なんで北米専売なの!?
STIのスペシャルマシン「S209」に思うこと
2019.01.30
デイリーコラム
諦める理由を探しつつ……
STI(スバルテクニカインターナショナル)のコンプリトーカーの最高峰「Sシリーズ」初となる米国市場向けモデル「S209」がデトロイトモーターショーで発表され、日本のスバリストは騒然となった。
最大の注目ポイントは、最高出力341psというスバル車史上最強のスペックと、ド派手なオーバーフェンダーによるワイドボディー。見た目からしてこれまでのSシリーズとは一線を画す迫力があり、「最近のSTIコンプリートカーにはなかった領域まで踏み込んだ!」と思えた。全幅は1839mmほどと、かなりワイドになっている。
どうやらリアフェンダーは後付けの様子で、伝説の名車「インプレッサ22B STiバージョン」で見られた鋼板プレス製のブリスターフェンダーのように「ホワイトボディーのリアクオーターパネルを一度切断してからブリスターフェンダーのパネルを溶接する」というほど手の込んだものではないものの、フロントフェンダーはS209専用とのことだ。
エアロパーツも、より機能的で大胆なデザインになっており、やはり、外観については相当踏み込んだといえる。北米専売車でこれを実現したのは、日本のスバルファンとしては複雑な心境で、悔しさと寂しさが禁じ得ないという人も多かったはず。実際、そういった声はちまたに噴出していた。
「S208」の正当な後継モデルというのに北米専売とは! 日本のスバリストの間では、スバルの北米市場傾注のさらなる高まりを危惧するそんな声も聞こえてきた。しかし、逆の立場になって考えると、是非に及ばずという思いもある。これまで北米のSUBIE(熱狂的なスバルファン)たちは、Sシリーズが日本でしか売られないことに長らく耐え忍んできたので、今回ばかりは北米SUBIEたちの積年の夢がついにかなったと思えば諦めがつく。
“バランス取り”こそ肝心
そんなS209を見て、「最近のSTIコンプリートカーにはなかった領域まで踏み込んだ!」と思える部分がある一方、「仰天レベルのサプライズはなかった」というのも正直なところ。個人的に、今回の限定車が北米専売であるのを諦められる理由もそこにあったりする。
エンジンは、ピークパワーはスバル車史上最高ながらも、ベースが北米市場向け2.5リッターのEJ25。もちろん悪いエンジンではないが、EJ20と比較すると高回転域をあまり得意としない特性がある。排気量の大きさがもたらす低速トルクの太さと、大径ターボチャージャーによるピークパワーのさく裂感はすさまじいだろうが、8000rpmまで回しても頭打ち感の少ない最新のEJ20ほどの甘美なエンジンフィールはおそらく得られないはずだ。
チューニングの内容にしても、ピストンやコネクティングロッド、バルブスプリングは強化品で、大容量インジェクターや燃料ポンプなど専用チューニングパーツが採用されてはいるが、Sシリーズのキモともいえるバランス取りが施されるとの発表はなかった。
「専用吸気ダクトなどで吸気抵抗を徹底的に低減した」とあるとおり、これまでのEJ25とは明らかにベツモノといえる仕上がりになっているのは間違いない。乗れば、壮絶に気持ちよくて感激するのも間違いないだろう。しかし、それでもS208や「RA-R」に搭載されたEJ20と比べると、やはりフィーリング面では一歩譲るのではなだろうか。
国内のSシリーズでも、「レガシィ」の「S402」に搭載されたのはバランス取りなしのEJ25で、それでも十二分に気持ち良いフィーリングが得られたことを思い出すと、ささいなことといわれるかもしれないが、ユーザー心理としては水平対向エンジンのバランス取りの有無は大きなポイントになる。
スバルのモータースポーツ専門組織として立ち上がったばかりのSTIが最初に挑戦したプロジェクトは、かの有名な初代レガシィによる「10万km世界速度記録」。その時のマシンや、最初に発売されたSTIコンプリートカーでもバランス取りは実施された。吸気ポート段差修正研磨や回転部分の入念なバランス取りなどを職人の手作業で行うことはSTIの伝統のひとつでもあるので、それが実施されないとすると、画竜点睛を欠くと思えなくもない。北米専売にじだんだを踏んで悔しがる日本のファンとしては、ある意味ちょっと安心する部分でもある(笑)。
物足りなさもなくはない
ワイドトレッド化がもたらす操縦性についても想像するしかないが、スバル車史上最大幅となる265/35R19というタイヤサイズには注目だ。タイヤはダンロップの専用開発品で、ゴールド塗装のBBS製19インチ鍛造ホイールと組み合わされる仕様がある(車体色がWRブルー・パールのホイール色はマットグレー、クリスタルホワイト・パールのものはホイール色がマットゴールド)。東京オートサロン2019でもゴールド塗装の「WRX」のコンセプトカーが出展されたが、WRC黄金期をイメージさせる純正ホイールのゴールド塗装化を歓迎する声は非常に多い。
サスペンションは専用開発のビルシュタインダンパーで、どうやらフロントは最近のSシリーズで採用されてきた減衰力可変式の「ダンプマチックII」ではないもよう。よりスパルタンな味としたのか、新たなセッティングの方向性は気になるところだ。もちろんコイルスプリングや強化ブッシュも専用品で、STIが得意とする“フレキシブル系”の補強パーツも装着される。そして、軽量化や低重心化、独自の車体のいなしをもたらすカーボンルーフも採用。
いずれもスバリスト垂涎(すいぜん)の数々だが、仕様書を見る限りにおいては、ファンの予想をはるかに超えるものではなかった。おそらく、乗れば確実にもん絶させられるはずだが、やはり、どこか物足りなさを感じなくもないのが正直なところなのだ。
真打ちは、現行型WRX最後の(EJ20搭載車としても最後の)限定車とウワサされる、次のSTI車にあると推測する。
それが伝説のインプレッサ22B STiバージョンを超えるSTI車となるためには、クルマの内容も大事だが、モータースポーツで輝かしい戦績をあげることが極めて重要となる。STIがニュルブルクリンク24時間耐久レースでの連覇や全日本ラリーの完全制覇、そしてSUPER GTでのチャンピオン獲得を成し遂げたところに、満を持してS209を凌駕(りょうが)するスペシャルマシンが登場するというのがスバリストにとっての最高のシナリオ。その実現のためにわれわれファンができることは、スバルのモータースポーツ活動を応援することに尽きる。栄冠に輝くための後押しに励みたいとの思いを新たにした次第だ。
(文=マリオ高野/写真=佐藤靖彦、スバル/編集=関 顕也)
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マリオ高野
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