぬ重厚感とともに快適に走る。曲がりくねった道では、チャキチャキと走る。だから、1粒で2度おいしくなった。
トランスミッションも、上品なスムーズさと切れ味の鋭いスポーティーさを兼ね備えている。微妙なアクセルのオン・オフを繰り返してもどのギアにエンゲージするかの“迷い箸”のそぶりを見せないから、チューニングもばっちりだ。
というわけで、新しいトランスミッションと足まわりの熟成は、「小さな高級車」というコンセプトを、さらに一段高いレベルのものにしたと感じた。
なお、短時間の試乗では細かく試すことがかなわなかったけれど、MINI ONE以外に標準装備されるMINI Connectedが提供する総合的なテレマティクスサービスも、「このサイズのクルマにこんな機能が付くのか」と驚かされる。
24時間いつでもサポートデスクと連絡を取ることができ、オペレーターがカーナビの目的地を設定してくれるほか、緊急時にはSOSボタンを押してコールセンターに連絡することもできる。
繰り返しになるけれど、「小さな高級車」が名実ともに完成の域に達したという印象を受けた。見た目がガラッと変わるような大がかりな変更ではないけれど、使う人にとってはうれしいことばかりの、実のあるマイナーチェンジであるというのが結論だ。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
MINIクーパー 3ドア
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3835×1725×1430mm
ホイールベース:2495mm
車重:1240kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:136ps(100kW)/4400rpm
最大トルク:220Nm(22.4kgm)/1480-4100rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88Y XL/(後)205/45R17 88Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:17.7km/リッター(JC08モード)
価格:312万円/テスト車=428万1000円
オプション装備:ボディーカラー<ソラリスオレンジメタリック>(6万9000円)/ブラックルーフ&ミラーキャップ(0円)/カメラ&パーキングアシストパッケージ(10万円)/PEPPERパッケージ(8万5000円)/Apple CarPlay&ワイヤレスパッケージ(13万3000円)/アドバンストテクノロジーパッケージ(12万円)/Studio styleエクステリア(15万円)/Studio styleインテリア(22万円)/LEDヘッドライト&LEDフロントフォグランプ(11万9000円)/アラームシステム(5万円)/ITSスポット対応ETC車載器システム内蔵自動防げんルームミラー(8万1000円)/MINIドライバーサポートデスク(3万4000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト車の走行距離:826km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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