第1回:トヨタ・クラウン(前編)
2018.08.29 カーデザイナー明照寺彰の直言 拡大 |
現役のカーデザイナーが話題のニューモデルのデザインを語る。記念すべき第1回のテーマは、国産車の中でも有数の歴史と伝統を誇る高級セダン「トヨタ・クラウン」。オーナー層の若返りという使命を帯びた新型の造形には、デザイナーの苦悩と葛藤が表れていた。
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厳しい規制の中で、変化を求められる
自動車デザインは、工業デザインの中でもかなり特殊だ。まずサイズがかなり大きく、とても目立つ。自力で公共の道路を移動可能なため、あらゆる場所で見ることができる。自己所有できるため、カタチそのものが深い愛情の対象にもなる。
ところが自動車デザインは、「個々人の好みの問題」として、しばしば評価の対象外とされる。それを言ったら、他のあらゆる性能も好みの問題ではないか。自動車デザインにも、良しあしの基準があっていいのではないか。たとえその基準が、時代とともに鵺(ぬえ)のように変わろうとも。
ただ、自動車デザインの評価は、他の性能評価よりも難しい。自動車の運転の専門家は数多いが、自動車デザインを実践しているのは、ごく限られた自動車デザイナーだけ。実際に自動車デザインに携わっている人が、忌憚(きたん)なく他車のデザインを評価することは、めったにない。つまり、真の専門家の本音を聞くことが難しい。それが、自動車デザインが「好みの問題」として片付けられる、ひとつの要因かもしれない。
当連載の趣旨は、今まさに自ら線を引いている現役の自動車デザイナーに、さまざまな新型車のデザインについて、率直な意見を聞くという、単純明快なものである。
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明照寺彰(以下、明照寺):はじめまして。よろしくお願いします。
永福ランプ(以下、永福):早速ですが明照寺さん、今回は新型クラウンのデザインについて、現役自動車デザイナーとして、忌憚のないご意見をば。
明照寺:クラウンは今回が15代目ですけど、すごく歴史が長くて、国内専用車ですよね。やってるほうにすれば、相当大変だろうなと強く感じます。
永福:担当するのが気が重いクルマですか。
明照寺:あんまりスポーティーにしすぎても違うだろうし、ただ変化をしなければこれまでと変わらない。それで15代も続いている。自分はそういうクルマを担当した経験はないですが(笑)、すごく苦労しているだろうなと。
永福:がんじがらめなのに、成果だけは求められるわけですね。
“スポーティネス”と“クラウンらしさ”のせめぎあい
明照寺:まずサイドビューを見てみましょう。今回のクラウンは“クーぺライク”ですよね。最近、北米などではそうしたセダンが主流なので、多くのセダンがクーペライクに、要はシックスライトになっているんですけど、「ホンダ・アコード」や「シボレー・マリブ」と比べると、クラウンのほうが静的に感じると思います。
永福:確かに。
明照寺:というのも、シルエットを見ていただくと、アコードやマリブは、後方に向けてルーフが下がっていくとともに、ボディー底部がはね上がっていますよね。これでリアまわりを軽快にしている。それがスポーティーということなのかな、と思います。ところが今回のクラウンを見ると、上(ルーフ側)はまあスポーティーなんですが、下が真っすぐなんですね。ズドーンと。面の変化もない。
永福:おお、目からウロコです。
明照寺:多分これは、クラウンだからそうしたんだろうと思います。あまりスポーティーにしすぎると、クラウンじゃないんじゃないか、と。
永福:さじ加減ですね。
明照寺:前型までのクラウンは、Cピラーがすごく太いじゃないですか。ドア断面も結構プレーンなんですね。それに対して今回は、Cピラーがかなり細くて、ドア断面も、上部のエッジで分断している。それによって新型は、“強さ感”がスポイルされている。
永福:強さの反対。つまり軽快。
明照寺:個人的な考えですけど、クラウンというと、前型くらいの強さ感のほうが好きかなと思います。
永福:私もです(笑)。
明照寺:Cピラーの傾きとか太さとか細さとかは、クルマのキャラクターに直結します。新型クラウンは、強さよりも、伸びやかさを重視したんじゃないかな。
小さな違いで、印象はがらりと変わる
永福:今回のクラウンは、フロントオーバーハングを従来より短くして、前輪が前に出ましたよね。プラス、シックスライトにしたので、Cピラーの付け根がぐっと後ろ寄りになっています。それで、キャビン全体が後ろに寄りすぎたように、私には見えるんですよ。“バランスが悪い”というのは必ずしも悪いことではないですが、新型クラウンは「なんかズレてない?」って感じてしまうんです。
明照寺:BMWなどを見ると、Cピラーの根元を斜めに戻していて、それは変えないというポリシーがありますよね。
ほった:「ホフマイスター・キンク」でしたっけ。
永福:Cピラーの切り欠きとでもいいましょうか。
明照寺:それで、「キャビンが前後タイヤの内側に入ってますよ」と、視覚的に表現している。ところが新型クラウンは、Cピラーをそのまま後ろに流しているので、その根元が後輪の後端から、微妙にはみ出しているように見えるんです。
永福:ホントだ! それでズレて感じるのか。
明照寺:ほんのちょっとのことなんですよ。そのほんのちょっとが、そう感じる原因でしょう。
ほった:シックスライトのクーペライクなデザインは欧米のトレンドなのだろうと思いますが、クラウンはドメスティックな商品ですよね。なぜそちら側に寄せたんでしょう?
明照寺:それはやはり、パーソナル志向にしたかったということじゃないですか。昔のクラウンって、「後席に座っていると、太いCピラーで顔が隠れるように……」という狙いがあったじゃないですか。新型はそういうところから決別して、完全なドライバーズカーにしようとしている。その中で、スポーティーなイメージが必須だったんじゃないですか。(後編へ続く)
(文=永福ランプ<清水草一>)
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明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
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