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メルセデスAMG GLC63 S 4MATIC+(4WD/9AT)

ムチを止めるな! 2018.09.21 試乗記 今尾 直樹 「メルセデスAMG GLC63 S 4MATIC+」に試乗。この最高出力510psの“暴れ馬”は、優しく御すだけでもそれなりの満足を与えてくれるだろう。しかし、絶えずムチを入れ続け、ギャロップさせてこそ見える世界もまたあるのだ。

全幅は1931mmに達する

夜、東京・恵比寿の丘の上の駐車場に、メルセデスAMG GLC63 S 4MATIC+はその白いボディーを薄闇のなかで浮かび上がらせていた。「メルセデスAMG GT」以外で初めて採用されたAMGパナメリカーナグリルが、う~む、これって1952年の「300SLプロトタイプ クーペ」に由来するわけで、それがエッジの効いた「GLC」の21世紀デザインにいきなりポコンとはめ込まれた、その違和感というようなものを筆者はひそかに感じたのだった。

でもって、運転席に座り、スターターボタンを押すと、都会の喧騒(けんそう)と開放された空間のおかげでか、AMGモデル特有の爆裂音にビビることはなかった。

さりとて、GLC63 Sはその丘の上から駒沢通りへといたるまでの狭い路地にはデカイのだった。90度のクランクが鬼門となって行く手に待ち受けていた。4682mmの全長と2873mmのホイールベースは、「Cクラス」の「ステーションワゴン」のそれらより、それぞれ100mmちょっとと30mmほど短いナイスなサイズではあるけれど、100mmちょっと広い1931mmの横幅と、それをいっそう大きく感じさせる200mmばかり高い上背のおかげで、暗闇に潜む路地のなにがしかにホイールを擦りはせぬか、ボディーをぶつけはしないか、としばし立ち止まるオレだった。ドコドコ、ドコドコというAMG謹製V8の鼓動がサスペンス映画のドラムの重奏低音のようにも聞こえ、私の心拍数をあげようとする。

ワイドなタイヤを収めるためにフェンダーが拡大されており、全幅はノーマルの「GLC」よりも40mm幅広い1931mmに。その一方で全高は20mm低められた1625mmとなっている。
ワイドなタイヤを収めるためにフェンダーが拡大されており、全幅はノーマルの「GLC」よりも40mm幅広い1931mmに。その一方で全高は20mm低められた1625mmとなっている。拡大
「メルセデスAMG GT」以外のモデルとしては初採用となるAMGパナメリカーナグリルを採用。フロントマスクの存在感を高めている。
「メルセデスAMG GT」以外のモデルとしては初採用となるAMGパナメリカーナグリルを採用。フロントマスクの存在感を高めている。拡大
「GLC63」シリーズには、テストした「GLC63 S 4MATIC+」のほかに、最高出力476psの「GLC63 4MATIC+」もラインナップされる。
「GLC63」シリーズには、テストした「GLC63 S 4MATIC+」のほかに、最高出力476psの「GLC63 4MATIC+」もラインナップされる。拡大
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硬く落ち着きのない足まわり

フロントに収まるM177型V8ツインターボユニットは最高出力510psを5500-6250rpmで、最大トルク700Nmを1750-4500rpmで生み出す。こういう、もともとAMG GT、すなわち背の低いスポーツカー専用であるはずのエンジンを、セダン系ならともかく、重心の高いSUVにまで搭載するとは! ホイールは21インチもあって、前265/40、後ろ295/35と、いかにオンロード志向とはいえ、SUVなのだから前後異サイズのZR規格、それも35なんぞという超扁平を履かなくてもいいのでは……と思ったりもする。

駒沢通りに出てしまえば、喉元過ぎて、ボディーの大きさは忘れてしまったけれど、今度は低速での乗り心地が気になりはじめた。同じエンジンを搭載する「C63 S」や「E63 S 4MATIC+」などと比べても、こっちのほうが硬いのではあるまいか。そらそうである。なんせ21インチという巨大なホイール&タイヤを履いている。C63 Sだと、19インチが標準だ。おまけにSUVだから背が高い。その分、重心も高くなる。ロールを抑えるために足まわりはおのずと硬くなるに違いない。

いや、硬いのはいいとしても、落ち着きがない。路面の細かな凸凹を増幅するかのように揺れる。さすがのメルセデス・ベンツも、こうあらゆるモデルにAMGを展開していては開発キャパが追いつかなかったか……。

それに、ターボラグが気になる。M177ユニットは、車名が“63”だと476psと650Nmだけど、これに“S”の文字がつくと510psと700Nmに最高出力と最大トルクが跳ね上がる。高出力の分、ターボラグが大きくなっている、のかもしれない。車重が2tもあることも影響しているだろう。車検証だと、2050kgに達している。

「GLC63 4MATIC+」が機械式LSDを搭載するのに対し、「GLC63 S 4MATIC+」では電子制御式LSDを採用している。
「GLC63 4MATIC+」が機械式LSDを搭載するのに対し、「GLC63 S 4MATIC+」では電子制御式LSDを採用している。拡大
「AMG GT」や「63」シリーズなどで幅広く使用される4リッターV8直噴ツインターボ「M177」ユニット。2基のターボチャージャーはVバンクの内側にレイアウトされている。
「AMG GT」や「63」シリーズなどで幅広く使用される4リッターV8直噴ツインターボ「M177」ユニット。2基のターボチャージャーはVバンクの内側にレイアウトされている。拡大
エンジンには組み立て担当エンジニアの名前が記されたプレートが貼られる。テスト車に搭載されていた個体はDaniel Lange氏によって組み上げられたようだ。
エンジンには組み立て担当エンジニアの名前が記されたプレートが貼られる。テスト車に搭載されていた個体はDaniel Lange氏によって組み上げられたようだ。拡大
「GLC63 S 4MATIC+」では21インチタイヤが標準装備となる。テスト車にはピレリのハイパフォーマンスタイヤ「Pゼロ」が装着されていた。
「GLC63 S 4MATIC+」では21インチタイヤが標準装備となる。テスト車にはピレリのハイパフォーマンスタイヤ「Pゼロ」が装着されていた。拡大

運転の仕方で印象はガラリ一変

というようにGLC63 Sの第一印象はあまりかんばしいものではなかった。はっきり申し上げれば、好きになれなかった。それは筆者がネガティブな運転に終始していたからだ、と気づいたのは翌日のことだった。

このクルマの真価は、「AMGダイナミックセレクト」をC(コンフォート)からS(スポーツ)、さらにS+、それでもあき足らぬひとはレースを選び、アクセルを踏んだときに立ち現れる。ドライビングに対してポジティブであればあるほど、いや、ポジティブなだけでは生ぬるい、アグレッシブになるほどにその魅力を発散しはじめ、運転する者をあらがいがたく虜(とりこ)にする。

Sを選べば、例によって湿式多板クラッチ式9段オートマチックの変速プログラムやサスペンション、ステアリングのパワーアシスト量がスポーティーなものに切り変わる。変速は素早く、加速重視でエンジン回転を高く引っ張るようになり、ステアリングは重く、硬い乗り心地はますます硬くなって、ブワブワ感はなくなる。

S+にすると、排気管内に備わる3つのフラップの働きによってV8のAMGサウンドをとどろかせはじめる。ダウンシフト時には爆音を発し、アクセルオフ時にはアフターファイアのような音を聴かせてくれもする。

でもって、猛烈に速い。2tの車重をものともせず、700Nmもの大トルクを低速から立ち上げて怒涛(どとう)のように加速する。AMGの魅力は、一貫して圧倒的な大排気量による大トルクがもたらす暴力的なまでの加速にあった。それはターボ化されたM177ユニットにおいても、排気量こそ6.2リッターから4リッターに減じたけれど、変わっていない。

ノーマルの「GLC」のエアサスをベースにチューニングした「AMGスポーツサスペンション」が標準装備されており、走行状況に応じてダンピングレートが自動的に変更される。
ノーマルの「GLC」のエアサスをベースにチューニングした「AMGスポーツサスペンション」が標準装備されており、走行状況に応じてダンピングレートが自動的に変更される。拡大
インテリアはブラックとシルバーでコーディネート。装飾は控えめだが、レザーとウッドパネルを多用したぜいたくな仕立てだ。
インテリアはブラックとシルバーでコーディネート。装飾は控えめだが、レザーとウッドパネルを多用したぜいたくな仕立てだ。拡大
「GLC63 S 4MATIC+」ではナッパレザーのスポーツシートが標準装備。ヘッドレストにはAMGエンブレムがエンボス加工されている。
「GLC63 S 4MATIC+」ではナッパレザーのスポーツシートが標準装備。ヘッドレストにはAMGエンブレムがエンボス加工されている。拡大
メーターパネルにはカーボン調模様のアクセントが施される。エンジン回転計の中には「AMG」のロゴも。
メーターパネルにはカーボン調模様のアクセントが施される。エンジン回転計の中には「AMG」のロゴも。拡大

Gクラスではなくこちらを選ぶひと

数字で見ると、GLC63 Sの0-100km/h加速は3.8秒で、セグメントトップを誇る。セグメントトップといっても、510psものパワーを誇る中型SUVはそもそもこのクルマ以外存在しない。すぐさま浮かぶのは「ポルシェ・マカン」だけれど、マカンのトップモデルは3.6リッターV6ターボで440psに過ぎず、0-100km/hは4.4秒もかかる。「BMW X3」には「M」がない。ライバル不在の絶対王者。ミドル級SUV界の拳王ことラオウである。最近『北斗の拳』を読んだから、思いついただけですけど。

高い着座位置は見晴らしがいいからアクセルを全開にするチャンスをうかがうにはうってつけ。ひとたび全開にすれば、爆音で彩られた大仰なその速さに笑いがこみ上げてくる。

なぜ、こういうものが必要なのだろう?

という問いほど無駄なものはない。人生にはどんな意味があるのか? と問うことに意味がないのと同じだ(個人の意見です)。21インチホイールに35の超偏平タイヤでは、ウカツ者の筆者にはオソロシ過ぎる。19インチにしてほしい。というような臆病者には不要のクルマである。車両本体価格1455万円。暗くて狭い路地も、結局は難なく通れたので、ご心配にはおよびません。意外とデカいことは確かだけれど、ものすごく速いSUVをお探しの、「わが生涯に一片の悔い無し」という生き方を選んでおられる貴兄にピッタリです。

ラオウだったら「G63」を選ぶ? う~む。それはそうかも……。と書いて思った。「Gクラス」のキャラクターは確かに得がたい。あえてそこを避けてGLC63 Sを選ぶひとは、クルマよりオレさまのキャラクター重視の方、であるかもしれない。

(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

公表されている0-100km/h加速のタイムは3.8秒。最高速はリミッターによって250km/hに制限されている。
公表されている0-100km/h加速のタイムは3.8秒。最高速はリミッターによって250km/hに制限されている。拡大
排気管内にはそれぞれ3枚のフラップが仕込まれており、走行モードに応じてエキゾーストサウンドを変化させる。
排気管内にはそれぞれ3枚のフラップが仕込まれており、走行モードに応じてエキゾーストサウンドを変化させる。拡大
荷室の容量はノーマルの「GLC」と同じ550~1600リッター。
荷室の容量はノーマルの「GLC」と同じ550~1600リッター。拡大
荷室の側面に配されたスイッチを押すと車高を40mm下げることが可能で、荷物を積みやすくできる。
荷室の側面に配されたスイッチを押すと車高を40mm下げることが可能で、荷物を積みやすくできる。拡大

テスト車のデータ

メルセデスAMG GLC63 S 4MATIC+

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4682×1931×1625mm
ホイールベース:2873mm
車重:2050kg(車検証記載値)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:510ps(375kW)/5500-6250rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1750-4500rpm
タイヤ:(前)265/40ZR21 105Y XL/(後)265/40ZR21 105Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1455万円/テスト車=1465万2000円
オプション装備:ボディーカラー<ダイヤモンドホワイト>(10万2000円)

テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1169km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:163.2km
使用燃料:35.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:参考燃費:4.6km/リッター(満タン法)/4.8km/リッター(車載燃費計計測値)

メルセデスAMG GLC63 S 4MATIC+
メルセデスAMG GLC63 S 4MATIC+拡大
今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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