第511回:カルマ・レヴェーロにホンダ・クラリティPHEV
“日本未導入”の最新エコカーをカナダで試す
2018.06.27
エディターから一言
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「カルマ・レヴェーロ」や「ホンダ・クラリティ プラグインハイブリッド」など、日本では(まだ)走っていない最新エコカーをカナダの地でドライブ。異国の地での“チョイ乗り”で得た印象をリポートする。
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日本では乗れないクルマに乗る
ミシュランが主催する、持続可能なモビリティーの形を模索する総合イベント「Movin’On」。その趣旨を考慮してか、モントリオール空港から宿泊先へのシャトルには、プラグインハイブリッド車(PHEV)などの電動カーが使われていたらしい。“らしい”というのは、私はその現場を見ていないからだ。飛行機が遅れて深夜0時30分にモントリオールについた記者は、シャトルではなくタクシーでホテルへと向かった。
とはいえ、おかげでロサンゼルス、ニューヨークに続き、モントリオールでもタクシーの主役が「トヨタ・プリウスα」であることを知れた。バルセロナやミュンヘンでもけっこうな数の“プリウスタクシー”が走っていたし、ことこの分野においては、いまだ「クラウン」や「セドリック」が主役を張っている日本より、欧米諸国のほうがいささか電動化が進んでいるようだ。私たちの知らないところで、“未来”は確実に世界に浸透している。
Movin’Onではさまざまな知見を持つリーダーの考えや、新しいビジネスのアイデアに触れられるが、モビリティーの根幹を成すのが移動という行為であり、ワープ技術が発明されない限り、ハードウエアが乗り物であることは変わらない。その意味で、こうした実体験は学者先生の講義などよりはるかに雄弁で、そこで得た印象は(仮にそれが誤ったものであっても)やすやすと拭い去れるものではない。座学だけでモビリティーを語るのは画竜点睛を欠く。
もちろん、そんなことは運営者も承知だったようで、会場には最新の環境対応車に試乗できる「Événement Ride & Drive」なるコーナーが設けられていた。供されていたのは、北米で売られている市販モデルである。時間は1枠30分、コースは会場周辺の公道という限られた条件下での試乗だったが、それでも日本では触れられない世界の電動車について知られる貴重な機会である。記者は取材の合間を縫って、極力多くのクルマに乗れるよう務めた。
デザイン命のPHEV
最初に試乗したのは、アメリカのPHEV、カルマ・レヴェーロである。カルマというのは、発火事故やら品質問題やらで倒産の憂き目にあったかつてのフィスカーを、中国の自動車メーカーが買い取って復活させたもの。その社名は、かつて販売していた唯一の市販モデルの名にあやかったものだ。そして、その“かつてラインナップしていたモデル”=発火事故を起こした「フィスカー・カルマ」と、現在市販しているカルマ・レヴェーロは、基本的に同じクルマとのこと。助手席の同乗スタッフに「試乗中に燃えたりしない?」と聞いたところ「HAHAHA!」とスルーされた。記者の英語が通じなかったのかもしれない。
このカルマ・レヴェーロ、特徴はなんといってもそのデザインである。抑揚ありまくりの前後フェンダーに、はうように低いルーフライン。写真で見ただけでは「ちょっと低い『テスラ・モデルS』」という印象だったが、実物は全然違う。あちらはセダン、こちらは4ドアのスポーツカーだ。プロダクトとしてのクオリティーはいささか残念なレベルで、チリの大きさ、プレスラインのエッジの立ち具合などはいずれも「もう少しがんばりましょう」なレベルだったが、このデザインの前には、そんなささいな欠点などどうでもよくなる。
低いルーフに頭をぶつけながら乗り込むと、インテリアもこれまた独特。詳しくはニューヨークショーでのギャラリーをご覧いただきたいが、ステアリングホイールもシフトセレクターもドアコンソールも、なんというか、一筋縄ではいかないデザインをしている。センターコンソールの小窓から見えるのは、バッテリー(の一部)だそうな。押しボタン式シフトセレクターも宇宙船チックで、微妙にSFやファンタジーの世界の自動車といった趣だった。
こうなると、走りについても「さぞや浮世離れしているんだろうな」と思われるかもしれないが、そちらについては至って普通というか、なんとも常識的だった。
時代に追いつかれたクルマ
そりゃあしかるべきコースで最高出力403hp、最大トルク1330Nm(!)を解放すれば全然違う景色が見られるのだろうが、今回の試乗コースはあくまで“生活道路”。交差点でのストップ&ゴーの繰り返しだ。適度な重さと自然な手ごたえのステアリングや、踏んだ分だけ利くブレーキに、「……普通にいいクルマですね」という以上の印象を見いだせなかった。パワープラントのシステムは「充電もできるシリーズ式ハイブリッド」なので、そちら方面の操作感は電気自動車(EV)そのもの。走行可能距離は、電気だけで50マイル(約80km)、燃料も含めると300マイル(約480km)である。
結論としては、カルマ・レヴェーロは10年前の未来のクルマだった。デザインは今なお奇抜でユニークだけど、操作インターフェイスは至って普通で、テスラのほうが提案に富む。そもそも、フィスカー・カルマがデビューした当時ならまだしも、いまとなってはPHEVもそこまで“未来”な存在ではない。そういう意味では、欠陥だメーカーの倒産・再生だと騒いでいるうちに、時代に追いつかれてしまったクルマなのだろう。せめて中身がハイパワーの純EVや燃料電池車に変わっていたら、もう少し違った見方で接せられたかもしれない。
とはいえ、デザインにパラメーターを全振りしたレヴェーロの、「エコカーでもこういうクルマが選べる」という存在意義は、決して小さくないと思う。特に日本だと、この手のクルマはやたらとコンセプトカーチックだったり、逆に普通すぎたりで、シンプルに「あ、カッコいい」と憧れられるクルマがない。テスラが売れたのは実用性を含むそのパフォーマンスに加え、(たとえ「パクリだ」「何番煎じだよ?」と言われるものであろうと)当時のジャガーやアストンマーティンに通じるカッコ良さがあったからだろう。「メーカーが込めた思い」とか「デザイナーのこだわり」とかどーでもいいので、いい加減、ホントにいい加減、日本のメーカーからも普通に「カッコいいかも」と思えるエコカーが出てほしいものである。
……などと思っていたら、次の試乗車は“日本のエコカー”、ホンダ・クラリティ プラグインハイブリッドだった。「クラリティ」といえば日本では燃料電池車だが、北米ではすでにEVもPHEVもラインナップされているのだ。
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短時間ですべてを確かめるのはムリ!
「Where are you from?」
「Japan」
「Realy? Do you like HONDA?」
「Off course!」(マイカーはダッジだけどね……)
やたら陽気なスタッフとそんな会話を交わしつつ、運転席にパイルダー・オン。コックピットドリルによると、「HV」スイッチをポチポチ押すことで、「EVモード」「HVモード」「チャージモード」の切り替えができるらしい。
先ほどのスタッフ氏がセンターコンソールを指さして「使イカタ分カル?」。もちろん無問題なのだが、「No problem」と答えたのに操作方法をざっと説明された。念押ししないといけないくらい、カナダではホンダ流のボタン式シフトセレクターはなじみがないのか? いや、単に(また)記者の英語が通じなかっただけかもしれない。無言の抵抗を示すため、ことさらに慣れたしぐさでパーキングを解除し、「D」レンジのボタンを押す。
ウインカーを出しつつ会場から公道へ出てびっくりした。「おお、日本車だコレ」。あまりに当たり前で、言葉にしてしまうと間抜けなことこの上ないが、右側通行の国で乗った左ハンドルのクルマなのに、操作感がまんま日本車だったのだから驚くのも許してほしい。手応え薄めのステアリングに、ちょっと踏んだらガっと利くブレーキ。このドライブフィールを地球の裏側で味わえるとは。なじむ、実に。なじむぞ。
クルマの動きもいささか意外で、車重が1843kg(北米仕様)もあるためか、見た目の印象とは裏腹に(失礼!)落ち着いている。試乗ルートには方々に穴ボコが開いた悪路も含まれていたが、そこでのバタつきはお値段3倍以上のカルマ・レヴェーロよりむしろ抑えられていた。うーむ。これが設計年次の差というヤツか。時間の流れは残酷である。
これまでの取材の記憶を呼び起こすに、クラリティ プラグインハイブリッドのパワープラントは確か「i-MMD」、要するに「アコード」系のものだ。最大の違いはもちろんシャシーと、2リッターから1.5リッターにダウンサイズされたエンジンなのだが、今回の試乗では案の定バッテリーが切れるようなことはなく、エンジンの音や振動に触れる機会はなかった。とはいえ、先ほどの「HV」スイッチを使えば充電のためにエンジンを始動させられたはず。日本導入の暁には、忘れずにそこをチェックさせていただくので、お許しあれ。
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ピックアップトラックをEVに
一方で、日本では未来永劫(えいごう)ゼッタイ乗れなそうなのがこちら、先代「フォードF-150」のコンバージョンEVである。手がけたのは、地元モントリオールのEcoTuned Automobileという企業だ。
「まだできたばかり」というシステムの概要は、この手のクルマではおなじみのもので、床下にバッテリーを敷きつめ、エンジンの代わりにモーターやコンバーター、コントロールユニットを積んでいる。ユニークなのが2段のオートマチックトランスミッションを搭載している点で、クルマがクルマだけに、積載やトーイング、登坂、悪路走行などに備えてのことらしい。
フルサイズピックアップトラックなんて日本でもそうそう乗る機会はないので、「ベース車と比べてどうだった」というお話はできないが、運転した感じは至って自然。パワーステアリングも付いているし、ちょっと前の電車みたいにカクカク加速することもない。コンバージョンEVと聞いて危惧するような、デキの悪い挙動、痛痒(つうよう)を覚える欠点などは見られなかった。
今回は試せなかったが、動力性能も必要十分といった感じだ。資料によると、モーターのアウトプットは214hpの380Nm、0-100km/h加速は12.6秒、最高速は170km/hだそうである。ただ、140kmという走行可能距離はどうなんでしょう? カナダ人のカーライフを知らないのでなんともいえないが、日本での商用バンよろしくピックアップが走っているお国である。行動範囲の決まったビジネスユースなら、問題ないのかもしれない。
同乗したスタッフによると、このシステムは試乗したフォードF-150だけでなく、GMの「シボレー・シルバラード/GMCシエラ」、クライスラーの「ラム」などにも対応しており、ゆくゆくはカナダだけでなくアメリカへもビジネスを広げたいとのこと。ただ、1台あたりの具体的な改造費用は教えてくれなかった。記者が仏語なまりの英語を聞き取れなかっただけかもしれないが。
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サスティナビリティーと無味乾燥な未来は同義ではない
もらった資料を広げてみると、「2.5年でモトがとれる」とか、「メンテナンスコストを54%抑えられる」とか、「モーターは100万km走っても大丈夫」とか、そのメインターゲットは明らかに個人ではなくビジネスユーザーだ。また、北米のピックアップトラック市場は日本では考えられないくらい規模が大きく(前ページで挙げた3車種だけでも、アメリカでの新車販売台数はおよそ200万台である)、新旧合わせ、数え切れないほどの個体が北米の道を走っている。
何かにつけて、日本の現状を根拠に早計な判断を下すのが記者の悪いクセだが、この件についてはあらゆる点で日本の事例とかけ離れている。今回ばかりは「でも日本ではコンバートEVなんて趣味の域を出ないんだぜ」という言葉を飲み込み、かの地でのビジネスの行く末を観察したいと思った。
今回のMovin'Onにおいて、記者はここで紹介したクルマを含め、都合4台のエコカーに試乗した。クルマの空き状況の確認やら枠の予約やらで、けっこうな時間「Événement Ride & Drive」の受付カウンターに入り浸っていたのだが、そこで感じたのは「海外の人は、持続可能な未来について前向きなんだな」という印象である。日本でサスティナビリティーというと、すぐに節約の話になり、ガマンが最善の解決策みたいな空気が漂う。ただ、カルマ・レヴェーロに触れ、カウンターのお姉さんから「試乗車のなかでは『BMW i8』が一番人気なの」と聞き、誇らしげなEcoTunedの関係者と話をするにつれ、やっぱり「持続可能なモビリティーと無味乾燥なカーライフ/カービジネスは同義ではないよな」と思い至った。
日本では、GLMがEVスーパーカー「G4」のプロジェクトを縮小するなど、相変わらず世知辛い話が耳に入ってくる。電動カーの旗手を自認するのであれば、いい加減こうした空気も変わっていってほしい。
(文と写真=webCG 堀田)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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