ボルボV60 T5インスクリプション(FF/8AT)
帰ってきた正統派 2018.09.27 試乗記 ミドルサイズのボルボエステート「V60」が初のフルモデルチェンジ。見た目のイメージを大きく変えた新型は、ダイナミックな走りと優れた実用性が体感できる、実力派のスポーツワゴンに仕上がっていた。実質「V70」の後継車
新型V60試乗会が開かれたキャンプ場には、なつかしい歴代ボルボエステートが並べられていた。1970年代の「240」、その後継モデル「940」、そしてFFプラットフォームに切り替わった「850」の「R」。かつて240エステートを10年以上使っていたというKカメラマンは、テールゲートを開ける感触を久々に味わい、涙目になっていた。
新しいV60は、8年続いた従来モデルの新型(あたりまえ)であり、見てのとおり、ひと足先に出た「V90」のコンパクト版である。しかしそれと同時に、かつてはボルボの代名詞でもあったエステート(ステーションワゴン)をいま一度広く知らしめる役割も担う。
クーペルックな旧型V60はスポーツワゴン的なキャラクターであったし、V90はファミリーエステートにしては大きすぎるし、お高すぎる。ちょっと地味だった3代目「V70」(2017年販売終了)から正統ボルボエステートのバトンを渡されたのが、今度のV60というわけである。
今回乗ったのは、新型シリーズ第1弾の「T5インスクリプション」(599万円)。100万円安い「モメンタム」もあるが、この日は用意されなかった。日本仕様ラインナップの特徴は、ディーゼルが予定にないこと。そのかわり、2種類のツインエンジン(プラグインハイブリッド)が入るが、そちらのデリバリーは2019年3月以降になる。
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ゆったり乗れてしっかり積める
新世代プラットフォームで構成される新型V60は、V90よりひとまわり半ほど小さい。全長(4760mm)は175mm、全幅(1850mm)は40mm、全高(1435mm)も40mm、それぞれサイズダウンした。ドイツ御三家のミドルクラスワゴンでいちばん大柄な「アウディA4アバント」とほぼ同寸だ。
旧型V60と比べると、全長は約13cm延びたが、高さと幅は小さくなった。中でもこだわったのは1850mmにおさめた全幅で、国内市場にはこのへんにひとつの心理的バリアーがあると考える日本側が、ボルボ本社に強く働きかけた“成果”だという。デザイナーにはあと20mm広げたかったのにと、ボヤかれているらしい。
ボルボ門外漢が見たら、V90と区別がつかないだろうが、新型V60が「小さなV90」ではないと主張するのはリアエンドである。V90ほどテールゲートが寝ていない。つまりそれだけボディー後端まで荷室容積を稼ぐことができた。平常時の荷室は、実測で奥行き100cm、幅104cm。V90より奥行きは15cm短いが、幅は同じである。後席背もたれを倒すと、奥行きはカーペットの上だけで160cmに広がる。
V90とホイールベースが7cmしか違わないこともあり、リアシートの足もとの広さはステーションワゴン最大級である。全長4.7mオーバーなのだから当然とはいえ、人もモノもゆったりたっぷり乗せられる高機能ワゴンである。
意外なほどスポーティー
見るとV90に似ているが、乗るとそれほどでもない。V60は“走り”がよりスポーティーでカジュアルだ。
キャンプ場のフラットダートを走りだしたときから、18インチを履く足まわりはけっこうスポーティーに感じた。空荷のひとり乗車というせいもあり、乗り心地は硬めだ。といっても、ズシンと“おもがたい”のではなく、軽快な硬さである。上等なナッパレザーのシートもアンコに張りがあって、あまりタワまない。ちなみに日本仕様V60の足まわりは、ヨーロッパと同じ“ダイナミックシャシー”だという。
最高出力254psの2リッター4気筒ターボは、V90のベースグレードや「XC60」に載るT5と同じである。だが、車重はこれがいちばん軽い。ツーンと回る気持ちのいいエンジンを引っ張ると、かなりのスピードワゴンである。これだけ力のあるFFでも、ステアリングに気になるキックバックはこない。ボディーのダウンサイジングは走っても明らかで、V90より身のこなしは軽い。普段使いでも、大きさを持て余すことはなさそうだ。
インスクリプションには360度ビューカメラが標準装備されている。4台のカメラによる画像解析で、駐車などの際に自車の上空視野を提供する。最近は軽自動車にも付き始めたが、縦長9インチのセンターディスプレイに映る画像の精細度は別格だ。短い試乗のあいだでもついつい頼ってしまうが、自分の首を振って車両の周囲を確認する習慣が失われそうで、コワイ気もする。
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大きいことはいいことだ
2018年の上半期に乗った新型車で、個人的にいちばん気に入ったのは、ボルボV90の「クロスカントリー」だった。乗り心地も居心地も、とにかくここちよい。ハンドルを握っていると、ストレスが溶けてゆく気がする。こういう癒やし効果を持つのが、ボルボの余人をもって代えがたいところだなあと、あらためて感じさせられるクルマである。
下半期に入ると、「アルピーヌA110」が現れて、“2018マイCOTY”の行方は早くも混沌としてきたが、そうした個人的興味から、今回、勝手に注目していたのは、新型V60にあのV90クロスカントリーがどれくらい“入っているか”ということだった。
結論を言うと、それほど入っていなかった。あたりまえだ。そもそも、今回のV60はSUVのクロスカントリーではない。ただ、ノーマルV90の乗り味を思い出しても、やはりボディーの大きさが黙っていてももたらす“豊かさ”は、たしかにあるものだなあと感じた。
とはいえ、新型V60がより多くの人にアピールする復活ボルボエステートの役を担うのは間違いない。17インチでファブリックシート、ハーマンカードンオーディオのような高級装備は減るが、パワートレインや安全装備レベルはインスクリプションと変わらない499万円のT5モメンタムも試してみたい。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ボルボV60 T5インスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4760×1850×1435mm
ホイールベース:2870mm
車重:1700kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:254ps(187kW)/5500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpm
タイヤ:(前)235/45R18 98W/(後)235/45R18 98W(コンチネンタル・プレミアムコンタクト6)
燃費:12.9km/リッター(JC08モード)
価格:599万円/テスト車=627万9000円
オプション装備:メタリックペイント<デニムブルーメタリック>(8万3000円)/チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:3307km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。