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第1回:トヨタ・クラウン(前編)

2018.08.29 カーデザイナー明照寺彰の直言
「トヨタ・クラウン2.0 RSアドバンス」
「トヨタ・クラウン2.0 RSアドバンス」拡大

現役のカーデザイナーが話題のニューモデルのデザインを語る。記念すべき第1回のテーマは、国産車の中でも有数の歴史と伝統を誇る高級セダン「トヨタ・クラウン」。オーナー層の若返りという使命を帯びた新型の造形には、デザイナーの苦悩と葛藤が表れていた。

2018年6月に発表された、15代目となる新型「クラウン」。長らく用いてきた「マジェスタ」「ロイヤル」「アスリート」というモデル体系を廃止したり、ガラスエリアを“シックスライト”としたりするなど、これまでとはあらゆる点で異なるモデルとなっている。
2018年6月に発表された、15代目となる新型「クラウン」。長らく用いてきた「マジェスタ」「ロイヤル」「アスリート」というモデル体系を廃止したり、ガラスエリアを“シックスライト”としたりするなど、これまでとはあらゆる点で異なるモデルとなっている。拡大
デザインについては、スポーティーな「RS」系と、その他のグレードとで分けられている。写真は“非RS系”の「3.5 Gエグゼクティブ」。新型クラウンの最上級グレードである。
デザインについては、スポーティーな「RS」系と、その他のグレードとで分けられている。写真は“非RS系”の「3.5 Gエグゼクティブ」。新型クラウンの最上級グレードである。拡大
「Simple & Emotion(シンプル アンド エモーション)」をテーマにデザインされたインテリア。ダッシュボードに備わる2枚のディスプレイが目を引く。
「Simple & Emotion(シンプル アンド エモーション)」をテーマにデザインされたインテリア。ダッシュボードに備わる2枚のディスプレイが目を引く。拡大
「クラウン」の誕生は1955年のこと。トヨタ車としてはもちろん、国産車としても屈指の歴史を誇るモデルなのだ。
「クラウン」の誕生は1955年のこと。トヨタ車としてはもちろん、国産車としても屈指の歴史を誇るモデルなのだ。拡大
2代目「クラウン」で初めて採用された王冠のエンブレムは、デザインを変えつつ今日にも受け継がれている。(写真=向後一宏)
2代目「クラウン」で初めて採用された王冠のエンブレムは、デザインを変えつつ今日にも受け継がれている。(写真=向後一宏)拡大

厳しい規制の中で、変化を求められる

自動車デザインは、工業デザインの中でもかなり特殊だ。まずサイズがかなり大きく、とても目立つ。自力で公共の道路を移動可能なため、あらゆる場所で見ることができる。自己所有できるため、カタチそのものが深い愛情の対象にもなる。

ところが自動車デザインは、「個々人の好みの問題」として、しばしば評価の対象外とされる。それを言ったら、他のあらゆる性能も好みの問題ではないか。自動車デザインにも、良しあしの基準があっていいのではないか。たとえその基準が、時代とともに鵺(ぬえ)のように変わろうとも。

ただ、自動車デザインの評価は、他の性能評価よりも難しい。自動車の運転の専門家は数多いが、自動車デザインを実践しているのは、ごく限られた自動車デザイナーだけ。実際に自動車デザインに携わっている人が、忌憚(きたん)なく他車のデザインを評価することは、めったにない。つまり、真の専門家の本音を聞くことが難しい。それが、自動車デザインが「好みの問題」として片付けられる、ひとつの要因かもしれない。

当連載の趣旨は、今まさに自ら線を引いている現役の自動車デザイナーに、さまざまな新型車のデザインについて、率直な意見を聞くという、単純明快なものである。

******

明照寺彰(以下、明照寺):はじめまして。よろしくお願いします。

永福ランプ(以下、永福):早速ですが明照寺さん、今回は新型クラウンのデザインについて、現役自動車デザイナーとして、忌憚のないご意見をば。

明照寺:クラウンは今回が15代目ですけど、すごく歴史が長くて、国内専用車ですよね。やってるほうにすれば、相当大変だろうなと強く感じます。

永福:担当するのが気が重いクルマですか。

明照寺:あんまりスポーティーにしすぎても違うだろうし、ただ変化をしなければこれまでと変わらない。それで15代も続いている。自分はそういうクルマを担当した経験はないですが(笑)、すごく苦労しているだろうなと。

永福:がんじがらめなのに、成果だけは求められるわけですね。

“スポーティネス”と“クラウンらしさ”のせめぎあい

明照寺:まずサイドビューを見てみましょう。今回のクラウンは“クーぺライク”ですよね。最近、北米などではそうしたセダンが主流なので、多くのセダンがクーペライクに、要はシックスライトになっているんですけど、「ホンダ・アコード」や「シボレー・マリブ」と比べると、クラウンのほうが静的に感じると思います。

永福:確かに。

明照寺:というのも、シルエットを見ていただくと、アコードやマリブは、後方に向けてルーフが下がっていくとともに、ボディー底部がはね上がっていますよね。これでリアまわりを軽快にしている。それがスポーティーということなのかな、と思います。ところが今回のクラウンを見ると、上(ルーフ側)はまあスポーティーなんですが、下が真っすぐなんですね。ズドーンと。面の変化もない。

永福:おお、目からウロコです。

明照寺:多分これは、クラウンだからそうしたんだろうと思います。あまりスポーティーにしすぎると、クラウンじゃないんじゃないか、と。

永福:さじ加減ですね。

明照寺:前型までのクラウンは、Cピラーがすごく太いじゃないですか。ドア断面も結構プレーンなんですね。それに対して今回は、Cピラーがかなり細くて、ドア断面も、上部のエッジで分断している。それによって新型は、“強さ感”がスポイルされている。

永福:強さの反対。つまり軽快。

明照寺:個人的な考えですけど、クラウンというと、前型くらいの強さ感のほうが好きかなと思います。

永福:私もです(笑)。

明照寺:Cピラーの傾きとか太さとか細さとかは、クルマのキャラクターに直結します。新型クラウンは、強さよりも、伸びやかさを重視したんじゃないかな。

新型「クラウン」のサイドビュー。リアタイヤの後方、ボディー下部のデザインにご注目。
新型「クラウン」のサイドビュー。リアタイヤの後方、ボディー下部のデザインにご注目。拡大
新型「ホンダ・アコード」。
新型「ホンダ・アコード」。拡大
GMのラージサイズセダン「シボレー・マリブ」。
GMのラージサイズセダン「シボレー・マリブ」。拡大
従来モデルと比べ、細身のCピラーが特徴の新型「クラウン」。
従来モデルと比べ、細身のCピラーが特徴の新型「クラウン」。拡大
同じ角度から先代「クラウン」を観察。Cピラーが太いことに加え、ドアパネルの面構成も新型よりシンプルなものだった。
同じ角度から先代「クラウン」を観察。Cピラーが太いことに加え、ドアパネルの面構成も新型よりシンプルなものだった。拡大

小さな違いで、印象はがらりと変わる

永福:今回のクラウンは、フロントオーバーハングを従来より短くして、前輪が前に出ましたよね。プラス、シックスライトにしたので、Cピラーの付け根がぐっと後ろ寄りになっています。それで、キャビン全体が後ろに寄りすぎたように、私には見えるんですよ。“バランスが悪い”というのは必ずしも悪いことではないですが、新型クラウンは「なんかズレてない?」って感じてしまうんです。

明照寺:BMWなどを見ると、Cピラーの根元を斜めに戻していて、それは変えないというポリシーがありますよね。

ほった:「ホフマイスター・キンク」でしたっけ。

永福:Cピラーの切り欠きとでもいいましょうか。

明照寺:それで、「キャビンが前後タイヤの内側に入ってますよ」と、視覚的に表現している。ところが新型クラウンは、Cピラーをそのまま後ろに流しているので、その根元が後輪の後端から、微妙にはみ出しているように見えるんです。

永福:ホントだ! それでズレて感じるのか。

明照寺:ほんのちょっとのことなんですよ。そのほんのちょっとが、そう感じる原因でしょう。

ほった:シックスライトのクーペライクなデザインは欧米のトレンドなのだろうと思いますが、クラウンはドメスティックな商品ですよね。なぜそちら側に寄せたんでしょう?

明照寺:それはやはり、パーソナル志向にしたかったということじゃないですか。昔のクラウンって、「後席に座っていると、太いCピラーで顔が隠れるように……」という狙いがあったじゃないですか。新型はそういうところから決別して、完全なドライバーズカーにしようとしている。その中で、スポーティーなイメージが必須だったんじゃないですか。(後編へ続く)

(文=永福ランプ<清水草一>)

サイドビューでは、“後ろ寄り”のイメージが強いキャビンの配置も新型「クラウン」の特徴である。(写真=向後一宏)
サイドビューでは、“後ろ寄り”のイメージが強いキャビンの配置も新型「クラウン」の特徴である。(写真=向後一宏)拡大
同じロングノーズ、ショートデッキのモデルでも、BMWのセダンはCピラーの根元に三角形のスペースを設けることで、キャビンが過度に“後ろ寄り”に見えることを防いでいる。写真は「BMW 3シリーズ」。
同じロングノーズ、ショートデッキのモデルでも、BMWのセダンはCピラーの根元に三角形のスペースを設けることで、キャビンが過度に“後ろ寄り”に見えることを防いでいる。写真は「BMW 3シリーズ」。拡大
新型「クラウン」のリアシートまわり。外からは見えないが、実際にはリアドアとリアクオーターウィンドウの間には太いピラーが入っており、写真の通り、適度な包まれ感が保たれている。
新型「クラウン」のリアシートまわり。外からは見えないが、実際にはリアドアとリアクオーターウィンドウの間には太いピラーが入っており、写真の通り、適度な包まれ感が保たれている。拡大
これまでのフォーマルなイメージと決別し、パーソナル志向のドライバーズカーであることを重視した新型「クラウン」。「ニュルブルクリンクで鍛えた」と宣伝される走りに加え、そのスタイリングもスポーティーなものとなっている。
これまでのフォーマルなイメージと決別し、パーソナル志向のドライバーズカーであることを重視した新型「クラウン」。「ニュルブルクリンクで鍛えた」と宣伝される走りに加え、そのスタイリングもスポーティーなものとなっている。拡大
明照寺 彰(めいしょうじ あきら)

明照寺 彰(めいしょうじ あきら)

さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。

永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。

webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。

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