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第26回:マツダ3

2019.03.13 カーデザイナー明照寺彰の直言 明照寺 彰
マツダ3ハッチバック
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エンジンやシャシーに用いられる新技術はもちろん、斬新なデザインでも注目を集めている新型「マツダ3」。「深化した魂動デザイン」の嚆矢(こうし)となる一台に、現役の自動車デザイナー明照寺彰は何を感じたのか?

新型「マツダ3」は2018年のロサンゼルスモーターショーで世界初公開。日本では2019年の東京オートサロンでお披露目された。
新型「マツダ3」は2018年のロサンゼルスモーターショーで世界初公開。日本では2019年の東京オートサロンでお披露目された。拡大
ハッチバック車はリアまわりの意匠が大きな特徴。Cピラーが“ピラー(柱)”と呼ぶのがはばかられるほど太く、リアフェンダーのフレアにかけて、大きな面を形成している。
ハッチバック車はリアまわりの意匠が大きな特徴。Cピラーが“ピラー(柱)”と呼ぶのがはばかられるほど太く、リアフェンダーのフレアにかけて、大きな面を形成している。拡大
永福:「これは?」
ほった:「北米仕様のセダンのインストゥルメントパネルまわりです」
永福:「インテリアもすっきりシンプル路線なんだねえ」
永福:「これは?」
	ほった:「北米仕様のセダンのインストゥルメントパネルまわりです」
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新型「マツダ3ハッチバック」のデザインスケッチ。
新型「マツダ3ハッチバック」のデザインスケッチ。拡大

普通だったらハネられる

明照寺彰(以下、明照寺):このクルマに関しては、オートサロンで現物を見ただけなんです。クルマのデザインで一番大事なのは、遠距離から見たプロポーションなんですけど、そこは確認できてないんですよね。近くから見た印象でしか語れないのですが、よろしいですか?

ほった:全然OKです。より突っ込んだハナシは、ショールームや公道で実物を確認できるようになってから、またやりましょう。

明照寺:そうですか。現状で一番特徴的だと思うのは、なんといってもリアまわりです。Cピラーからフェンダーのフレアにかけた、このスムーズな面ですね。

永福ランプ(以下、永福):風船をふくらませたように丸いですよね。

明照寺:Cセグメント車のデザインでこんなスケッチを描いたら、普通だったら「こんな造形できるわけない!」って一蹴されるぐらいのものですよ。

永福:そんなに難しいことを実現してるんですか?

明照寺:これは、まず“造形しろ”がないとできないし、立体構成自体もむずかしいです。室内空間の縛りがあるので。造形に時間かけないと、こんなにシンプルにはまとまらないですよ。多分、いろんなパターンを試したんだと思います。デザイナーよりモデラーのほうがいろいろ考えたんじゃないかと思ったりしもました。

永福:いきなり難解な話ですね~。

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車内空間はそこまで犠牲になってない

永福:まず、「こういうのは、普通はハネられるデザインだ」という点を、もう少しわかりやすく。

明照寺:この形状を実現させるためには、まずキャビン部を寝かせて斜めにする必要があります。でも、実用性を考えたらなるべくガラス面は寝かせられない。そのせめぎあいで、普通はCピラーとその下の形状との結合部が凹角になるんですよ。そこが、マツダ3ではCピラーとリアのフレアの結合部が本当に浅い角度で、さらに大きなRがついて一体に見えるように処理されている。普通のCセグメントを考えると、「これは無理じゃないの?」っていうことを実現しているんです。造形シロが多いスーパーカーとかなら別ですけど。

永福:「ラゲッジルームあたりの幅を狭く絞ってしまえばできるけど」とか、そういうことですか?

明照寺:そうです。サイドガラスを斜めに倒しつつ、後ろにも倒してしまわないと、こんなスムーズには行きづらいんです。非常に難しいパッケージングに挑戦していると思います。

永福:ただ、居住性はそれなりに犠牲になってますよね?

明照寺:そうですね、リアシートに乗ってみましたけど、リアのトリム類が多少迫って感じました。でも、外観から想像するよりはかなり“使える”と思います。

永福:ハッチバックはリアサイドウィンドウの上下がうんと絞られてますよね。僕はハッチバックの後席には座ってませんけど、閉塞(へいそく)感はそんなに強くないですか?

明照寺:想像していたよりはよかったです。「トヨタC-HR」より圧迫感はないかな。

永福:そのC-HRが売れまくってるんだから、大丈夫って言えますかね(笑)。

現行型「アクセラスポーツ」のリアビュー。ショルダーラインの上、Cピラーの付け根に凹角の“折り目”がある。
現行型「アクセラスポーツ」のリアビュー。ショルダーラインの上、Cピラーの付け根に凹角の“折り目”がある。拡大
新型「マツダ3ハッチバック」のリアビュー。リアのフェンダーパネルからCピラーにかけての面に折れ目はなく、わずかに凹面のRがついているだけだ。
新型「マツダ3ハッチバック」のリアビュー。リアのフェンダーパネルからCピラーにかけての面に折れ目はなく、わずかに凹面のRがついているだけだ。拡大
東京オートサロンで展示されていた新型「マツダ3ハッチバック」のリアシート。外観から想像されるよりは、実用的な空間が確保されている。
東京オートサロンで展示されていた新型「マツダ3ハッチバック」のリアシート。外観から想像されるよりは、実用的な空間が確保されている。拡大
2016年末に発売された「トヨタC-HR」。デザインのために荷室も後席スペースもがっつり犠牲にされているが、日本国内でバカ売れ。2017年、2018年と、2年連続でSUVの年間販売台数No.1に輝いている。
2016年末に発売された「トヨタC-HR」。デザインのために荷室も後席スペースもがっつり犠牲にされているが、日本国内でバカ売れ。2017年、2018年と、2年連続でSUVの年間販売台数No.1に輝いている。拡大

外光の下でどう見えるか

明照寺:デザイナーとしては、実際のシルエットより丸くスポーティーに見せる技法を使っているあたりも、とても巧みな感じがしますね。

永福:マツダ3はボディーのヒップポイントがとても高く見えますよね。キュッと上を向いたお尻になっている。例えば「トヨタ・カローラ スポーツ」なんかと比べると。

ほった:カローラ スポーツの垂れ尻問題再び!」ですね。

永福:でも、実際のヒップポイントはそんなに高くない。マツダのSUVは物理的にもっとヒップポイントが高いんで、それでスポーティーに見えますけど、マツダ3は物理的な高さではなく、リアフォルムの丸みとか膨らみとか、その存在感の大きさで、相対的にヒップが高くてノーズが低いような感覚が出せてるように思うんです。そのあたりが魅力の根源かなって。

明照寺:ただ、遠くから撮った写真を見ると、ちょっとリアのボリュームがつきすぎかなっていう気もします。タイヤに対して、Cピラーのあたりが重く感じるかもしれない。ここらへんは、やっぱり外光の下で実車を見て確認したいですね。下手するとリアまわりのボリュームが強すぎて、タイヤが小さく見えるかもしれない。

永福:それはない気がしました。先代と比べると、リアオーバーハングは軽くなっているし、ルーフラインが下がり始めるポイントも前に来ているので。

新型「マツダ3ハッチバック」のサイドビュー。各所に、実際のボディー形状より丸くスポーティーに見せる技法が取り入れられている。
新型「マツダ3ハッチバック」のサイドビュー。各所に、実際のボディー形状より丸くスポーティーに見せる技法が取り入れられている。拡大
丸みを帯びたリアの面構成に注目。リアにボリューム感を持たせることで、実際以上にノーズを低く、ヒップを高く見せている。
丸みを帯びたリアの面構成に注目。リアにボリューム感を持たせることで、実際以上にノーズを低く、ヒップを高く見せている。拡大
リアまわりでは、この角度からでも“末広がり”に見えるフェンダーの造形にも注目。腰高感は抱かずにすみそうだ。
リアまわりでは、この角度からでも“末広がり”に見えるフェンダーの造形にも注目。腰高感は抱かずにすみそうだ。拡大
「マツダ3ハッチバック」を引き目で撮った1枚。フロントとリアのボリューム感の違いに注目。
「マツダ3ハッチバック」を引き目で撮った1枚。フロントとリアのボリューム感の違いに注目。拡大

きちんとつくり分けられてはいるが……

ほった:セダンのほうはどうでしょう。

明照寺:マツダ3でもうひとつスゴいなと思うのは、セダンとハッチバックで基本のデザインが違うことなんですよ。セダンとハッチバックでは、ドアの中身の構造物も違うんですかね?

ほった:今のところ、そこはまだわかりませんねぇ。

明照寺:ひょっとしたらドア構造から変えてるのかなっていう気もします。それをやると、例えば衝突試験とか設計とかに、お金が2倍かかるんです。

永福:そういうことなんですね~。

明照寺:サイドウィンドウのキャラも違うじゃないですか。

永福:まったく違いますね。

明照寺:普通、同じクルマでセダンとハッチバックをつくり分けるときは、両方ともちゃんとしたバランスをとるのが非常に難しいんです。でもマツダは、その点も妥協してないように見えます。

永福:ただ、セダンのほうはハッチバックに比べるとかなりフツーというか、凡庸に見えるなぁ。

明照寺:そうなんですよ。ハッチバックを見ちゃうと、セダンはかなり古臭くコンサバに見えてしまう。

新型の「マツダ3ハッチバック」(右)と「マツダ3セダン」(左)。
新型の「マツダ3ハッチバック」(右)と「マツダ3セダン」(左)。拡大
ハッチバックとは異なり、セダンは非常にコンサバティブなイメージでまとめられている。
ハッチバックとは異なり、セダンは非常にコンサバティブなイメージでまとめられている。拡大
明照寺:「共用する部分が多くなるので、ひとつモデルでセダンとハッチバックをつくり分けて、かつ両方ともバランスの取れたデザインとするのは難しいんですよ」
明照寺:「共用する部分が多くなるので、ひとつモデルでセダンとハッチバックをつくり分けて、かつ両方ともバランスの取れたデザインとするのは難しいんですよ」拡大
永福:「確信犯なんだろうけど、かなり普通のデザインだなあ」
ほった:「ガラスエリアのラインとか、先代(2代目)の『アクセラセダン』を思い出しますね」
永福:「確信犯なんだろうけど、かなり普通のデザインだなあ」
	ほった:「ガラスエリアのラインとか、先代(2代目)の『アクセラセダン』を思い出しますね」拡大

大事なのは新しい提案があること

明照寺:セダンについては、キャラクターラインの扱い方なんかも、旧型の延長線上に感じます。もう少し、ハッチバックとテイストをそろえてもよかったんじゃないかな。

ほった:まるで別のクルマに感じますね。

明照寺:実際にはいろいろやってるんですよ、セダンも。ただ、ハッチと比べるとね。

永福:セダンは付け足しに感じますね。

明照寺:とにかく、デザイナーとしてとても興味をそそられる作品です。マツダは「全幅の広いモデルをつくってから、それを諸元にどうおさめるかを考える」っていう話を聞いたことがあるんですけど、開発のプロセスが気になりますね。

永福:プロはそういうことを考えるのか~。われわれユーザーは結果がすべてなので気楽です(笑)。とにかく、マツダ3のハッチバックは、とってもシンプルできれいなデザインじゃないでしょうか。非常に高いところを見て、自分を追い込んでデザインしているって感じるんですよ。トップアスリートみたいな。

明照寺:メルセデスの「CLS」とか「Aクラス」みたいな、“何もしないこと=シンプル”ということではなくて、新しい提案をしつつシンプルに仕上げているのがすごいですね。

(文=永福ランプ<清水草一>)

新型「マツダ3セダン」。
新型「マツダ3セダン」。拡大
こちらは現行型「アクセラセダン」。
永福:「……似てるなあ」
ほった:「これは言い逃れできませんね」
こちらは現行型「アクセラセダン」。
	永福:「……似てるなあ」
	ほった:「これは言い逃れできませんね」拡大
明照寺:「単にシンプルなだけじゃなくて、新しい提案があるところがすごい。マツダのデザイン開発のプロセスが気になりますね」
明照寺:「単にシンプルなだけじゃなくて、新しい提案があるところがすごい。マツダのデザイン開発のプロセスが気になりますね」拡大
明照寺 彰

明照寺 彰

さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。

永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。

webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。

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