第548回:レクサスが全国各地の若き匠のモノづくりを支援
「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2018」をリポート
2019.02.02
エディターから一言
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今年で3回目を迎えた「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT(レクサス ニュー タクミ プロジェクト)」、その集大成となる制作発表イベント(商談会)が2019年1月24日に東京・日比谷で開催された。会場で出会った匠(たくみ)たちに、作品に込める思いを聞いた。
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日本のモノづくりを世界へ
LEXUS NEW TAKUMI PROJECTは、まだ広く世に知られていない若手の職人・工芸家・デザイナーの才能を発掘し、彼らの新たなモノづくりが、ゆくゆくは世界レベルで戦えるようなプロダクトとして世に出るのを後押しするというもの。
3年目となる本年度の匠は総勢50人。制作にあたっては、初年度からスーパーバイザーを務めるプロデューサーの小山薫堂さんや、サポートメンバーとして参加している、アートプロデューサーの生駒芳子さんら4人が匠たちの工房に足を運び、直接アドバイスを行ってきたという。
今回選ばれた「注目の匠」は、革職人や瀬戸焼作家など4人。サポートメンバー全員が「迷いに迷った」と口にする中、スーパーバイザーの小山さんの心をつかんだのは、高知県の岡部創太さんが制作した、木工のイスだった。
小山さんは、廃材ならではの素朴な風合いを残した作品を前に、
「見た瞬間、使ってみたいと思ったし、木の持つ力や運命みたいなものを感じた」と講評、置きたい場所もひらめいたと、作品の印象を語った。
さらに、この作品を通じて多くの匠に伝えたいこととして、こう続けた。
「匠の方は、技を使って、誠実にやるほどいいものができると信じている場合が多い。ところが、消費者にとっては、コストが上がり過ぎたり、その前段階で十分に素晴らしいものであったりすることもある。誠実な仕事だけが完璧ではないし、今までやってきたことだけを極めていくことが正解ではないということを、ぜひ知っていただきたい」(要約)
小山さんによる、前向きな“手抜きのススメ”は、3年間を通して得られたひとつの指針として、今後大きな意味を持っていくのではないだろうか。
匠たちの新たな挑戦
サポートメンバーが選んだ匠以外に、記者が注目した匠たちを紹介したい。
まずは、鹿児島県の薩摩錫(すず)器職人・岩切洋一さん。2014年の福岡モーターショーで出展された、レクサスの九州オリジナルカスタマイズカーの制作にかかわったメンバーのひとりだ。ステアリング部のエンブレムやリムの装飾、タンブラー制作を担当している。
今回出展しているのは錫製の茶筒。金属としては比較的やわらかいといわれる錫を、1000分の1mm単位で加工する高い技術を要する。
実際に手に取り、蓋(ふた)の開け閉めをしてみると、筒と蓋とがまるで磁石のように吸い付く感覚があり心を奪われた。気密性が高く、自然にゆっくりと蓋が閉まる様子は優雅でもある。
「ステイタスの高いクルマに伝統工芸を施せるというのは、すごくうれしいこと。これから登場するクルマにも実際に取り入れられるといいなと思います」(岩切さん)。
兵庫県の漆芸家、江藤雄造さんは、透明なアクリル板の表と裏に桜やチョウの蒔絵(まきえ)を施したアート作品『夢見華蝶図』を出展。板を重ねることによって生まれる立体的な見え方や影を楽しめる作風が目を引いた。
制作期間は約半年。漆を塗っては乾かすということを繰り返し、最終的に金粉や銀粉、プラチナ紛を蒔(ま)いて描いていくが、アクリルと漆は定着しにくいため、独自の加工をして漆を塗り重ねている。
「桜の花には銀、白いチョウの部分にはプラチナを使用しています。プラチナには色が変わる性質はありませんが、銀は腐食すると薄ピンク色に変わるので、桜にぴったりなんですよ。以前乗っていたクルマには、Aピラーの内側に黒い漆を塗って、その上に桜の花びらを全面に散らしていました」(江藤さん)
「とにかく、モノをつくることが好きなんです」。その生き生きとした口ぶりから、江藤さんの創作意欲の強さが伝わってくる。
新潟・白根仏壇の伝統工芸士、佐藤裕美さんも蒔絵のプロだ。
代々仏壇の製造販売を手がける家に生まれ、自身で6代目。伝統工芸士の両親のもとで修業し、20年のキャリアを積む。
今回出展したのは、ステンレス製の酒器の内側に蒔絵を施したもの。水や酒を注ぐと、注いだ部分だけ色が変わり、金や銀の蒔絵が輝きを増す。
「最初はモダンな和柄がいいと思い、市松模様などを描いていたんですが、噴きつけたり、スポンジでポンポンと叩いたりして蒔絵したものを遊び感覚で作ってみたんです。それが、サポートメンバーの方から好評で。『これがいい、むしろ偶然のなりゆきでいい』と。描くということを封じられたという点で、とても新鮮でした」(佐藤さん)
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3年間の集大成イベントを予定
蒔絵師であるにもかかわらず、「描くということを封じられた」という佐藤さんの言葉は印象的だ。先に触れた小山さんの提言にも通ずる部分がある。
サポートメンバーのひとり、生駒芳子さんは選考後の総評で、以下のように述べた。
「この段階にきて、私たちがチェックするのは価格。ものすごく作られたものがいいのはわかっているが、『この価格かな?』というものもあった。作って終わりではなく、マーケットの中で実際に使っていただく方の手に届くことが、このプロジェクトのこれからの課題になると思います」
全方位的に力を注ぐのではなく、こだわりにもメリハリをつけ、製品として適正な価格で販売できるようにすることも重要なのだ。
その製品化の一歩として、レクサスでは新たな試みをスタートさせている。
これまでこのプロジェクトに関わってきた4人の匠の作品を「LEXUS collection」の新商品として打ち出し、販売を始めたのだ。
また、2019年の秋ごろには、3年間の活動の区切りとして、これまで参加した匠とその作品とが一堂に会するイベントを企画している。匠の作品だけでなく、匠と世界で活躍するクリエイターとがコラボレートしたインスタレーションも発表する予定だ。
世界への扉を開くプロジェクト、今後の展開が楽しみだ。
(文と写真=スーザン史子)
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