第9回:トヨタ・カローラ スポーツ(前編)
2018.10.24 カーデザイナー明照寺彰の直言![]() |
デビュー以来、走りのよさで好評を博している「トヨタ・カローラ スポーツ」だが、従来モデルとは一線を画すそのデザインは、プロの目にはどう映っているのか? その背景にあるカーデザインのトレンドと合わせ、現役の自動車デザイナー、明照寺彰が語る。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
これがトヨタ流の“すっきりデザイン”
永福ランプ(以下、永福):カローラ スポーツは、走りが非常にイイということで、とても前向きに評価されているモデルですが、デザインはどうでしょう。
明照寺彰(以下、明照寺):最近のトヨタの中では、あまりゴテゴテしてないですよね。
永福:前後ランプには、鎌みたいにとんがった部分が付いてますけど。
明照寺:いや、面構成が基本的にシンプルで、そういう面では好感が持てます。顔まわりにしても、トヨタが最近多用しているガバッとした感じがあまりなくて、むしろボリュームが足りないくらいで。
清水:ガバッとした感じというのは?
明照寺:トヨタは最近、顔をことさら強調するような、つまり“デカい顔”をやろうとしてますよね。例えば「カムリ」とか。
ほった:「WS」じゃない方の“ビューティフル・モンスター”ですね。
永福:確かにガバッと口を開いてますよね。スポーツじゃない方の「カローラ」なんかも。
明照寺:カローラ スポーツもグリルは大きいですが、顔まわりの位置が全体的に低くて、非常にスマートな感じです。サイドビューの面構成もシンプルめでスカッとしている。こういうのはこれからのトレンドになると思います。多分、クルマのデザインはどんどんシンプルな方向に向かっていくんじゃないかな。
永福:複雑にしすぎた反動でしょうか。
明照寺:メルセデスなんかもそうじゃないですか。どんどんキャラクターラインをなくしたりしている。
永福:ライト形状などよりも、主に面やフォルムのシンプル化が進んでいるということですね。
同じCセグメントハッチバックでも全然違う
明照寺:個人的な感覚としては、建築とかスマホが究極のシンプルネスを目指している中で、これまでのような押し付けがましい形状は、過去のものになっていくんじゃないかと思います。「モノよりコト」みたいなところもあるじゃないですか。
ほった:「モノより思い出」っていうCMコピー、ありましたね。トヨタじゃないけど。
明照寺:モノ自体があんまり主張しすぎると、時代的にはそぐわなくなるのかなと感じています。ただ、シンプルだけどカッコよくて新しいってどんな形か。それがすごく難しい。ただ単純にシンプルにするだけじゃなくて、なにか新しさを見つけなきゃいけない。それはこれからのデザイナーの大きな課題です。多くのメーカーが、シンプルだけどカッコよくて新しい形を模索している。カローラ スポーツもそういう一台だと思います。ただひとつ気になった点があります。
永福:どこですか。
明照寺:リアまわりです。サイドビューで見ると、リアゲートがすごく寝ているんですよ。ひょっとしたら、マツダの「アクセラ」よりも寝てるぐらいかな。
永福:アクセラって、実際ラゲッジに荷物積もうとすると、けっこう入らない。
明照寺:リアゲートが寝てるか寝てないかの基準って、主にリアタイヤに対してヒンジの取り付け位置がどこに来てるのかってことになるんですけど、カローラ スポーツは、リアタイヤより内側にルーフの端っこが来てますよね。
ほった:タイヤの中心線よりもですか?
明照寺:そうです。例えば「フォルクスワーゲン・ゴルフ」と比較すると、全然違います。
永福:うわ、こんなに違うんだ。
ほった:なんというか、ある意味「さすがゴルフ」でもありますね。
永福:現行ゴルフって、妙に平べったく幅広くなっちゃって、最初は「実用性落ちてるなあ」って思っていましたけど、こういうところを見るとやっぱり実用性優先なんですね。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
スポーティーに見せたい気持ちは分かるけど
明照寺:ここまでに挙げてきたのは、図面じゃなくパースのついた写真ですから、これだけで一概に比較はできないんですけど、それでもカローラ スポーツはかなり傾斜してますよね。つまり、それだけスポーティーにしたかったんだろうと思うんです。ただ、リアビューを見るとあんまりスポーティーな感じがしないんですよ。アクセラはこれよりずっとスポーティーでしょ?
ほった:理由はわかりませんが、確かに。
明照寺:この差は主に、リアのどこにボリューム感をつけるかの加減で決まってきます。アクセラはきゅっとお尻が高く見えるけど、カローラ スポーツは逆ですよね。
永福:お尻の位置が低いように見えますね。
明照寺:アクセラのリアセクションは全体が一体に感じますが、カローラ スポーツはこれだけリアゲートを倒していて、かつリアまわりの上部も、左右からかなりぐっと絞っている。だからリア上部のボリューム感がすごく少ない。逆にリア下部のバンパーあたりは出っ張っているように見えるので、全体として“垂れ尻”に見えるんです。それがウイークポイントかなと思うんです。
ほった:重心は低く見えればいいってもんじゃないんですね。
明照寺:デザイナーの立場からすると、こういうデザインをしたいのはよくわかるんです。リアの真ん中、トヨタマークくらいから上はうんと絞ってスポーティーにして、逆にそこから下にはアーチ状のエッジをつけて、クルマを地面に押し付ける感じを出そうとしている。これでスタビリティー感を出そうとしているんだと思います。こういうモチーフ、マイナーチェンジ後の「ヴィッツ」にもありますよね。
永福:ですね。取って付けたみたいに。
明照寺:トヨタは最近、こういう形状にこだわってるんだと思いますけど、これ自体が強すぎて、プロポーションが阻害されている感じがありますね。
(文=永福ランプ<清水草一>)

明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
-
第41回:ジャガーIペース(後編) 2019.7.17 他のどんなクルマにも似ていないデザインで登場した、ジャガー初の電気自動車「Iペース」。このモデルが提案する“新しいクルマのカタチ”は、EV時代のメインストリームとなりうるのか? 明照寺彰と永福ランプ、webCGほったが激論を交わす。
-
第40回:ジャガーIペース(前編) 2019.7.10 ジャガーからブランド初の100%電気自動車(EV)「Iペース」が登場。SUVのようにも、ハッチバックのようにも見える400psの快速EV。そのデザインに込められた意図とは? EVデザインのトレンドを踏まえつつ、現役の自動車デザイナー明照寺彰が語る。
-
第39回:アウディA6 2019.7.3 アウディ伝統のEセグメントモデル「A6」が、5代目にモデルチェンジ。新世代のシャシーやパワートレインの採用など、その“中身”が話題を呼んでいる新型だが、“外見”=デザインの出来栄えはどうなのか? 現役のカーデザイナー明照寺彰が斬る。
-
第38回:三菱eKクロス(後編) 2019.6.26 この“顔”はスポーツカーにもよく似合う!? SUV風のデザインが目を引く、三菱の新しい軽乗用車「eKクロス」。迫力満点のフロントマスク「ダイナミックシールド」の特徴とアドバンテージを、現役の自動車デザイナー明照寺彰が語る。
-
第37回:三菱eKクロス(前編) 2019.6.19 三菱最新のデザインコンセプト「ダイナミックシールド」の採用により、当代きっての“ド迫力マスク”を手に入れた「三菱eKクロス」。そのデザインのキモに、兄弟車「日産デイズ」や同門のミニバン「三菱デリカD:5」との比較を通して迫る。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。