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もはや人ごとではない?
欧州で再燃するディーゼル不正問題

2018.07.11 デイリーコラム 鶴原 吉郎

今度は高級車メーカーが発火点に

一時は沈静化したかに見えた欧州のディーゼル不正問題が、ここにきて再燃している。

今度の発火点はドイツの高級車メーカーだ。最初に火がついたのはBMWである。2018年3月20日に、ドイツ・ミュンヘンの検察当局が、排ガス不正に関連してBMWの本社を捜索したと発表したのだ。捜索の理由は、ディーゼル不正事件の発端となったフォルクスワーゲンと同様、台上試験の時だけ排ガス中の有害物質を少なくする不正ソフトウエアを搭載していた疑いである。これに先立つ2018年2月、BMWは2012~17年に生産した「5シリーズ」や「7シリーズ」のディーゼル仕様車の一部、合計約1万2000台に「誤ったソフトウエアが搭載されている」としてリコールを発表していた。

2018年6月11日にはドイツの連邦政府が、ダイムラーに対して欧州全体で77万4000台をリコールするように指示した。ディーゼル車に不正なソフトウエアを搭載していると認定したためで、リコール命令に先立ってドイツの運輸相とダイムラーのディーター・ツェッチェCEOは2度会談したと伝えられている。ダイムラーはリコールの対象となった車種が不正なソフトを搭載していたとは認めていないが、疑いを持たれた動作を修正するようにエンジンのソフトを書き換える。

そして同じ6月の18日、フォルクスワーゲングループの一員であるアウディのルパート・シュタートラーCEO(最高経営責任者)が、ミュンヘン地方検察庁によってインゴルシュタットの自宅で逮捕された。逮捕の理由としてミュンヘン地検は、シュタートラーCEOが排ガス不正問題に関する捜査を妨害する懸念があることを挙げている。同氏がCEOの地位を利用して、他の証人の証言内容に影響を与えようとする恐れがあるという。

BMWがリコールの対象としているのは2012年から2017年に製造された「5シリーズ」と「7シリーズ」の一部のディーゼル車。報道によると、BMWは「手違いによって誤ったソフトウエアが搭載されたもので、意図的なものではない」としているという。
BMWがリコールの対象としているのは2012年から2017年に製造された「5シリーズ」と「7シリーズ」の一部のディーゼル車。報道によると、BMWは「手違いによって誤ったソフトウエアが搭載されたもので、意図的なものではない」としているという。拡大
ダイムラーがリコールを命じられたモデルは、商用車の「メルセデス・ベンツ・ヴィト」(写真)と「Cクラス」「GLC」の3車種。CクラスとGLCのディーゼル車については、日本でも販売されている。日本でもリコールが行われるのか、インポーターによる報告が待たれる。
ダイムラーがリコールを命じられたモデルは、商用車の「メルセデス・ベンツ・ヴィト」(写真)と「Cクラス」「GLC」の3車種。CクラスとGLCのディーゼル車については、日本でも販売されている。日本でもリコールが行われるのか、インポーターによる報告が待たれる。拡大
検察によって逮捕された、アウディのルパート・シュタートラーCEO。写真は2018年5月9日に行われた年次総会でのもの。
検察によって逮捕された、アウディのルパート・シュタートラーCEO。写真は2018年5月9日に行われた年次総会でのもの。拡大

かの地のメーカーが不正に手を染めた理由

BMWとダイムラーは依然として不正なソフトウエアを搭載したとは認めていない。しかしこれら一連の動きがはっきりと示しているのは、依然としてディーゼル不正事件は終わっていないということだ。それどころか、今後も拡大する可能性さえある。

今回のディーゼル不正事件が発覚するきっかけとなったのは 2014年11月に米国のICCT(International Council on Clean Transportation)という環境団体が発表した一つのリポートだった。このリポートは、完成車メーカー6社・15車種のディーゼル乗用車にポータブルタイプの排ガス試験装置を搭載し、実際の道路上を走行させて有害物質の排出量を測定したもので、驚いたことに、15車種の中で欧州の最新の排ガス基準である「ユーロ6」のNOx排出基準を満たしていたのはわずか1車種で、他の車種はすべて、基準値を大幅に超えていたのである。そのうちの2車種は基準値の20倍以上を排出しており、その2車種ともがフォルクスワーゲン製であったことが不正発覚の端緒となった。

ドイツのメーカーに不正が集中するのは偶然ではない。フォルクスワーゲンの事件の全容は依然として捜査中だが、現在までに多くの暴露本などで明らかになったのは、同社の世界一の完成車メーカーを目指す拡大主義と、そのためには手段を選ばない法令軽視の姿勢、そして上司の命令には逆らえない強権的な企業風土である。こうした企業風土は、多かれ少なかれドイツの企業に共通する。

しかも、欧州では高級車種ほどディーゼル比率が高い。高級車でも手動変速機を搭載する場合が多い欧州では、トルクの大きいディーゼルエンジンのほうが変速の頻度が少なくて済み、また燃費がいいので長距離移動でも給油の手間を減らせるからだ。つまり欧州の高級車市場ではディーゼルこそが主戦場なのであり、激烈な競争領域であるからこそ、不正に手を染める土壌と動機がある。

ドイツメーカーによる一連の排出ガス不正疑惑は、2015年にフォルクスワーゲンによる不正が発覚したことに端を発する。この問題について、ドイツのブラウンシュバイク検察当局は2018年6月13日、フォルクスワーゲンに10億ユーロ(約1300億円)の罰金を支払うよう命令。この命令をフォルクスワーゲンが受諾したことから、同社の規制違反にかかわる手続きはひと段落することとなった。写真はディフィートデバイスが搭載されたとされる「EA189」型2リッターディーゼルターボエンジン。
ドイツメーカーによる一連の排出ガス不正疑惑は、2015年にフォルクスワーゲンによる不正が発覚したことに端を発する。この問題について、ドイツのブラウンシュバイク検察当局は2018年6月13日、フォルクスワーゲンに10億ユーロ(約1300億円)の罰金を支払うよう命令。この命令をフォルクスワーゲンが受諾したことから、同社の規制違反にかかわる手続きはひと段落することとなった。写真はディフィートデバイスが搭載されたとされる「EA189」型2リッターディーゼルターボエンジン。拡大
一連の捜査で不正が認められたのは、「EA189」型と第3世代の「EA288」型(写真)のエンジンを搭載したディーゼル車である。これらのモデルは、2007年半ばから2015年までの間に、グローバルで1070万台が販売された。なお10億ユーロの罰金の内訳は、500万ユーロが制裁金、9億9500万ユーロが不正に得た利益の返還金とされている。
一連の捜査で不正が認められたのは、「EA189」型と第3世代の「EA288」型(写真)のエンジンを搭載したディーゼル車である。これらのモデルは、2007年半ばから2015年までの間に、グローバルで1070万台が販売された。なお10億ユーロの罰金の内訳は、500万ユーロが制裁金、9億9500万ユーロが不正に得た利益の返還金とされている。拡大

他国のメーカーにとっても“人ごと”ではない

先ほども触れたように、ディーゼル不正事件が今後もドイツ企業だけでとどまるかどうかは予断を許さない。それを示すのが、ディーゼル不正事件が発覚するきっかけとなったICCTが2017年9月に発表したリポート「ROAD TESTED: COMPARATIVE OVERVIEW OF REAL-WORLD VERSUS TYPE-APPROVAL NOx AND CO2 EMISSIONS FROM DIESEL CARS IN EUROPE」だ。

このリポートは、欧州のディーゼル車の環境基準値と実走行時のNOx排出量、およびカタログ燃費と実走行燃費がどの程度違うかを調査したもの。そによれば、ユーロ6基準に適合した車種の中で、NOxの実走行時の排出量と基準値の乖離(かいり)が最も大きかったメーカーはフランス・ルノーで、基準値の10倍以上を排出していた。このほか乖離の大きいメーカーはルーマニア・ダチアや日産など、ルノー製ディーゼルエンジンを積むメーカーと、FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)のフィアットやアルファ・ロメオなどだ。ルノーやフィアットも、これまでにディーゼル不正での疑惑が指摘されており、事件はさらに拡大する可能性もある。

(文=鶴原吉郎/写真=BMW、FCA、アウディ、ダイムラー、フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)

CO2排出量とNOx排出量の実走行時と認証値および環境基準値の差。縦軸がCO2(何%多いか)、横軸がNOx(基準値の何倍か)の乖離。(出典:ICCTが2017年9月に発表したリポート「ROAD TESTED: COMPARATIVE OVERVIEW OF REAL-WORLD VERSUS TYPE-APPROVAL NOx AND CO2 EMISSIONS FROM DIESEL CARS IN EUROPE」)
CO2排出量とNOx排出量の実走行時と認証値および環境基準値の差。縦軸がCO2(何%多いか)、横軸がNOx(基準値の何倍か)の乖離。(出典:ICCTが2017年9月に発表したリポート「ROAD TESTED: COMPARATIVE OVERVIEW OF REAL-WORLD VERSUS TYPE-APPROVAL NOx AND CO2 EMISSIONS FROM DIESEL CARS IN EUROPE」)拡大
FCA製の1.3リッターディーゼルターボエンジン。欧州メーカーのディーゼルエンジンを日系メーカーが採用している例としては、ルノーのユニットを採用する日産や、FCAのそれを採用するスズキなどが挙げられる。欧州メーカーの排出ガス不正疑惑は、日系メーカーにとって人ごとではないのだ。
FCA製の1.3リッターディーゼルターボエンジン。欧州メーカーのディーゼルエンジンを日系メーカーが採用している例としては、ルノーのユニットを採用する日産や、FCAのそれを採用するスズキなどが挙げられる。欧州メーカーの排出ガス不正疑惑は、日系メーカーにとって人ごとではないのだ。拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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