メルセデス・ベンツG550(4WD/9AT)/メルセデスAMG G63(4WD/9AT)
40年目のセルフカバー 2018.07.17 試乗記 今やアイコン的存在となっているメルセデス・ベンツのクロスカントリーモデル「Gクラス」。新設計のボディーやフロント独立懸架の足まわりを得て、劇的な進化を遂げたというニューモデルの出来栄えを、“オン”と“オフ”の両方で確かめた。変わらないことに意味がある
東京ほどメルセデス・ベンツのGクラスを頻繁に見かける街はないだろう。表参道でも六本木でも、いたるところでGクラスが黒光りしている。「1979年にNATO軍に制式採用された」という史実を踏まえて(“正式”採用ではないところがミソ)サバイバルゲーム愛好家が乗っているなんてことはなく、東京で見かけるGクラスにお乗りなのは、ファッション誌で見かけるようなおしゃれな方ばかりだ。実際、周辺でもカメラマンとかコピーライターとかスタイリストとかDJとか、流行に敏感な方がGクラスに乗っている。
新しいトレンドを追いかける人々が、なぜ79年から基本的な形と構造を変えないGクラスに乗るのか? 思うに、新しいモノを求めて動き回る人こそ、いつまでも変わらないGクラスが必要なのではないだろうか。世界を旅する船が母港に錨(いかり)を下ろす時のように、Gクラスのステアリングホイールを握るとホッとするのだ。流行を追いかけながらその一方で、変わらないGクラスに乗るからバランスがとれる。
ファッション関係の仕事に就く知人のAさんも、念願かなってGクラスを購入したひとりだ。けれども実は、Aさんから「ゲレンデが欲しいんだけど……」という相談を受けた時は、羽交い締めにして思いとどまるように説得した。メルセデスの「Eクラス ステーションワゴン」に乗るAさんが、ベルベットのように滑らかな乗り心地を好むことをよ~く知っていたからだ。「ゲレンデは乗り心地がゴワゴワするからよしといたほうがいいと思いますよ」。
説得むなしく、AさんはGクラスを購入した。笑ってしまったのはしばらくしてAさんに会ったら、GクラスがBMWの「5シリーズ ツーリング」に替わっていたことだった。Aさんは、デヘヘと照れ笑いをした――。
すっかり枕が長くなってしまいましたが、そのGクラスが刷新された。まず日本に導入されるのは4リッターV型8気筒直噴ツインターボのガソリンエンジンを積む「G550」(最高出力422ps)と、「AMG G63」(最高出力585ps)の2モデル。ディーゼルエンジン搭載モデルは開発中のため、しばらくは従来型の「G350dブルーテック」が併売されるという。
試乗した2モデルのうち、オフロード走行も体験できたG550をメインにリポートしたい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
2つのイメージがうまくまとめられている
メルセデス・ベンツG550のまわりを一周。従来型に比べて全長がプラス53mm、全幅がプラス64mm。試乗会場には比較試乗用の従来型も用意されていて、見比べるとひとまわり大きくなったことよりも、全体にやわらかい雰囲気になったことの方が印象に残る。フロントのヘッドランプまわりの表情がファニーになり、リアビューもほんの少しではあるけれど丸みを帯びた。ただし、全体にはゲレンデらしさを継承しており、クルマに詳しくない方は新型と従来型の区別がつかないはずだ。
「戦地ですぐに交換できるから」という理由で、従来型の窓ガラスは平板な形状だった。新型もそれを踏襲して板ガラスのように見えたけれど、実際はわずかに湾曲しているという。
運転席に乗り込んで真っ先に感じることはふたつ。まず、運転席と助手席の間隔が広くなった。ボディーサイズの拡大によって居住空間には余裕が生まれており、左右方向だけでなく、後席レッグルームにいたっては従来型比で150mmも広くなっている。
次に、インストゥルメントパネルが一気にモダンになったことが目を引く。メルセデス・ベンツの最新の流儀にのっとり、12.3インチのワイドな液晶パネルを2枚組み合わせたインパネは、泥や土とはかけ離れたお上品な雰囲気。一方、センターコンソールにはデフロックのスイッチが3つ並ぶほか、助手席前方にはがっしりとしたグリップが備わる。「モダン」と「ヘビーデューティー」が同居する二世帯住宅の格好になっているけれど、両者は仲良くやっていて、ひとつ屋根の下、デザインはうまくまとまっている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
劇的に変わったオンロードでのマナー
出発しようとドアを閉めて、ハッとする。「ガキン」という金庫でも閉めたかのような音が従来型そのままだったからだ。たまたま、初夏に従来型Gクラスで北海道を走りまわるという取材があり、筆者の体には従来型の感触がしみこんでいた。ドアを閉める音と、走りだして速度感応式ドアロックが作動する際に発する「ガッシャーン」という大げさな音は、まんま従来型と同じだ。
試乗会場周辺の狭いワインディングロードを走って、なるほど、と思う。外観や音はいままで通りを狙っているものの、乗り心地や身のこなしは明らかにイマ風になっているからだ。
新型Gクラスの構造を簡単におさらいすると、頑強なハシゴ型フレームからサスペンションが生え、そこにボディーをかぶせるラダーフレーム構造は従来と変わらない。リアサスペンションも従来通りのリジッドアクスルであるいっぽうで、フロントサスペンションは独立懸架のダブルウイッシュボーンに改められた。また、ステアリング形式も従来のボール&ナット式を廃し、より現代の乗用車的なラック&ピニオン式を採っている。
そういった変更もあって、まずステアリングホイールを操作すると、すっと向きを変えるようになった。さすがにスパッと向きを変えるというのとは異なるけれど、それでも操舵してから車体が向きを変えるのを待つタイムラグはなくなった。実際に約170kgものダイエットをはたしていることもあって、「よっこらしょ」とコーナーを曲がっていたGクラスが、随分と身軽に曲がるようになった。軽やかなドライブフィールには、たっぷりとしたトルクを提供してくれる4リッターV8ツインターボの余裕と、ドライバーの意思をリニアに反映して変速してくれる賢い9段ATも大いに寄与している。
乗り心地も目を見張るほどよくなった。従来のGクラスは、路面の凸凹に対して真っ正直に挑んでいて、常に衝突とあつれきが絶えなかった。ところが新型は、凸凹をいなして、乗員に届く衝撃の角を丸くする大人の振る舞いを身につけている。大げさに言うと、「ラダーフレーム構造の乗り心地に対する常識を覆した」とも言える乗り心地だ。
ふんわり軽く、マイルドな乗り味になれば悪路を走破する能力は落ちているのではないかと考えたくなるが、そちらはどうか。試乗ステージをオフロードのセクションへ移す。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
本領を忘れてはいない
従来型と新型を乗り比べたオフロード試乗で得た結論から書けば、悪路走破性能はまったく衰えていない。見上げるような登り勾配も、横転するんじゃないかというコブ斜面も、大きくアシを伸び縮みさせながら、ノーマルの状態で楽々と走破する。
軽く滑っても、3つ並んだデフロックのスイッチの真ん中(センターデフロック)を押せば挙動は落ち着きを取り戻す。試乗した日はあいにくの大雨で路面はぬかるんでいたけれど、右端のスイッチ(リアデフロック)を押したのは一度だけ。左端のフロントデフロックは最後まで出番はなかった。
新型と従来型を比べると、悪路の走破能力に違いは見られない。資料をあたれば、走破能力の指標であるデパーチャー、アプローチ、ランプブレークオーバーの3つのアングルは新型がわずかながら向上している。
オフロードを走って「おや?」と思ったのは、走破能力よりも乗り心地。新型のほうが、路面から「コツン、コツン」というショックを感じた。不快というほどではないけれど、オンロードでは乗り心地がよくなり、オフロードではわずかながら悪化している点が興味深い。
ちなみに、ステアリング形式がラック&ピニオンになったことに起因する、ステアリングホイールへのキックバックの増加は感知できなかった。
ここまでパワートレインについて触れていないけれど、最高出力422psの G550で十分以上によく走る。最高出力585ps のAMG G63になると、何か悪いことをしていると思うくらいの加速を感じることになる。AMG G63は音までレーシーにチューンされていて、目線の高いスーパースポーツに乗っているという不思議な感覚を味わうことになる。ただし、いずれのエンジンも高速道路を試していないので、どちらが好ましいか、どうすみ分けるのかという判断は、もう少し付き合ってからにしたい。
オフロードでのタフな性能は失わないまま、オンロードでの快適性と扱いや差を手に入れた新型Gクラスは、オフロード愛好家とおしゃれ派の両方が満足できる内容だった。
おもしろいと思ったのは、昔の味わいを残すために最新技術を投入していること。普通のクルマはモデルチェンジに際して新しさを追求するのが常識だ。それなのに、あえてとどまろうとするGクラスは独特の存在だと痛感した。事実、型式も従来型の「W463」のままで変わらないし、メルセデス・ベンツ日本のプレスリリースにも「モデルチェンジ」の文字はない。
音楽の世界では、ミュージシャンが自身のかつての名曲を現代的に解釈し直すセルフカバーというジャンルがある。新しいGクラスもまっさらの新曲ではなく、メルセデス・ベンツによるセルフカバーだというのがこの日の結論だ。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツG550
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4817×1931×1969mm
ホイールベース:2890mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:422ps(310kW)/5250-5500 rpm
最大トルク:610Nm(62.2kgm)/ 2000-4750 rpm
タイヤ:(前)275/50R20 113V M+S/(後)275/50R20 113V M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:--km/リッター
価格:1562万円/テスト車=1700万円
オプション装備:AMGライン(90万円)/AMGカーボンファイバーインテリアトリム(48万円)
※数値は欧州仕様参考値。
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:906km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
メルセデス・ベンツG550
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4817×1931×1969mm
ホイールベース:2890mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:422ps(310kW)/5250-5500 rpm
最大トルク:610Nm(62.2kgm)/ 2000-4750 rpm
タイヤ:(前)275/50R20 113V M+S/(後)275/50R20 113V M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:--km/リッター
価格:1562万円/テスト車=1736万円
オプション装備:ボディーカラー<designoダイヤモンドホワイト[メタリックペイント]>(36万円)/AMGライン(90万円)/AMGカーボンファイバーインテリアトリム(48万円)
※数値は欧州仕様参考値。
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:162km
テスト形態:オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
メルセデスAMG G63
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4873×1984×1966mm
ホイールベース:2890mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:585ps(430kW)/6000 rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2500-3500 rpm
タイヤ:(前)275/50R20 113W/(後)275/50R20 113W(ピレリ・スコーピオンゼロ アシンメトリコ)
燃費:--km/リッター
価格:2035万円/テスト車=2161万円
オプション装備:ボディーカラー<designoマグノプラチナムマット[AMG世田谷専用色]>(0円)/AMGレザーエクスクルーシブパッケージ(78万円)/AMGカーボンファイバーインテリアトリム(48万円)
※数値は欧州仕様参考値。
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1005km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ ヴォランテ(FR/8AT)【試乗記】 2026.3.14 英国の名門、アストンマーティンの旗艦車種「ヴァンキッシュ」に、待望の「ヴォランテ」が登場。5.2リッターV12エンジンを搭載した最上級コンバーチブルは、妥協のないパフォーマンスと爽快なオープンエアのドライブ体験を、完璧に両立した一台となっていた。
-
プジョーE-3008 GTアルカンターラパッケージ(FWD)【試乗記】 2026.3.11 「プジョー3008」の電気自動車版、その名も「E-3008」が日本に上陸。新しいプラットフォームに未来感あふれるボディーをかぶせた意欲作だが、その乗り味はこれまでのプジョーとは明らかに違う。ステランティスのような大所帯で個性を発揮するのは大変だ。
-
ジープ・アベンジャー アップランド4xeハイブリッド スタイルパック装着車(4WD/6AT)【試乗記】 2026.3.10 「ジープ・アベンジャー」のラインナップに、待望の「4xeハイブリッド」が登場。既存の電気自動車バージョンから、パワートレインもリアの足まわりも置き換えられたハイブリッド四駆の新顔は、悪路でもジープの名に恥じないタフネスを披露してくれた。
-
三菱デリカD:5 P(4WD/8AT)【試乗記】 2026.3.9 デビュー19年目を迎えた三菱のオフロードミニバン「デリカD:5」がまたもマイナーチェンジを敢行。お化粧直しに加えて機能装備も強化し、次の10年を見据えた(?)基礎体力の底上げを図っている。スノードライブを目的に冬の信州を目指した。
-
ホンダCB1000F SE(6MT)【レビュー】 2026.3.7 ホンダから満を持して登場した、リッタークラスの4気筒マシン「CB1000F」。往年のCBをほうふつさせるスタイルと、モダンなパフォーマンスを併せ持つネイキッドスポーツは、先行するライバルを追い落とすことができるのか? ホンダ渾身(こんしん)の一台の実力に触れた。
-
NEW
ホンダの「スーパーONE」はどんなカスタマーに向けたBEVなのか?
2026.3.18デイリーコラムホンダが2026年に発売を予定している「スーパーONE」は「N-ONE e:」をベースとした小型電気自動車だ。ブリスターフェンダーなどの専用装備でいかにも走りがよさそうな雰囲気が演出されているが、果たしてどんなカスタマーに向けた商品なのだろうか。 -
NEW
モト・グッツィV7スポルト(6MT)【レビュー】
2026.3.18試乗記イタリアの名門、モト・グッツィのマシンのなかでも、特に歴史を感じさせるのがロードスポーツの「V7」だ。ファンに支持される味わい深さはそのままに、よりスポーティーにも楽しめるようになった最新型の実力を、上級グレード「V7スポルト」に試乗して確かめた。 -
NEW
第105回:「フェラーリ・ルーチェ」のインテリア革命(後編) ―いきすぎたタッチパネル万能主義に物申す!―
2026.3.18カーデザイン曼荼羅巨大ディスプレイ全盛の時代に、あえて物理スイッチのよさを問う! フェラーリのニューモデル「ルーチェ」のインテリアは、へそ曲がりの逆張りか? 新しい価値観の萌芽(ほうが)か? カーデザインの有識者とともに、クルマのインターフェイスのあるべき姿を考えた。 -
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)/RAV4アドベンチャー(4WD/CVT)【試乗記】
2026.3.17試乗記「トヨタRAV4」が6代目へと進化。パワートレインやシャシーの進化を図ったほか、新たな開発環境を採用してクルマづくりのあり方から変えようとした意欲作である。ハイブリッドの「Z」と「アドベンチャー」を試す。 -
クルマの内装から「物理スイッチ」が消えてタッチパネルばかりになるのはどうしてか?
2026.3.17あの多田哲哉のクルマQ&A近年、多くのクルマの車内では、物理的なスイッチが電気式のタッチパネルに置き換えられている。それはなぜなのか? トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに理由を聞いた。 -
いまこそ、かき回したい! 新車で買えるおすすめMT車はこれだ!
2026.3.16デイリーコラム改良型「トヨタ・ヤリス」に、新たに6段MTモデルが設定された。現実的にMT車はレアであり、消滅する可能性もある時代だが……。これを機に、いま新車で買えるMT車のなかで、特におすすめできるモデルをピックアップしてみよう。




















































