第528回:EVの普及期はそこまできている!?
「アウディe-tron」の市販バージョンとご対面
2018.10.02
エディターから一言
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アウディ初の量産電気自動車(EV)「e-tron(イートロン)」が、アメリカ・カリフォルニア州でお披露目された。同社の電動化の未来を占う一台の、ファーストインプレッションを報告する。
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マーケットへの投入は2018年後半
メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン(VW)、そしてアウディと、この9月にドイツメーカーは相次いでEVにまつわる具体性に富んだプレゼンテーションを行ってきた。理由は2019年以降、各国で相次いで導入される環境規制に対応するためにEVの重要度が高まっているからだ。
特に中国で2019年度から導入されるニューエネルギービークル=NEV規制では、EV、FCEV、PHEVの販売比率を大幅に増やさなければ普通のクルマの販売に一定の過料が発生することになる。かの地でのビジネスのウェイトが大きいドイツ勢にとって、それが意味するものは言わずもがなだ。ホンダがアメリカ・カリフォルニア州のゼロエミッションビークル=ZEV規制に合致させるために出血覚悟で「クラリティPHEV」を売っているのと同様で、ドイツメーカーも中国でEVの台数を積んでいかないと、高額車の稼ぎ代も見る見る削られてしまうことになりかねない。
アウディはこの渦中にあって、2018年後半から実際に発売するといういわば確定版のモデルであるe-tronを披露。並行して同社の今後のEVモデル戦略を発表した。
e-tronの開発スタートは厳密に言えば2009年にまでさかのぼる。その後、実際にEVの試作車やPHEVの完成車を通して電動化の研さんを重ね、市販EVへとつながる技術的素地(そじ)を蓄積してきた。e-tronのアーキテクチャーは「MLBエボ」をベースにEVへの適合を図ったものだが、現在アウディではEV専用アーキテクチャーとなる「プレミアムプラットフォームE」をポルシェと共同で開発中。あわせてVWが開発を主導するEV専用アーキテクチャーの「MEB」を用いることで、2025年までに12モデルを展開するという。そのバリエーションにはEVの特性を生かしたスーパースポーツやラグジュアリーサルーンも含まれる。さらに電動化については2022年までにすべてのセグメントでPHEVを展開、販売の約3分の1を電動モデルで賄うという野心的目標を立てている。
前後軸にモーターを備えた新世代のクワトロ
車格的には「Q5」と「Q7」の間くらいとなるe-tronは36のバッテリーモジュールを床下に搭載。ひとつのモジュールには12のセルが搭載されており、その総数は432、蓄電容量は95kWhとなる。ラミネートパックされた板状のセルのサプライヤーは明かされていないが、周辺情報からはLGケム製と予想され、e-tronの生産拠点となるアウディのブリュッセル工場に新設されたモジュール化~ユニット化の工程を経て、アッセンブリーラインへは自動運転の輸送車で運ばれる。
バッテリーの動作環境は能力的にも耐久性的にも25℃~35℃が理想とされるが、可能な限りその温度域に保つため、e-tronには4つの異なる液冷サーマルチャンネルが備わっている。また、モジュール表面の粗熱を取り除くために特殊なジェルを用いるなど、温度管理にはことさら気が配られているようだ。
インゴルシュタットで生産される自社設計のモーターはレアアースの使用量を抑えた非同期型。前後軸に1つずつ搭載されており、後軸側の出力が高い。e-tronは通常走行時、この後軸モーターを主に用いており、例えば100km/h前後での高速巡航時は100%後輪駆動となる。とはいえ駆動状況は毎秒1000回単位でセンシングされており、前軸側は常時即応できる状況にあるところが電動モーターらしい。また、前軸側モーターは駆動はもとより、最大0.3Gに達するという減速回生ブレーキに多用される。新世代のクワトロともいえるこれらの駆動バランスは2基のPCU(パワーコントロールユニット)がつかさどることになるが、こちらのユニットには日立パワーエレクトロニクスの技術が採用されている。
内外装のテイストは2015年のフランクフルトショーで登場した「e-tronクワトロコンセプト」に準じており、前後灯の端部に充電池の残量を示すアイコンをイメージしたドットを配するなど、EV特有の意匠も意識されている。内外装において新しいのは、カメラを用いたバーチャルミラーシステムを採用していることで、モニターはダッシュボードからドアパネルにかけての形状と連続性を保ちながらインテグレートされた。ADAS(先進運転支援システム)は「A7スポーツバック」や「A8」などに準ずるハイスペックなもので、機能をコントロールするファンクション系は従来型を踏襲。一方でボイスコマンドには「Alexa」を採用することでAmazonの各種サービスのみならず、照明やガレージシャッターのコントロールなど、車中に居ながらIoTの利便性を享受することが可能だ。
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日本での発売は2019年後半以降
とっぴな動力性能を筆頭としたいかにもEVらしい飛び道具に頼ることなく、総合的な信頼性や安定性を重視したe-tronだが、それでも0-100km/h加速は5.7秒、最高速は200km/hリミットと十分以上のものが与えられる。走行可能距離は欧州のWLTPモードで約400km。150kW級の急速充電を可能としており残量ゼロから30分で80%までの充電が可能だ。日本仕様ではCHAdeMOが採用され、おおむね同様のパフォーマンスが確保されると目される。
短時間ながら実際に乗り込んでみて確認した印象では、実用性が相当意識されたようで、床面がバッテリーによって持ち上がっているにもかかわらずドライビングポジションの違和感は最小限にとどめられており、荷室の容量も十分に確保されている印象だった。ただし高床ゆえに後席の足置きがやや窮屈に感じられるのは他車にもみられるEVゆえのパッケージングの難しさだろう。
e-tronの日本への市場投入は未定だが、2019年後半以降になる見込みだという。既に価格も発表され予約を開始した「ジャガーIペース」や、同じく2019年の導入を目指すメルセデス・ベンツの「EQC」などとともに、日本でもEVムーブメントの一翼を担うことになるだろうことは想像に難くない。
(文=渡辺敏史/写真=アウディ/編集=藤沢 勝)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。