第527回:白兎伝説ゆかりの地に幻のレストランが登場!
「DINING OUT TOTTORI-YAZU with LEXUS」でアメージング体験
2018.09.28
エディターから一言
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食を通じて地方の持つ魅力を再発見する野外イベント「DINING OUT(ダイニングアウト)」の第14弾が2018年9月8~9日、鳥取県八頭(やず)町で開催された。2日間だけ現れた幻のレストラン、その2日目の様子をリポートする。
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白兎伝説ゆかりの地・八頭
鳥取県八頭町。
県東南部に位置するこの町には、ある神話が伝わる。
大国主命(おおくにぬしのみこと)に助けられた白兎が、この地で美女と評判の八上姫(やかみひめ)との縁を取り持ったことから、恋のキューピッドとしてまつられるようになった、というあの話である。
町内の成田山青龍寺の本堂には、伝説にゆかりのある「波ウサギ」の彫刻が納められている。
そんな神話の里へと導く清めの儀式なのか、30度超えの東京から一転、鳥取は10度も低い21度。しかも、2日前から降り続く雨はやむ気配がない。会場では長靴が必要になるほど、足もとがぬかるんでいるらしい。
空港から八頭町へ向かう道すがら、千代(せんだい)川の水が茶色く濁り、うねりを伴って下流へと流れていくのが見える。クルマから一歩外へ出ただけで、ロングスカートは膝までぬれ、ハンカチではもう役に立たない。
テントの中でもいいから野外で開催してほしいけれど……。
そう思っていたところで、会場変更の連絡が入った。
筆者にとっては、初の室内ダイニングアウトである。
「太田邸」
表札に太い筆文字でそう書かれた、重厚な木造りの門をくぐる。屋敷の中に入っていくと、玄関の右手には厨房(ちゅうぼう)が設置され、左手に広がる座敷ではゲストがテーブルに着席していた。
前日までの会場も気になるが、登録有形文化財の中で、というのもなかなか経験できるものではない。
今回は世界で活躍するシェフが地元に戻って地元と一緒に作り上げる“凱旋(がいせん)ダイニングアウト第1弾”であるとも聞いている。鳥取出身のシェフとは? 地元食材を使った料理にも期待が高まる。
「ダイニングアウト、スタート!」の声が会場に響きわたったのは、予定時刻から1時間を過ぎたころだった。
アーティスティックな感性光るイタリアン
料理を担当するのは、イタリア・ミラノで活躍する徳吉洋二シェフ。
2017年7月に北海道で行われた「ダイニングアウト ニセコ」に次いで2度目の登場となる。
前回は、ニセコの四季を色とりどりのプレートで表現し、その芸術的感性と奇想天外なアイデアでゲストを魅了した。
今回は、「Energy Flow -古(いにしえ)からの記憶を辿(たど)る-」をテーマに、パワースポットとして知られる八頭の“生命力”や“自然の神秘”を表現したいと、全12皿を用意。その一皿ひとさらに、アーティスティックな徳吉ワールドが凝縮されていた。
中でも、6皿目の「骨と肉」には、そのギャップに驚かされた。
朱色のプレートの上には真っ白な牛骨、その上に肉らしきものが盛り付けてある。骨を手に持ち、そのまま口に運ぶのだという。
まだかすかに獣臭のする骨を口元へ近づけ、鮮紅色の“肉”を口に入れてみる。すると、つるりとなめらかな舌触りを持つその物体には、かむとシャキシャキとした歯ごたえがあり、同時にほのかな甘味が口のなかに広がってくる。
これは何だろう?
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食の現代アートの世界
“肉”は、スイカだった!
オーブンで乾燥させて水分を抜いたスイカを、万葉牛のランプ肉と交互に重ね合わせることによって、疑似化させていたのだ。そして、スイカや肉の持つ繊細さや食感と、骨を手で握りながら喰(く)らうというワイルドなスタイルとのギャップにも驚かされた。
同時に、骨付きのランプ肉、そのイメージを一度解体して再構成するという手法を目の当たりにし、ニセコで登場した前菜、「羊毛」を思い出した。
木の枝に刺した羊肉のつくね、その持ち手部分には、真っ白な羊毛が巻き付けてあり、羊のやわらかな感触を確かめながらいただくというものだった。
ひとつのプレートで、動物の持つ触感まで楽しめるという体験型料理に、自分の中の食に対する扉が開かれたようで、とても興奮したのを覚えている。
今回の料理では、他にも2皿目の「水と魚」、10皿目の「鹿と鮎」、12皿目の「Milano collection」など、調理法や食材の組み合わせ方、見せ方に対して、食べる側としてひとつひとつ考えさせられるものが多かった。
徳吉シェフの料理にはおいしさというひとつのスケールでは測ることのできない、幅の広さを感じる。食後は、食の現代アートの世界に足を踏み入れてしまった、というワクワク感と同時に、怖れのような感情とで胸がいっぱいになった。
では、徳吉シェフが生まれ育った鳥取とは、一体どんなところなのだろう。
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鳥取の美に触れる旅
鳥取といえば、砂丘に大山(だいせん)、らっきょうに梨。
学生時代に一度砂丘を訪れた経験しかない筆者には、この程度のイメージしかなかった。ところが、今回訪れてみて、好奇心を刺激される要素がいくつもあり、1泊2日の旅ではもの足りないほどだった。
ざっと調べただけでも興味深い。
鳥取は、日本で最も人口が少ない県であり、最も“ゆったり”した県民性を持つ県でもあるらしい。総務省の発表によれば、平成29年の人口は56万5000人で、全国に占める割合は0.4%。それを裏付けるように、町の中心部を少し離れると、のどかな風景がどこまでも広がっている。
典型的な日本海型気候で、夏季に好天が多く、冬には降雪があり、古くからおいしい米がとれる米どころとして知られてきた。
とりわけ八頭町はフルーツの里として知られる。西日本で収穫量1位を占める梨をはじめ、ぶどうや、りんご、柿などが豊富な土地柄だ。レセプション会場になったオズガーデンでは、30畳以上は枝が広がっていただろうか、頭上のぶどう棚からは500~600個もの房が垂れ下がり、それがたった1本の木からなっていると聞いて驚いた。
また、鳥取といえば民芸運動がさかんな土地としても知られる。
冬場は降雪があり、生活の中で手仕事が育った。そういう点では北欧の文化にも近いところがあるのだろう。緑・黒・白のトーンがモダンな中井窯、シンプルなフォルムが特徴の延興寺窯など、この地をベースに活動する窯元も多い。
JR鳥取駅から徒歩3分ほどのところには、吉田璋也(しょうや)ゆかりの施設である鳥取民藝美術館、鳥取たくみ工芸店、たくみ割烹店が軒を連ねる。
吉田は、耳鼻咽喉科医として医院を開業するかたわら、民芸運動の父・柳宗悦(やなぎむねよし)に共感、民芸のプロデューサーという立場で鳥取の民芸運動をけん引してきた人物。彼が開いた鳥取たくみ工芸店では、焼き物好きにはたまらない、心地よく、おだやかな時間が流れていた。
そんな心地よさは、何気ない瞬間にも感じることができる。
例えば、鳥取駅近くのホテルでは、楚々(そそ)としていながらも、目を引く生け花が飾られていた。聞けば、主に県内の華道流派に属す人たちが毎週交代で手がけているという。
八頭町にある大江ノ郷自然牧場は、山の中に突如現れた表参道といった雰囲気だ。休日には県外からの観光客でにぎわうというが、筆者が訪れた平日の昼間にも、地元の人たちが訪れ、センスのいい空間で地元のブランド卵・天美卵(てんびらん)を使ったパンケーキとビュッフェを楽しんでいた。
「美は生活の中にある」
柳宗悦のことばが、人々の生活の中にも生きているような気がした。
(文=スーザン史子/写真=スーザン史子、ワンストーリー)
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