第549回:世界ラリー選手権がいよいよ開幕!
モンテカルロから世界最高峰の戦いをリポート
2019.02.07
エディターから一言
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いよいよ開幕した2019年の世界ラリー選手権(WRC)。今シーズンの見どころは? 初戦となったラリー・モンテカルロの結果は? 世界中を飛び回るカメラマンが、ラリーの魅力をスペシャルステージ(SS)の際からお届けする。
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あの“絶対王者”が新天地へ
あっという間のシーズンオフが終わり、早くも開幕を迎えた2019年のWRC。「あっという間」とはいえさまざまな変化があったので、まずはその辺りからご紹介しましょう。
まずはなんといっても、ドライバーズタイトル9連覇の“絶対王者”、セバスチャン・ローブのヒュンダイ移籍です。丸の広島→巨人移籍なんて比べるのもはばかられるほどの、地球規模の大ニュース。キャリア初期からWRCはシトロエン、ダカールはプジョーと、“PSAグループ一筋”で活動してきたローブの移籍は世界中のラリーファンを驚かせました。
3年ぶりのWRC復帰となった昨シーズン(2018年)のスペインで、まさかまさかの優勝をかっさらい、「俺、まだイケんじゃね?」と思ったかどうか。問題は所属チームのシトロエンで、メインスポンサーのアブダビがなんと撤退! 台所事情が悪化した同チームに、新加入のセバスチャン・オジェ(Mスポーツ・フォードから移籍)、エサペッカ・ラッピ(トヨタから移籍)を含む3台を走らせる余裕はありませんでした。かつてチームメイトだったローブとオジェの関係が微妙だったことは周知の事実ですが、もう昔の話だし、ふたりともオトナなんだし、「すわシトロエンの時代到来か!」と思ったんですけどね……。
で、そのローブが加入したヒュンダイは、ティエリー・ヌービルを筆頭に、アンドレアス・ミケルセン、そしてダニエル・ソルドがローブとマシンをシェアする形で参戦。ヘイデン・パッドンは残念ながらシートを失うことになりました。環太平洋地域(ニュージーランド)から参戦していたただひとりのワークスドライバーだったので、応援してたんだけどなあ。しかし、ローブとソルドがサブだなんて、ぜいたくな布陣だと思いませんか? 野球で言うと丸が抜けても長野が加入、投手陣の層も厚い広島みたいな感じでしょうか。
盤石の体制を整えたトヨタ、気になるのは……
続いてMスポーツ・フォード。こちらはオジェが抜けて、なんというか一気に存在感が薄くなった感が否めません。テーム・スンニネンとエルフィン・エバンスの残留組に加えて、シュコダから下位カテゴリーのWRC2に参戦していた、元WRC2王者のポンタス・ティデマンドが加入。若手3人衆がどこまで上位に食い込めるかがカギといえるでしょう。またまた野球で例えると、「少年隊」なんて恥ずかしいネーミングで若手選手を売り出していた、80年代後半から90年代にいたる暗黒時代の阪神でしょうか……。
最後に紹介するのは、昨年マニュファクチャラーズタイトルを獲得したトヨタ。こちらはヤリ=マティ・ラトバラとオット・タナックが残留。エサペッカ・ラッピがシトロエンに移籍した代わりに、昨シーズン途中でシトロエンをクビになったクリス・ミークが加入しました。ヒュンダイと同じく3台体制ですし、飛ぶ鳥落とす勢いのタナック、安定して上位に入るラトバラの2人に加え、ハマればめちゃくちゃ速いミークがきちんと仕事をすれば、マニュファクチャラーズタイトル連覇も十分狙えるでしょう。ただ、ミークのクラッシュの多さがちょっと……いや、かなり心配。師匠である“壊し屋”マクレーも、天国から応援してると思うんですけど。
と、ざっと今年の体制をご紹介した上で、いよいよ開幕戦ラリー・モンテカルロの結果を振り返らせてもらいます。昔は「雪と氷の~」なんて形容されていましたけど、最近は雪も少なくて寂しい感じのモンテカルロ。とはいえ、山の上は圧雪だったり凍結だったりで、今も昔も特殊かつ難易度の高いラリーであることには変わりはありません。タイヤ選択が非常に重要なこのラリーで、近年圧倒的な強さを見せているのがセバスチャン・オジェ。フタを開けてみれば、やっぱりというかなんというか、2014年から同イベントを5連覇しているオジェがラリーをリードし、わずかに遅れてヌービルが続く予想通りの展開となりました。初日のナイトステージをトップで終えたタナックは、DAY2でホイールを破損して後退してしまいます。
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WRC開幕戦はまれに見る大接戦に
あまりに特殊なラリーゆえ、タイヤ選択でギャンブルに出るチームやドライバーも多いモンテカルロ。DAY3では唯一“スタッドなし”の冬用タイヤを選択したタナックが、すべてのSSでベストタイムをたたき出し、4位ラトバラとの差を15秒まで縮めてみせました。一方、トップ争いもまれに見る接戦となり、オジェとヌービルがわずか4.3秒差で最終日を迎えることとなります。そこに続くラトバラ、ローブの3位争いに割って入ったのが、最終日を5位でスタートしたタナック。バチバチのバトルを繰り広げるオジェとヌービルを超えるタイムをたたき出し、ラリーを盛り上げました。
優勝争いも最終ステージまでもつれ込みました。オジェ、ヌービルともに本気の全開アタック。現場にいると目の前しか見えないけど、あとで映像を見て鳥肌が立ちました。結果はオジェがわずか2.2秒差でモンテカルロ6連勝。シトロエンにWRC通算100勝目をプレゼントしました。一方、トヨタ勢では猛チャージを見せたタナックが3位まで順位を挽回。ラトバラが5位、ミークが6位と、全選手がポイントを獲得してラリーを終えました。
終わってみれば予想通りの面々が上位を占めた2019年のモンテカルロ。しかし、1位オジェと2位ヌービルの差はたったの2.2秒! こんな僅差で終わったモンテカルロは、見たことがありません。
ラリーはサーキットを周回するレースとは違って、パッと見では状況が分かりにくいモータースポーツですが、リザルトからタイムを追っていくと、現場にいなくてもハラハラドキドキできるというもの。ただ、もし可能ならばステージに足を運ぶことをオススメします。ラリー車が目の前を通過するのは一瞬ですが、その場所にたどり着くまでの道のりや、観戦ポイントでの長ーい待ち時間もラリーの醍醐味(だいごみ)。リエゾンやサービスパーク、表彰式での選手との一体感は、サーキットでは味わえないものです。結果だけじゃなくて、そんなラリーの雰囲気を皆さんにお伝えできれば……なんてマジメなことを言うと気味悪がられるので、今年も自分が、目いっぱい楽しんでこようと思います。
(文と写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
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