ボルボV60 T5インスクリプション(FF/8AT)
やっと帰ってきてくれた 2018.11.26 試乗記 2代目「S60」のステーションワゴン版として登場した「V60」がフルモデルチェンジを果たした。スポーツワゴン的な性格を持っていた初代に対し、こちらは「V90」の血筋を色濃く感じる内外装デザインが特徴だ。日本向けにこだわりをもって開発したという最新モデルの実力を探る。受け入れられそうなデザイン
日本における生粋のボルボファンにとって、先代V60はどんなモデルだったのだろうか。年々あやしくなる記憶をなんとか呼び起こすと、S60(セダン)のステーションワゴン版としてモーターショーデビューを飾ったのが、2010年のフランクフルトであったことを思い出す。もう少し頭を働かせると、V60はボルボのワゴンにして異例ずくめだったことも、併せてよみがえってきた。
例えばエクステリアデザイン。それまでのボルボ製ワゴンといえばルーフがテールエンド近くまで伸び、たとえフロント部分が流行に合わせて多少は丸みを帯びようとも、荷室に目を移せば、そこにある四角を積み重ねたようなカタチがいかにもボルボだった。リアハッチは起立し、その手前にあるサイドウィンドウも特徴的である。よく見れば、フロントドアやリアドア部分よりも、荷室部分のウィンドウが長く大きかったのだ。それは、1961年に誕生した「120」シリーズから2016年に生産を終了した「V70」まで続く、ボルボワゴンのアイコンともいえるデザイン上の特徴である。
そうした伝統的で正統派といえるボルボのワゴンに対して、先代V60は、リアのオーバーハングが短く、荷室部分にはめ込まれた左右のウィンドウも極めて小さい。こうしたディテールが、先代V60をスポーツワゴンだと紹介したくなる根拠でもある。このクルマの誕生は、ある意味ボルボのデザイン革命と言ってもいい、大きな出来事だったのだと今更ながら思う。
荷室横のウィンドウがドアのウィンドウよりも大きいという伝統の方程式に当てはめれば、2代目V60も正統派とは言えないが、初代V60よりは随分と大きくなったその面積と垂直したリアハッチを見るにつけ、幾分の“伝統回帰”を感じるのである。初代V60で「ボルボらしさに欠ける」と感じた保守的なユーザー層にも──実際数年前のラインナップでは「V60では小さすぎるし、V70では大きすぎる」という声が多く聞かれたという──現行V60は受け入れられそうだ。
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ちょうどいいボディーサイズ
V60のボディーサイズは、全長×全幅×全高=4760×1850×1435mm。フラッグシップステーションワゴンとして誕生したV90と比較して、全長で175mm、全幅で40mm、全高で40mmと確実に一回り小さい。しかし、デザインテイストを引き継ぎながらも、単なる大中小の金太郎あめデザインにしなかったのは、ボルボのこだわりなのだろう。
V60とV90の両車を見比べれば、2代目V60のDピラーが立ち気味であることに気づく。V60のボディーサイドは彫りが深く抑揚もあり、全体的に引き締まった印象である。どちらも新世代ボルボのデザイン言語を用いて構築されているのでテイストは同じだが、サイドビューから受ける印象は幾分異なっている。分かりやすくこの2台を個別に表現するなら、V90は大型客船(実際に大きい)、V60は速さを想像させるクルーザー(スポーティーに見える)といったところか。
フロントに回れば、開発年次の差もあり、モダンボルボの顔を構成するうえで欠かせない“トールハンマー”をモチーフとしたヘッドライトやグリル形状も進化していることに気づく。特にヘッドライトは分かりやすく、違いを見いだせる。ハンマーの柄に相当するパーツがライトを突き出しグリルに近づいているので、V90との違いを容易に言い表せる。
フェンダーとツライチになるタイヤの踏ん張り感も、V60のフォルムを一層スポーティーに見せてくれる要素だ。先代V60とは異なるルーフが長く立ち気味のリアハッチを採用する、いかにもワゴンらしいテイストを持ちながらも、このクルマもまたスポーツワゴンなのだと独り言つ。
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同じエンジンなのになぜか速い
見た目も手触りも良い、質感の高いインテリアは相変わらずで、これもモダンボルボの大きな魅力だ。納車まで何カ月もかかるという大人気の「XC40」が味もそっけもないプッシュ式のエンジンスタートスイッチを採用するのに対して、こちらは90シリーズ譲りのローレット加工が施された見た目もエレガントなエンジンスタートスイッチを持つ。ナウでヤングなXC40よりも、高級でアダルトテイストなのだ。これを右にひねってエンジンを掛ける。
日本に導入されるV60には「T6」や「T8」と呼ばれるターボ+スーパーチャージャー+モーターで、しかもプラグイン(外部充電可能)という大三元、役満のようなエンジンも存在するが、現時点では90シリーズでもおなじみの最高出力254psとなる2リッター直4ターボのみが販売されている。散々ここまでスポーティーだと言い続けてきたが、そのエンジンサウンドは官能的でもエキサイティングでもなんでもない、失礼ながらただの2リッター直4ターボのそれだ。
だが、走りだせば同じエンジンを積む90シリーズとは全く違った身のこなしをみせる。カタログ値比較では、重量差はわずか40kgの差でしかないものの、その軽快感は、とても同じエンジンだとは思えないほどに異なっている。もともと重量級のV90でも十分力強い走りを見せるのがこのエンジンなれど、「実はV90よりも50psぐらいパワーアップしているでしょ?」と確認したくなるほどにパワフルに走るのだ。
「エンジンもトランスミッションも、FFだという点も同じなのに(V90よりも)スポーティーに感じるのはナゼなんでしょう? 不思議ですよね?」とは、このクルマの試乗前に導入ラインナップや特徴を紹介してくれたボルボ・カー・ジャパンのプロダクト担当者。それはこっちが聞きたいのだが、インポーターもそう思っているのか。「本国の開発者に聞いても、パワートレインの仕様は同じだと言われた」とのことなのでお手上げなのだが、正確なハンドリングやアクセルの踏み込みに対する反応などは、確実に好印象。とても重量差だけだとは思えない。
プレミアムDセグメントの新たな選択肢
街中でダラダラ走っていても、緻密なつくり込みやボディーのしっかり感が、乗り心地の良さとなって伝わってくる。そこから速度を上げれば上げるだけ、どんどんクルマが体にフィットしてくるような不思議な感覚も得られる。ことさらアジリティーを強調するものではないが、“意のままに操る”感覚が速度アップと共に強くなる。体にクルマがフィットし、同時にクルマが小さくも感じられるこれを、軽快感と表現してもいいだろう。
昔ながらのボルボファンになら、爆発的ヒットを飛ばした2代目V70の追加モデルとして、「フォード・フォーカスST」譲りとなる2.5リッター直5ターボエンジンを最高出力300psに向上させ搭載した「V70R」に近い、とでも言えば伝わるだろうか。ステーションワゴンながら、運転する楽しさも得られるのだ。
残念なのはXC40と同じで、インポーターより「日本にはディーゼルエンジンの導入予定なし」とのアナウンスがなされており、V60のパワートレインは、ガソリンターボもしくはハイブリッド(2種類)の2択となる。参考までにハイブリッドモデルは、2019年春以降の導入と発表されている。
試乗の帰り、アクアラインの事故渋滞に巻き込まれ、木更津から川崎まで1時間以上かかったが、渋滞中はACCを使用し、かなり楽ができたことも付け加えておく。ボルボのADASは、使いやすく実用的なのでありがたい。ただし停止から数秒で全車追従機能が解除されるので、この解除時間も個別に設定できれば完璧だと思う。
デザイン性と質感の高いインテリアに収まるだけでドイツものとの違いに感心し、使って走っては再び「コレよコレ」と納得する。そんなワケで、ドイツ御三家の寡占状態にあった、プレミアムDセグメントの新たな選択肢として、過去に6台のステーションワゴンを乗り継いできた身としては、V60を大いに推したい。中高年が若かりし頃憧れた“ボルボのワゴン”が、やっと帰ってきてくれたといううれしさと共に。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ボルボV60 T5インスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4760×1850×1435mm
ホイールベース:2870mm
車重:1975kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:254ps(187kW)/5500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpm
タイヤ:(前)235/45R18 98W XL/(後)235/45R18 98W XL(コンチネンタル・プレミアムコンタクト6)
燃費:12.9km/リッター(JC08モード)
価格:599万円/テスト車=659万9000円
オプション装備:メタリックペイント<バーチライトメタリック>(8万3000円)/チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円)/Bowers&Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<110W/15スピーカー>(32万円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:3307km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。