第11回:BMW X2(前編)
2018.11.07 カーデザイナー明照寺彰の直言![]() |
既存のBMWとは一線を画すボディーサイドのデザインと、1535mmという低い車高が目を引く「BMW X2」。このスタイリングと実用性の両立は、どのような方法でかなえられたのか。現役のカーデザイナー明照寺彰が、新世代BMWの旗手に迫る。
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ここから新しい“BMWデザイン”が始まる
永福ランプ(以下、永福):明照寺さん、今日のお題はBMW X2です。私はこのデザイン、大いに惹(ひ)かれたんですが。
明照寺彰(以下、明照寺):最近のBMWって、どのクルマもボディーサイドにキャラクターラインを使った凹面がついているんですけど、このクルマはそれがないんですよ。
永福:そうですね。サイドのパネル面が、ラテン車のようにふくよかです。
明照寺:それによって、面がすごく広く感じる。例えば「X1」は、ボディーがショルダーラインのところで、上と下に分断されて感じるんですが、X2はそれがないので、サイドのボリューム感が強く見える。BMWのディーラーに行って実車を見たんですけど、他のBMWが古く感じました。
永福:X2は、BMWデザインの新境地なんですね?
明照寺:比喩(ひゆ)じゃなくて、本当にそうなんでしょう。というのも、この間パリショーで発表された新型「3シリーズ」が、X2とほぼ同じ構成だったんです。“凹キャラ”が無いのもそうですが、ドア面のピークの位置やリアのブリスターみたいなフェンダーなどもソックリ。つまり、新世代BMWデザインの先駆けがこのX2だったようです。今までのBMWは“シャープなBMW”。それに対してX2は“ボリューミーなBMW”。このキャラクターの違いは面白いですね。
永福:私はX1のデザインは、どうにも縮こまってみえて、カッコよく感じなかったんです。コンパクトなSUVのサイドに、セダンやツーリングとまったく同じ手法で前後に貫くエッジを刻んでシャープさを出そうとしていたので、SUVらしいおおらかさが消えてた。「SUVに生まれてスイマセン」みたいに、どっか卑屈に見えたんですよ。クルマとしては実用的ですごくいいので惜しいなぁと思っていたんですが、そこにX2が出た。サイズはほぼ同じで、こっちのほうが断然カッコいい! って色めき立ったわけなんです。
パッケージを犠牲にしていない
明照寺:実用性との兼ね合いも考えられています。X2を見るとキャビンはかなり絞ってるんですけど、サイドウィンドウをあまり寝かせていない。結構立ってるんですよ。そのおかげで、リアシートに乗ってもあまり左右からの圧迫感がない。
永福:BMWの“偶数モデル”なのに、後席の居住性がとてもいい。ヘッドルームも余裕があって、「十分広いじゃん!」って思いました。
明照寺:パッケージングがすごくいいんですよね。多分フロントガラスの位置関係はX1そのままで、Bピラーから後ろだけ作り替えていると思うんですが、そのパッケージがいい。一見キャビンはスポーティーに絞られているんだけど、たたずまいはカチッと感じます。これは次世代のSUVとしてひとつの方向性かなって思いました。
永福:つまり、ぱっと見た印象は相当スポーティーなので、後席は圧迫感があるんだろうなと思うんだけれども、実際はそうではない。
明照寺:そうですね。加えて、ルーフを後端まであまり下げずに持っていってるじゃないですか。
ほった:リアガラスも思ったほど寝てないし、前回の「トヨタ・カローラ スポーツ」で話に出ていたテールゲートのヒンジ位置も、ちゃんと後ろ寄りにありますね。
明照寺:見た目のイメージよりも、パッケージをかなり重視しているのか、それとも偶然そうなったのかわからないですけど。
永福:「X4」とか「X6」って、クーペみたいにルーフが下がってますよね。僕の記憶では、X2よりもX4のほうが後席のヘッドルームに余裕がなかった。X4やX6は“SUVとスポーツカーの融合”がコンセプトなので、わかるっちゃわかるんですけど、個人的にはその融合自体に矛盾を感じていたんです。でもX2は無理に狭くせずにスポーティーに仕上がってるので、実にちょうどいい。フォルムとしてもすごく好みなんですよ。
どうにも気になる「X1」との距離感
ほった:明照寺さんも、常々「デザインのためのデザインはしたくない」と言っていますよね。同じBMWでも、X4とかX6ってまさにデザインのためのデザインじゃないですか。あれはどうなんですか?
明照寺:個人的にはやっぱり、本来ある空間をスタイルのためにスパーンって削ってしまうのは腑(ふ)に落ちないですね。まあ、あれらはもう本当にクーペ的なクルマを欲している人のための商品だと思いますから。多分ああいうモデルを買う人って、そのほかにもクルマをお持ちで、X4やX6については「2人乗り+α」として買うんでしょう。
永福:カッコを優先するのは全然いいんだけど、ルーフが落ちたクーペ的なSUVがカッコいいとは、私にはあまり思えない。むしろ「レンジローバー イヴォーク」みたいな四角いSUVのほうがスタイリッシュに見えるなぁ。
明照寺:僕もX6よりはX5を買いたいですね。でもそれは、自分のあんまり豊かじゃない暮らしの中での話なので(笑)、そこはまったく参考にならない。でもX2は、自分らに近い人たちがターゲットなので、そこをちゃんと考えてるのかなと感じます。
永福:なるほど。
明照寺:その一方で、じゃあ、X1とX2との距離感というか違いって、果たしてどこまであるのかなっていう疑問も湧きますね。
ほった:そうですね。オーナー像や使用シーンを想像しても、ぶっちゃけそんなに違いを感じない。機械式駐車場をよく使う人はX2で、ばかすか荷物を運ぶ人はX1というくらいにしか。あとはデザインの好みで、お好きなほうをどうぞ。という感じですかね。
明照寺:X1とX2の中間くらいのモデルが1つあれば、それで全部事足りるんじゃないか。私なんかは貧乏性なので、ついそう思ってしまいますね(笑)。われわれ作り手は、こういうモデルの企画が出てきたら、「もとのモデルからどれだけ離せるか」っていう風に考えるんですよ。でも、X1とX2は結構近いところに位置している。日本人固有の“もったいない精神”の持ち主としては、つい「どうせ造るんだったらとにかく変えてやろう!」みたいなことを考えてしまうんですけど。
(文=永福ランプ<清水草一>)
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明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。