ベントレー・コンチネンタルGTファーストエディション(4WD/8AT)
3代続けば 末代続く 2018.09.09 試乗記 新世代プラットフォームをもとに、一から新開発された3代目「ベントレー・コンチネンタルGT」が、いよいよデリバリー開始となった。日本導入を記念し設定された「ファーストエディション」から、その進化を確認していこう。コンセプトカーの姿を忠実に再現
新生ベントレーの象徴ともいえるコンチネンタルGTも気づけば3代目。2017年9月のフランクフルトモーターショーでワールドプレミアされ、その12月には早くも日本上陸を果たしジャパンプレミアイベントが行われた。ただし、当初からデリバリー開始は2018年の秋を予定しているとアナウンスされており、今回の試乗タイミングはまさにスケジュール通りということになる。
ここでもう一度コンチネンタルGTの成り立ちを確認しておこう。3代目が採用するプラットフォームは、新開発の「MSB」。これはポルシェの主導で開発が行われた次世代後輪駆動用のプラットフォームだ。フォルクスワーゲングループのなかでも大型プレミアムモデル系を得意とするポルシェとベントレーの使用を想定し、「パナメーラ」がその使用モデル第1弾としてデビュー済み。コンチネンタルGTは第2弾ということになる。
エクステリアデザインは、従来のイメージを残しつつ2015年3月のジュネーブモーターショーで公開されたコンセプトカー「ベントレーEXP10スピード6」を彷彿(ほうふつ)とさせる新しさも感じさせてくれる仕上がりだ。そう、当時のうわさ通り、EXP10スピード6は間違いなく新型コンチネンタルGTのプレビューであったのだ。
低くワイドに見えるシルエットや、クルマを真横から見たときに分かるフロントフェンダー上部の薄さ(これが薄ければ薄いほど視覚的にスポーティーに見える効果がある)にも、EXP10スピード6のモチーフが反映されている。実際には車高はわずか5mm低くなっているだけなのだが、先代モデルという比較対象物がない限り、断然こちらがスポーティーな印象だ。
そうした全体像に加え、先代よりも薄めになったフロントグリルやクリスタルカットグラスをイメージしてデザインされた楕円(だえん)形のヘッドランプ、同様のイメージでデザインされたリアコンビネーションランプなどのディテールもまたEXP10スピード6のイメージだ。
W12ツインターボに宿る伝統と革新
新しいプラットフォームのMSBを使用して大きく変わったのは、フロントアクスルの位置だろう。フロントのオーバーハングは切り詰められ、FRモデルらしいタイヤ位置を得ることができた。ホイールがよりクルマの四隅に配置されたように見え、ここでもスポーティーなアピアランスを表現することに成功している。
ホイール位置は、想像以上に動いている。Aピラーの付け根からフロントアクスルまでの距離が先代より135mmも長くなっているので、エンジン搭載位置も必然的に後ろに下がり、したがってフロントミドシップ……には、なっていなかった。いかに全長が短いW12とはいえ、エンジンルームのスペースは十分ではないらしい。
エンジンは「ベントレーといえばコレ」というほどにメジャー感のあるW12。もちろん、フルタイム4WDとの組み合わせだ。後にV8エンジンが追加されるのが暗黙の了解であったとしても、まずはこれがないと始まらない。トランスミッションには8段デュアルクラッチトランスミッションをベントレーとして初採用している。サプライヤーは、パナメーラ同様ZFである。
つい、過去のモデルとの連続性を意識して語ってしまったが、このエンジンは直噴化されるなどの大幅な変更を受けており、これまでのW12とは別物だと考えたほうがいい。スタートストップ機構や可変シリンダーシステムを採用し、条件が整えばコースティング走行も行う。さすがにこのご時世、いかにラグジュアリーモデルとはいえ燃費向上の優先順位は高く、航続距離は先代「コンチネンタルGT V8 S」と同等の約845kmに達するとベントレーは胸を張る。
そうして地道に燃費性能を向上させつつも、最高出力は635ps、最大トルクは900Nmで、この数値は先代の「GTスピード」にも迫る勢いだ。0-100km/h加速は3.7秒、最高速度は333km/hがカタログ上の公表データ。これ以上望むべくもない圧倒的なパフォーマンスが日本の路上でも披露されるはずである。
インテリアも「どこから見てもベントレー」
今回のファーストエディションは、左ハンドルモデル。エンブレム(=翼)をモチーフとしたダッシュボード(先代よりも左右対称感がだいぶ薄れたが)や相変わらず幅広のセンタートンネル、適度なタイト感と高級感が同居する独特のキャビンも、もはやどこからどう見てもベントレーそのもので、コンチネンタルGTにしか見えない。
新型ではメーターにフルデジタルパネルを採用した。このグラフィックがチープだと高級車も台無しになりかねないが、コンチネンタルGTのそれは、子供っぽくもなく、良い出来だと思う。ただ、ダッシュボードに組み込まれた、ローテーションディスプレイのギミックは、本当に必要だったのだろうかと、首をかしげてしまう。
ウッドパネル/ナビ画面/アナログ3連メーターが三角柱の各面に置かれるのだが、スイッチ操作でクルクルと回るそのさまを見ても感心するのは最初の3度。あとはナビ画面にしたままだった。ナビ画面はメーター内にも表示できるのでそこはスポーティーなクルマらしく3連メーターにしておけば見栄えもよろしかろうというのがベントレーのおすすめなのだろうが、その肝心のアナログ3連メーターは小さすぎて、イマイチありがたみがないのだ(個人の感想)。
ただ、反対に言えば、気になるポイントはその程度である。コンチネンタルGTだと誰にでも一目で分からせる(はずの)エクステリアデザインは新鮮味を増し、初代が2代目に移行した際によく耳にした「どっちがどっちなのか見分けがつかない」というような感想をオーディエンスから寄せられる心配もこと3代目に関してはないだろう。
実際にこのビッグクーペを走らせてみても、そうした「新鮮」という名の進化を実感する。初代から2代目への進化が1だとすれば、この3代目の進化の幅はそれ以上に大きく、あらためて「完成度」には際限がないのだという事実に気づかされる。
コーナリングに隔世の感あり
よりハンサムになった(今どきならイケメンというほうが正しいか)ルックス以上に、大きく変わったのが走りに関する部分だ。前述の通り相変わらずW12エンジンにフルタイム4WDを採用するが、初代が50:50、2代目は40:60だったトルク配分に対して、3代目は走行状況に応じて前後のトルク配分を可変制御する。通常は後輪駆動と同じ0:100に近い設定となっているが、コーナリングの立ち上がりや、アクセルオンでより大きなトラクションが必要だとコンチネンタルGTが判断すれば、その時は必要な分だけ前輪にもトルクを配分する。
この前輪へのトルク供給は極めて自然だ。先代までに感じたコーナーでのアンダーステア傾向は鳴りを潜め、出来のいい後輪駆動モデルのようなオンザレール感覚のコーナリングが(このボディーの大きさにも関わらず)味わえる。シャープな感覚の持ち主であればどこでどれぐらい前輪にトラクションが(新たに)かかったのか分かるかもしれないが、スピードに乗りながらワインディングロードでのドライブを楽しんでいる限り、フロントアクスルはその仕事ぶりをみじんも出さない。
ベントレーで初採用となった8段DCTの切れ味は鋭く、「スポーツモード」でのブリッピングは、気持ちのいいエキゾーストサウンドを奏でる。この瞬間は、12気筒モデルの特別感を意識しないわけにはいかない。
シャシーはどんな速度であっても快適さを崩さない。ベントレーがベントレーたるゆえんだ。舗装の修理箇所に乗り上げても、いやなショックをクルマが十分に吸収してくれるし、調子に乗ってそれなりの速度でコーナーに進入しても、タイヤがスキール音をあげる気配すらない。
そこで思い出すのが、新設計されたアダプティブシャシーの存在だ。3代目には、先進的な48Vコントロールシステムである「ベントレーダイナミックライド」を搭載。コーナリング時のロールを瞬時に抑え、同時にタイヤの接地性を確保するという触れ込みだが、そのうたい文句に偽りはない。こちらもフルタイム4WDシステム同様、その存在は陰に隠れ、違和感を覚えることはない。
期待せずにはいられない
圧倒的ともいえるパフォーマンスは、すでに先代のトップモデルとして君臨していたGTスピード超えの0-100㎞/h加速3.7秒と、333km/hのトップスピードからも分かる。しかし、実際にその加速を味わえば、やはりこれは特別だと思わざるを得ない。使い古された「怒涛(どとう)の加速力」と表現することに、なんの恥ずかしさもない。
「ダイヤモンドインダイヤモンド」とベントレーが呼ぶ2重のキルティングデザインを採用したシートに身を置き、ローレット加工された金属の質感あふれるレバーを回すだけで、ドイツものにもイタリアものにもない独自の世界観に浸ることができる。もちろん、最新のADAS込みでだ。
3代続けば江戸っ子ではないが、新生ベントレーに懐疑的だった人々も新しいコンチネンタルGTを見れば、ベントレーの目指すGTの形におのずと気づくだろう。このゴージャスでパワフルなクーペは、コンチネンタルGTというブランドを不動のものとし、ライバルとの違いを明確に見せつけている。
新しいコンチネンタルGTがデビューしたばかりの今、そんなことをいうのは気が早いかもしれないが、これまでの例にならえば、さらなるパワーアップ版やV8モデルも、もっと言えばロングホイールベースの4ドアモデルである「フライングスパー」もスタンバイされているはずだ。
そのすべてが、3代目コンチネンタルGTがベースであると考えると、クオリティーはもちろん、デザイン性にも期待が高まる。ベントレーらしさが濃厚なモデル群の登場にワクワクする。たった1台のモデルが、これほど明るい未来を予想させるのは、個人的にはずいぶん久しぶりのことかもしれない。
(文=webCG 櫻井健一/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ベントレー・コンチネンタルGTファーストエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4880×1965×1405mm
ホイールベース:2850mm
車重:2260kg
駆動方式:4WD
エンジン:6リッターW12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:635ps(467kW)/6000rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/1350-4500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR22 104Y/(後)315/30ZR22 107Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.2リッター/100km(約8.2km/リッター、欧州複合サイクル)
価格:2568万円/テスト車:3352万5100円
オプション装備:ファーストエディションスペック(617万円)/ダイヤモンドドナーリング<ローレット加工>(26万0600円)/3本スポークデュオトーンステアリングヒーター(13万3100円)/カーペットオーバーマットコントラストバインディング(3万1500円)/Naim for Bentley(115万2400円)/ウエルカムライティング(7万9800円)/バッテリーチャージャー(1万7700円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:883km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。