第122回:合成音は是か非か
2019.02.05 カーマニア人間国宝への道新世代スーパーカーの楽しみ方
ということで、懐かしのスポーツカー加速対決は、ウルトラ驚愕(きょうがく)の結果を残して終了した。20世紀製のスポーツカーは、今からすれば実に牧歌的な性能だったがゆえに、どっちが速いかが大事だし、今ごろになって対決する甲斐(かい)もあったのだ!
でも、「フェラーリ488GTB」と「マクラーレン720S」のどっちが速いかなんて、正直まったくどうでもいい。どっちも速すぎてどうにもならないので。
以前も書きましたが、オッパイは大きいほどいいってもんじゃない。限度というものがある。現代のスーパーカーはその限度を超えてしまった……。
こうなると、「もはやスーパーカーも、速さじゃないだろう」という考え方が出てくるのが自然だ。
でも、そんなスーパーカーあるのか?
一応あるのですね。
ひとつは、「ホンダS660」。もうひとつは、「BMW i8」だと、考えております。
S660については、実際購入もしましたし、すでにいろいろ書いてきましたが、速さじゃないと言いつつも、あまりにもエンジンに面白みがなく、チューニングも難しいということで、半年で手放してしまいました。
本当のホントに、速さは要らないと思って買ったんだけどなぁ。フィーリングだけでいいから、もうちょいエンジンが楽しければなぁ。そうすりゃ本当にすばらしい新世代スーパーカーなんだけど。
ホンダさん、足まわりとかはもういいから、S660のエンジンをなんとかしてください! パワーじゃなくフィーリングだけでいいので! NAにして1万回転までブチ回るようにするとか。ムリか。
BMW i8に初試乗
もう一方の雄、BMW i8。これが出たのはもう5年も前だけど、不肖ワタクシ、ようやく最近になって、ロードスターに乗る機会がありました。
i8はプラグインハイブリッドカーで、エンジンは3気筒1500ccターボ。最高出力はわずか231psだ。
一方我が「フェラーリ328GTS」のエンジンは、V型8気筒という大層な構造を持ち、排気量は3200ccもある。それでたったの270ps! 1.5リッターでそれに迫る馬力を出しているのだから、さすが現代のクルマである。
最大トルクにいたっては32.6kgmと、328の31.0kgmを上回っている。スゲー! しみじみ技術の進歩ですなぁ。
i8はこれにプラスして、前輪を駆動する143psのモーターが備わり、システム最高出力は374psとなっている。
車両重量は、超軽量なカーボンモノコックボディーながら、プラグインバッテリーを積んでるので、1595kg(DIN規格・ロードスター)と結構重く、パワーウェイトレシオは4.26kg/psにすぎない。フェラーリ328が5.00kg/psなので、大差ないとも言える。
つまりi8は、現代のスーパーカーとしては非常に遅いはず!
i8は、近ごろのスーパーカーの狂った馬力競争に愛想をつかして、エコ&サステイナブルな方向に向きを変えた、新世代スーパーカーなのだ。出たの5年も前だけど。それに今ごろ乗ってて本当にスミマセン。
i8の合成音はイイ!
で、初めてi8に乗ってみてどうだったか。
すばらしかったです!
エンジンは3気筒1.5リッターターボだけど、電気モーターの加勢もあって、加速はとってもちょうどいい感じ。
そして音! これがすごい! スポーツモードにすると、車内にも車外にもスピーカーから合成音を出しまくりで、まるで古典的なスーパーカーみたい!
合成音というと、当然否定的に捉える方もいらっしゃるでしょう。私もそうです。
でもi8の合成音はとってもイイ! 特に車外にも音を出すところがイイ!
こういうのって、だいたい車内だけだったでしょ。「スカイライン」とか。それってやっぱり、最初は「うわ~、気持ちいい音だな~」って思っても、ふと我(われ)に返った瞬間、悲しみが襲ってくるんだよね。オレなにやってんだって。
考えてみりゃ、カーオーディオだって車内だけで聴くもので、それで十分満足だし、逆に車外まで聞こえちゃったら恥ずかしい。例えば私のような中高年が、ユーミンとか山下達郎とかYMOとか、懐かしの青春ミュージックをボリューム&窓全開で走ってたら、かなりとっても恥ずかしい!
でもなぜか、エンジンサウンドが車内にだけ響くと、悲しくなってしまうのです。
それは単なる固定観念だ、エンジンサウンドだって車内だけでいーじゃないか! もち合成音で! シンセサイザーだと思えば! というのが合理的な考え方だとは思うのですが、やっぱりどうしてもちょっぴり悲しくなる。
その点i8は、車外にも合成音を鳴らしてくれる! そのサウンドのデキもイイ。まったくもってホンモノみたい。
なにせあのスーパーカールックだ。フツーの人はまさかあれが合成音だとは絶対に思わない。カーマニア以外は確実にだませる! それで十分じゃないか!
そう思いつつ、やっぱりどうしてもどこかに哀愁を感じてしまうのは、このi8ロードスターの車両本体価格が、2234万円だからでしょうか。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。