フォルクスワーゲン・ゴルフGTI エディション35(FF/6AT)【海外試乗記】
感慨ふたたび 2011.07.10 試乗記 フォルクスワーゲン・ゴルフGTI エディション35(FF/6AT)元祖ホットハッチ「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」に、パワーを上乗せしたアニバーサリーモデルが登場。その走りを、ドイツ本国で試した。
35年の集大成
「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」の誕生35周年を記念して、「ゴルフGTI エディション35」という名の特別仕様モデルがデビューした。
150km/hも出れば十分に高性能とされた1970年代半ば、1.6リッターSOHC 4気筒の何の変哲もないエンジンにKジェトロニックを組み合わせて110psを発生し、最高速度180km/hを達成した(『CAR GRAPHIC』1977年10月号で行われた谷田部のテストで、実際に176.9km/hを記録している)初代「ゴルフGTI」は、“I”の文字が意味するインジェクション(燃料噴射装置)に憧憬(しょうけい)と畏怖(いふ)の念とを呼び起こしたことで、日本のエンスージアストにはとりわけ感慨深いモデルだった。
初代ゴルフGTIのすごさ、それは高性能な大排気量車さえ打ち負かしてしまうほどのパフォーマンスを有していながら、外観に一切威圧的な部分がなく、スタンダードなコンパクトカーとまったく変わらぬ扱いやすさを備えていた点にあったのではないか? その意味において、ゴルフGTIはいわゆるホットハッチの概念を塗り替えただけでなく、その後の高性能車のあり方に一石投じたモデルだったともいえる。
その35年分の進化の集大成として登場したゴルフGTI エディション35は、端的にいって“史上最強のゴルフGTI”でもある。最高出力はノーマル比+24psの235ps(173kW)。パワーウェイトレシオは6.04kg/psを実現し、最高速度は247km/hに達するという。
このパワーを受け止める足まわりには、ノーマルGTIと同様、スタンダードなゴルフよりも車高を15mm落としたスポーツシャシーを採用。タイヤはノーマルGTIの225/45R17に代えて225/40R18を標準装備し、オプションで225/35R19も選べるという。いまやゴルフでさえ19インチを履く時代なのだ! これにともない、これまで18インチタイヤとセットオプションとされていた「DCC(アダプティブシャシーコントロール)」も標準装備となるもようだ。
ほどよい主張にニヤリ
もともと控えめな外観には、いかにもGTIらしい上品なお化粧直しが行われた。フロントマスクはスポイラーの一部がブラックアウトされたり、メッキ処理が施されるなどして精悍(せいかん)さを増しているほか、ヘッドライトにLEDデイタイム・ドライビング・ライトを追加した点が特徴的。テールライトにもLEDが採用され、レンズカバーはスモーク処理されている。
インテリアは、伝統的なタータンチェック柄に加え、GTIのフロントグリルをモチーフにしたハニカム模様のシート地もオプションで用意されており、どちらもシートバックには「35」の文字が大きく刺しゅうされている。シフトレバーは初代ゴルフを想起させるゴルフボール・デザインとされた。
試乗車にはプッシュ式のスタータースイッチが装備されていた。そのボタンを軽く押し込んでエンジンを始動させると、はっとさせられるくらい大きなエグゾーストノートが響き渡った。もっとも、周囲の歩行者を驚かせるほどの大音量ではないが、標準仕様に比べると明らかに図太く、迫力がある。乗る者に聞かせることを明確に意識した音作り、そんな印象だ。
225/40R18サイズのコンチネンタル・スポーツコンタクト2がもたらす乗り心地も、スタンダードのGTIに比べると一段と骨っぽい。DCCで「コンフォート」を選んでも、ノーマルGTIの「スポーツ」とほとんど変わりないくらい引き締まった乗り味なのだ。ただし、そこからノーマル、スポーツと切り替えていっても、極端に硬くなることはない。だからノーマルのまま走っても特に不満は覚えないだろうし、それとは対照的に、乗り心地にシビアにこだわる向きなら速度域や路面状況に応じてきめ細やかに切り替えるという使い方もアリだろう。
違いのわかるエンジン
24psが上乗せされたエンジンは、走り始めた瞬間にノーマルGTIとの差を実感させるほどの違いはないけれど、それでも中間加速での力強さやトップエンドでの伸びの良さなどは、211psバージョンとはひと味違うフィーリングを楽しめる。ちなみに、ゴルフGTI エディション35に搭載されるエンジンは、「ゴルフVI」になって採用されたEA888系ではなく、「ゴルフR」や先代ゴルフGTIと共通のEA113系となっている。
おなじみのことではあるけれど、スタビリティの高さには舌を巻いた。今回はフランクフルト空港からニュルブルクリンクに至るまでのおよそ200kmを走行し、速度無制限区間のアウトバーンではメーター読み220km/hまで試したが、この速度域で、しかも当日はときおり小雨がぱらついていたにもかかわらず、ステアリングを握っていて緊張を一切強いられなかった。
そのいっぽうで、いや、それゆえに、ワインディングロードで振り回しながら走らせるのは難しい。リアのグリップの範囲内で小気味いいステアリング・レスポンスを楽しむのが、峠道におけるゴルフGTI エディション35の走らせ方だろう。
日本への導入は今年2011年10月前後。ドイツ本国で用意される3ドアボディや6MTは輸入されず、5ドアのDSGのみとなるもようだが、この判断に不満はない。価格は、18インチタイヤとDCCが標準装備されれば400万円を少しオーバーするはず。ちなみに、大卒初任給がいまの半分だった1977年に並行輸入された初代GTIの価格は345万円。まったくもって、いい時代になったものだ。
(文=大谷達也(Little Wing)/写真=フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】
2025.12.6試乗記マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。






























