第543回:いよいよ日本でも引き渡し開始
「ホンダジェット」は日本の空を変えるか?
2018.12.23
エディターから一言
![]() |
いよいよ日本でも販売が開始された「ホンダジェット」。ホンダが開発した小さな飛行機は、ビジネスジェット不毛の地であった日本のマーケットを変えるか? 羽田空港で行われた初号機の引き渡しセレモニーの様子をリポートする。
![]() |
![]() |
すでに100機以上が運用される人気モデル
2018年12月20日、東京の羽田空港内にて、ホンダジェットの日本における初号機の引き渡しセレモニーが行われた。オーナーの手に渡ったのは、同機の最新モデル「ホンダジェット・エリート」である。
わが国における最初のオーナーとなったのは、個人投資家の千葉功太郎氏。オンラインゲームを手がけるコロプラ社ファウンダーのひとりで、現在はDrone Fund代表パートナーとして、ドローンによる事業を支援するいわゆるエンジェル投資家だ。千葉氏は、実業家のホリエモンこと堀江貴文氏、ソーシャル・ネットワーキング・サービスを提供するグリーの共同創業者である山岸広太郎氏らと、ホンダジェットを共同所有する。
ホンダジェットは、ホンダの航空機事業子会社であるホンダ エアクラフト カンパニーが手がける小型ビジネスジェット機。2015年から販売が開始され、アメリカ、中南米、ヨーロッパ、中国、インドほかで、すでに100機以上が運用されている。翼の上にエンジンを置く独特のスタイルが特徴で、自然層流翼や、自然層流ノーズを採用した洗練された空力処理、カーボンコンポジットを用いた一体成型型複合材胴体といった、ホンダ独自の開発技術により、クラス最高水準の性能を誇る。
その最新モデルとなるホンダジェット・エリートは、欧州最大のビジネス航空ショー「EBACE2018」でデビューを果たしたホンダジェットの改良モデルだ。航続距離が約17%延びただけでなく、客室の静粛性も向上。電子機器のアップデートにより、離着陸時の安定性を上げ、飛行中の安全性もより高度に引き上げられた。
同機は、2018年4月に米国連邦航空局(FAA)から強度、性能、安全性など、諸条件を満たしていることを証明する型式証明を取得。翌月には欧州航空安全局(EASA)、そして12月8日に日本の国土交通省航空局からも型式証明を取得し、今回のオーナーへの引き渡しに至った。
期待がかかる個人需要の開拓
ホンダジェット・エリートの国内受注は6月から開始され、すでに10機を超えるオーダーを得ているという。滑り出し好調だ。同機の販売は、HondaJet Japan(ホンダジェット ジャパン)に指定された丸紅エアロスペースが行い、整備、機体の運用サポートも、同社が担当する。
日本国内には、全国、島しょ部を合わせ、84カ所の運用可能な空港が整備されている。ホンダジェット・エリートは、ベース価格が525万ドル(約5億9000万円)からと、このクラスのジェット機としてはリーズナブルなため、個人ユーザーによる、ビジネス、プライベート用途両面から新しいライフスタイルが開拓されるのではと期待される。
ホンダジェット・エリートのボディーサイズは、全長12.99m、全幅(翼幅)12.12m、全高4.54m。乗員2名、乗客5名、または、乗員1名、乗客6名の、最大7人まで搭乗できる。
最大巡航速度は782km/h。最大運用高度は約1万3000m。燃費の良さも自慢で、2661kmの航続距離を持つ。東京から、北京、上海、さらに台湾への直行も可能だ。
ホンダジェット・エリートのファーストオーナーとなった千葉氏は、なんと同機のテレビコマーシャル(企業CM)を見て購入を決めたという。購入に先立っての同乗飛行では、室内の静かさと、離着陸時の安定性に感銘を受けたと話す。
共同オーナーとなる堀江氏は、キャビンの広さと快適性を絶賛。また、わが国で航空機開発が断絶していたなか、新たな機体を進空させ、エンジンを含めて実用・商用化したことに敬意を表した。同じく共同オーナーの山岸氏は、目先の利益にとらわれない、息の長いプロジェクトの重要性を再確認したという。
果たされた1986年からの悲願
ホンダが航空機の基礎研究をスタートさせたのは、1986年。99年には、小型ターボファンエンジン「HF118」の開発に着手している。その後、機体とは別に、航空エンジンの開発を統括するホンダ エアロ インクを設立。これは、航空機事業の経験が豊富なGEとの合弁会社「GE Honda エアロ エンジンズ」に発展し、量産型小型ターボファンエンジン「HF120」の実用化に成功した。
ホンダジェット・エリートの日本における初号機の引き渡しは、日本が航空機開発の断絶を乗り越え、新たなステージに立ったことを象徴する。ホンダ エアクラフト カンパニーの藤野道格社長は、「ホンダジェットを日本の空で飛ばすことは、われわれの悲願でした」とコメント。「日本におけるビジネスジェットの普及、さらには新しい交通システムの創造を目指していきたい」と抱負を語る。
ビジネスジェット使用の経験が長い堀江氏は、「日本には、ビジネスジェットを運用する経済力も、空港も数多くある。あとは(潜在顧客の)意識次第だ」と、ポテンシャルの高さに言及。「ビジネスジェットなんて、別世界のハナシ」といった感覚が薄まれば、一気に普及する可能性があるという。
ビジネスジェット不毛の地であった日本で、ホンダの航空機がマーケットの起爆剤となるのか。注目される。
(文と写真=ダン・アオキ/編集=堀田剛資)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して 2025.10.15 レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。
-
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た 2025.10.3 頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。
-
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す 2025.10.3 2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
-
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す 2025.10.1 横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。
-
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ 2025.9.18 BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(前編)
2025.10.19思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル」に試乗。小さなボディーにハイパワーエンジンを押し込み、オープンエアドライブも可能というクルマ好きのツボを押さえたぜいたくなモデルだ。箱根の山道での印象を聞いた。 -
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】
2025.10.18試乗記「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。 -
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。