第123回:タイヘンな盲点
2019.02.12 カーマニア人間国宝への道中のアンコよりガワが大事!
オッパイは大きければいいってもんじゃない! もうパワーも加速もおなかいっぱい! スーパーカーはもっと別の何かを目指さなくてはイカン!
で、その「別の何か」の第1候補は、間違いなくカッコだ。スーパーカーにとって一番重要なのはカッコ。カッコよければすべて良しなのである。
そういえば、昔々、私がまだフェラーリを買うずっと前、友人が真顔でこんな話をしていた。
「オレさぁ、ガワがフェラーリなら、中身は『サニー』でいいんだよ!」
当時は私も友人も、フェラーリの中身がどんなであるか、乗ったことないので1mmも知らなかったが、カッコだけでもフェラーリはウルトラ魅力的であり、中のアンコなんかどうだっていい、ガワだけくれ! と思っていたのだ。
あれから三十数年という月日が流れ、いま再び、中のアンコよりガワが大事! という時代が来たわけですね。感慨無量。
で、「BMW i8」に話を戻しますが、i8のエンジンは3気筒の1500cc。そこだけ見れば、まさにサニー! いや、サニーは4気筒だったからそれ未満! その弱点を合成音のエンジンサウンドが見事にカバー! ガワのカッコよさはフェラーリ以上! これこそまさに、若き日に夢見た、リーズナブルなスーパーカーそのものじゃないか! 2000万円以上するけど。
スーパーカーの穴と割れ目
今回初めて試乗させていただいて、初めて細部までマジマジと観察しましたが、細部までパーフェクトにカッコよかった! リアフェンダー根元の割れ目みたいなところなんか、まさにスーパーカー! 真剣な話、i8はメチャクチャカッコいい。死ぬほどウルトラカッコいい。最初からそう思っていた。
昔々、スーパーカーブームの頃、とある少年は、目黒通りのスーパーカー屋で初めて実物の「ディノ」を見て、度肝を抜かれたという。
「ディノって、サイドにエアインテークがあるでしょう。マンガにも描いてありましたけど、本当にあんなところに穴が開いているんだ、腕が入っちゃうくらいの大きな穴が、って、すっごい驚いて。国産車で、あんなところに穴が開いてるクルマなんて、ないじゃないですか。すっごいクルマだなあって、感動しましたね」(関口英俊氏談)
この少年は大人になって、オレンジ色の「カウンタックLP400」のオーナーになりました。目頭じんわり。
スーパーカーの魅力のひとつ。それは穴や割れ目である。フツーのクルマにはない穴や割れ目は、少年のココロをたまらなく刺激する。
i8は、その条件を完璧に満たしている。もちろん全体のフォルムや、スイングアップするドアもメチャメチャカッコいいけどさ。このカッコだけで、買う価値は十分あるんじゃないか!?
確かにエンジンは3気筒の1500ccだが、ターボで231psをたたき出すし、前輪を駆動する143psの電気モーターが十二分に補完する。それでなんの不満があるだろう!
i8はドアに難アリ
そんなことを思っていたら、たまたま撮影現場に同業者の五味康隆君がやってきた。五味君といえば、元i8オーナー! なんという偶然! 早速話を聞いてみよう。
清水(以下 清):五味ちゃん、i8って乗っててどうだった?
五味(以下 五):えー、すごくよかったですよぉ。加速も十分だし、EVにもなるから、深夜でも近所迷惑にならないですしねぇ。僕のはロードスターじゃなくてクーペだったので、ゴルフに行くのにも重宝しました。後席にゴルフバッグを2個積めましたからねぇ。
清:そう! やっぱりi8こそ、次世代のスーパーカーなんだね!
五:そう思いますよ。でも、めちゃめちゃ使えないんです。
私:えっ?
五:原因はこのドアです。これって、かなり外に開くんですよ。普通の駐車場だと、隣にクルマがあったら、まずドアが開かないんですよね~。
清:げえっ!
五:もうちょっとって感じなんですけど、ギリギリだめなんです。もちろん、自分が止めるときは、隣が空いてるところに止めますけど、そこに入れられちゃったらもう乗り降りができないんで、行き先がすごく限定されるんです。それで手放しました。
それはタイヘンな盲点! つまり、高速のSAPAでも、おちおち休憩できないってことか!
実車で確認してみると、確かに思ったよりも外側に開く。隣の枠にミニバンが止まったらまずアウトだろう。
カウンタックはドアが真上に開くので、むしろ狭い場所での乗り降りがラクだったけどなぁ。こういうことって、実際に生活の中で使ってみないとわかりませんね。
(文=清水草一/写真=池之平昌信、関口英俊/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。