ポルシェ911カレラS(RR/8AT)/911カレラ4S(4WD/8AT)
さりげなく 惜しみなく 2019.02.06 試乗記 2018年11月にロサンゼルスモーターショーでデビューした8代目「ポルシェ911(タイプ992)」に、スペイン・バレンシアで初試乗。新型911のベースモデルともいうべき「カレラS」と「カレラ4S」のステアリングを握れば、タイプ992の実力とポルシェの狙いがきっと見えてくるはずだ。最新911シリーズに受け継がれる記号
1963年9月に開催されたフランクフルトモーターショーの会場で、「356」の後継という位置付けを担いつつ発表されたのが、ポルシェのブランニューモデルとなった「901」だった。
“真ん中にゼロを置いた3桁数字”を商標として押さえていたプジョーからの指摘により、後に改名を余技なくされたこのモデルこそがもちろん、今へと続く、不朽のスポーツカーといわれる911の歴史の始まりだ。
後方でルーフラインが大きく落ち込んだ“猫背”スタイルの2+2ボディー、その後端に水平対向デザインのエンジンを低く搭載する……という独特のパッケージは、前出356から受け継がれたものである。
一方で、そんなニューモデルならではという新しいトピックは、356の4気筒に対してアップグレードが図られた6気筒エンジンの搭載というものだった。
かくして、“猫背ボディー”にリアエンジンレイアウト、そして水平対向6気筒エンジンというこの3つは、「いずれか1つでも欠けたらそれは911ではない」という、極めて重要なアイコンとなっていく。
誕生から軽く半世紀が経過した今になっても続く、最新911シリーズにも当然これらの記号はしっかりと受け継がれることになっている。
技術上のトピックには事欠かないが
昨2018年11月に開催されたロサンゼルスオートショーで発表された、前出の初代モデルから数えると8代目ということになる最新の911。地中海西部に面したスペイン第3の都市、バレンシアで開催されたこのモデルの国際試乗会は、これまで複数回参加してきた911イベントの中にあっても、実はことさらにその歴史が強調されたプログラムであった。
イベントの起点であるバレンシアサーキットのピット内には、いかにも好事家の琴線に触れそうな古いツール類などが多数持ち込まれて、“往年のサーキットにおけるレース前のような光景”が醸し出される凝ったディスプレイを作り上げていた。
そして、そこを舞台に行われたプレゼンテーションでは、タイプ992と呼ばれる最新モデルと共に、ツッフェンハウゼンにある博物館から持ち込まれたミントコンディションの初代モデルが、自走で舞台に登場し、はるか半世紀以上も前から連綿と受け継がれる、911のDNAがアピールされることになった。
そんな凝った仕掛けは、実はこのサーキット内にのみとどまるものではなかった。宿泊に用意された都心のホテルでは、何と各フロアを年代順で分け、エレベーターホールには当時流行(はや)った電化製品や玩具などをディスプレイ。その上で、各年代をほうふつとさせるポルシェのプロモーション画像が同時に上映されるという、心憎いばかりの演出も行われていたのである。
こうした普段にも増して、かくも歴史を強くアピールした今回のイベントの背景には、「もしかすると、歴代のフルモデルチェンジに比べると、今回はハードウエア面で飛び道具(=新機軸)が少ないことも関係しているのかな?」と、そんな思いをちょっとばかり抱かされることになったのも事実。
確かに、PDKが8段化されたり、深絞りが与えられたリアフェンダー周りまでがアルミ材となったり、エンジンの燃料噴射システムにピエゾ機構が用いられたり……と、細かく見れば今回も技術上のトピックには事欠かない。
しかし、それでもついにエンジンが水冷化された「タイプ996」や、ボディーへの軽合金使用量が一気に増した「タイプ991」などの登場シーンに比べると、幾分技術的なインパクトが弱い印象は否めない。
率直なところ“タイプ991の正常進化版”というイメージも強く漂う新型では、そんな地味さ加減(?)を補う意味もあってその歴史に強いスポットライトが当てられたのでは!? という邪推も成り立ってしまったというわけである。
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GT3 RSにヒケを取らない加速力
しかしながら、「それでも乗ったらすごかった」とハナシが続くのが、モデル末期でも最新スポーツカーの最先端を行く実力を備えながら、さらに飛躍への挑戦を続ける911というモデルのすごいところ。まずはタイプ992シリーズの中で先頭切って現れたカレラSとカレラ4Sのクーペが用意された今回のテストドライブでも、あらためてそんなことを認識させられたのは言うまでもない。
微粒子フィルター装着という時代の要請に応えた環境対応策を図りつつも、電子制御式のウェイストゲートバルブや、シンメトリック構造のツインターボチャージャー、ピエゾインジェクションシステムや新レイアウトによるインタークーラーなどを採用することで、従来型比で30psと30Nmのパフォーマンスアップを実現させた3リッターエンジンは、絶対的な出力が強力であることはもとより、低回転域からのレスポンスが従来型以上に俊敏になっていることに驚かされた。
何しろ、カレラSを駆ってのサーキット全力走行では、先導する「GT3 RS」にヒケを取らない加速力を発揮する……どころか、コーナー立ち上がりなど比較的低回転域からのピックアップがモノをいう領域では、時にそんな先導車との距離が縮まるシーンすら垣間見ることができたのだ。
ちなみに、例によって“走りのオプション”をフル装備した今度のカレラSは、ニュルブルクリンクの北コースを従来型より5秒速い7分25秒でラップするという。そのタイムは、もはや完全に「スーパーカーの領域」だ。“普通のカレラS”ですらそんなデータをたたき出すことができるという点に、新型の並々ならぬポテンシャルの高さが早くも証明されているのである。
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効果的なリアアクスルステア
サーキット走行で、そんな絶対的な速さとRRレイアウトゆえの圧倒的なトラクション能力にあらためて感心させられた後、そこを基点に設定された一周70kmほどの一般道コースをカレラSとカレラ4Sでそれぞれ走ってみると、今度はそれぞれリアアクスルステアリングやアクティブスタビライザーをオプション装着した車両同士であっても、わずかながらも走りのキャラクターが異なることを教えられることとなった。
端的に言えば、前輪の接地感がより高く、リア側を軸としたピッチモーションがより少ないのがカレラ4S。個人的な好みとしても、より魅力的に感じられたのは実はこちらのモデルだった。
カレラSとの50kgの車両重量の違いは、当然「フロントアクスルへと掛かる荷重の違い」と読みかえることができそうだ。実際、タイトなS字コーナーの切り返しシーンなどではカレラSの身のこなしの方が“ひらり”とした感覚がわずかながら高くも思えるが、しかし、だからといって回頭性のシャープさで、カレラ4Sが見劣りするというわけではない。もちろん、こうした場面ではリアアクスルステアによる瞬間的な逆位相制御も威力を発揮しているはずで、すなわちこのオプションアイテムの効果は、あるいは「カレラ4でこそより顕著」という見方もできそうだ。
いずれにしても高速道路の割合が少なく、道幅が狭くタイトなコーナーが連続する今回のコース設定の中で、リアアクスルステアの逆位相制御領域をありがたく感じる場面が多かったのは、カレラSであっても共通の事柄だったことは付け加えておきたい。
ストップ&ゴー機能やステアリングアシスト機能が加えられたというアダプティブクルーズコントロールや、84個のLEDチップを用いたマトリックスヘッドライト、赤外線カメラを用いたナイトアシスト等々と、このモデルで新設定されたさまざまな新デバイスの実力をゆっくり試すことは、残念ながら今回のテストドライブではできなかった。
しかし、そんなADAS系のバージョンアップやコネクティビティー機能のアップデートなども、もちろん新型ならではの売り物ということになる。
なるほど、派手な“飛び道具”は見当たらないものの、フルモデルチェンジだからこそできることが惜しみなく注ぎこまれた最新世代の911――これこそが、タイプ992を最も的確に表すフレーズであるはずだ。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ポルシェ911カレラS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4519×1852×1300mm
ホイールベース:2450mm
車重:1515kg(DIN)
駆動方式:RR
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:450ps(383kW)/6500rpm
最大トルク:530Nm(54.0kgm)/2300-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20/(後)305/30ZR21
燃費:8.9リッター/100km(約11.2km/リッター、欧州複合サイクル)
価格:--万円/テスト車=-- 円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ポルシェ911カレラ4S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4519×1852×1300mm
ホイールベース:2450mm
車重:1565kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:450ps(383kW)/6500rpm
最大トルク:530Nm(54.0kgm)/2300-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20/(後)305/30ZR21
燃費:9.0リッター/100km(約11.1km/リッター、欧州複合サイクル)
価格:--万円/テスト車=-- 円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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