ルノー・メガーヌ ルノースポール カップ(FF/6MT)
挑戦を受けて立つべし 2019.03.19 試乗記 レーシングドライバー谷口信輝が、100台限定販売の「ルノー・メガーヌ ルノースポール(R.S.)カップ」に試乗。かつてカタログモデルを「メチャクチャいいですよ」と激賞した谷口は、6段MTとよりハードなサスを備えた辛口仕様をどうジャッジする!?せっかくのシャシーカップなのに……
「ドライで走ってみたいなあ……」
谷口信輝はなんとも残念という表情でつぶやいた。袖ヶ浦フォレストレースウェイで行われたメガーヌR.S.カップの試乗会はあいにくの雨。ウエットコンディションではこのハイパフォーマンスモデルのポテンシャルを十全に引き出すことができなかったのだ。
谷口はすでにノーマル版の「メガーヌR.S.」に乗ったことがあり、出来栄えの素晴らしさを絶賛している。R.S.カップはノーマル版の「シャシースポール」よりさらにハードな「シャシーカップ」を採用しているが、路面ミューが低くてはその違いを明確に示すことができない。とはいえ、助手席に同乗させてもらうと水際立った走りを披露してくれた。
「何より、マニュアルトランスミッションなのがうれしい。今はスポーツモデルでもパドルばかりですからね。クラッチペダルはしっかり重さがあって、シフトはスパスパ入るけれど“入れてる感”も強い。エンジンのフィールはノーマルと同じです。排気量は1.8リッターですが、小径のターボなのでラグもなく、パワーバンドが広い。雨でこのペースというのは速いですね」
雨は上がりつつあったがところどころに水たまりがあり、コーナーでは滑ってしまう。
「ウエットコンディションでこれだけノーズが入るのはスゴい。フロントがドライバーの狙ったところに向いていくので走っていて楽しいんです。クルマがアンダーステア方向ではないので、ドライバーのさじ加減でどうにでもなる。ただ、路面ミューが低いからヨーモーメントが発生するとタイヤが耐えられずに滑ってしまう。ドライ路面でタイヤが食いつくことを見越してバネやスタビのレートを高めているはずだけど、ウエットだとそのよさが出ないんです」
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トルセンLSDでガマンいらず
シャシーカップはスプリングレートをフロントで23%、リアで35%高めている。ダンパーレートも25%高め、ダンパー内にセカンダリーダンパーを組み込んだHCCの長さを10%伸ばした。ロールを抑え、路面追従性が向上している。
「コーナリング性能を上げるためにリアの接地を軽くしているので、ブレーキを残したままターンインするとオーバーステアが出やすい。減速を終えたらブレーキを放して入っていくほうが挙動を落ち着かせることができます。一般的にFF車はアンダーステアとの戦いですが、このクルマはオーバーステアとの戦いですね。そこそこ腕が必要というか、オーバーステアが平気という人でないと乗りこなすのは難しいでしょう」
ノーマル版とのもうひとつの大きな違いは、トルセンLSDが装備されていること。コーナーを抜けた後の加速で目覚ましい効果を発揮する。
「コーナーからの立ち上がりでは内側のタイヤから空転がはじまり、トルクアンダーが出るものです。それを抑えるために、ノーマル版ではブレーキをつまむことでコントロールしていました。ブレーキを使うとどうしてもスピードが落ちてしまう。R.S.カップはトルセンLSDを使っているから、確実にトラクションを得られて速く走れます。内側のタイヤが空転しないから、ガマンしないでアクセルを踏んでいけるのがいい」
日常生活ではトルセンLSDの恩恵を受ける場面は少ないが、R.S.カップは走りが好きな人のためにつくられたクルマなのだ。
「ドライならもっとグイグイ曲がって楽しかったはず。ノーマル版よりもワンランク走り寄りに振っています。このコンディションだと、もしかするとシャシースポールのほうが適していたかもしれない。でも、ルノーが好きでMTが好きという人ならR.S.カップを欲しくなるでしょう」
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日本にはない楽しいクルマ
谷口はR.S.カップを大いに気に入ったようだが、ノーマル版もよかったと話す。
「抜群にいいクルマでした。ノーマルに乗った時も、現場の監督が細部まで目を届かせて全体をしっかり見ていると感じていたんですよ。今日は初めてウルゴンさんとフィリップさんに会って、やはり彼らが責任を持ってクルマをつくっているんだなと納得しました」
どちらのモデルもテストドライバーのロラン・ウルゴン氏とエンジニアのフィリップ・メリメ氏がタッグを組んでつくり上げている。谷口はR.S.カップに彼らの明確なメッセージを感じるという。
「うまくまとまっていないクルマって、実はたくさんあるんですよ。それぞれのパーツがよくても、セクションごとに流れ作業でやっているといいクルマにはならない。いい食材を使っていても、料理としてはおいしくないものがあるのと同じです。メガーヌR.S.の場合はコック長が責任を持って味付けを見ていますね」
ウルゴン氏とメリメ氏なのか、それとも会社全体なのかはわからないが、考え方がブレないからクルマにしっかりとした軸ができる。
「日本にはいいクルマはたくさんありますが、楽しいクルマは少ないんです。R.S.カップは間違いなくファン・トゥ・ドライブ。ただ、誰もが乗りこなせるわけではない。無茶をする人にとっては危険になる。こういうクルマは日本からは出てきません。日本のメーカーは過保護なので、お客さまは下手っぴだという前提でつくっている。だから、弱者のためのクルマしか出てこないんです」
日本にも昔はスポーツカーの黄金時代があったが、今は状況が変わってしまったというのだ。
「事故が起きたらどうするんだ、と言いだす人がいるんですよ。日本人の性質が変わらないと、こういうクルマはつくれないでしょうね」
メーカーが仕立てたじゃじゃ馬
R.S.カップは、ある意味で“挑戦的なクルマ”なのだと谷口は言う。
「過保護じゃないんです。開発した人は“これを乗りこなせないなら、あなたが下手なんです”というメッセージを込めているんだと思いますね(笑)。スキルのある人にだけ乗ってもらえればいい。“マニュアルですよ、じゃじゃ馬ですよ、腕が必要ですよ”と。だから、何でもいいから一番いいのをくれ、という人には向かないでしょう」
R.S.カップはノーマル版と10万円しか違わない450万円。安いクルマではないが、盛り込まれている技術と高いパフォーマンスを考えればバーゲンプライスのように思える。
「メーカーが仕立てているからこの値段なんです。もしノーマルを買ってパーツを付け加えて改造しようと思ったら、100万円以上はかかるはず。こういう仕様をメーカーが出してくれたというのがうれしい。見た目は普通のクルマで、ただMTというだけ。だけど、スキルがあるドライバーなら、『レース』モードにすれば振り回して楽しめるクルマです」
ならば、自分で買うなら当然このR.S.カップ?
「カップといいながらフルバケにロールケージというスパルタンなクルマではないので、ファーストカーとして乗ってもいいんじゃないでしょうか。ただ、僕のライフスタイルからしたらノーマルを選びます(笑)。渋滞の道も走りますから。でも、トルセンLSDは付けたいかな」
残念ながら、本国にもトルセンLSD付きのノーマル版はないということ。MT好きなら、ルノー・スポールからの挑戦を真っ向から受けるしかない。
(語り=谷口信輝/まとめ=鈴木真人/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ルノー・メガーヌ ルノースポール カップ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1875×1435mm
ホイールベース:2670mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:279ps(205kW)/6000rpm
最大トルク:390Nm(39.8kgm)/2400rpm
タイヤ:(前)245/35R19 93Y XL/(後)245/35R19 93Y XL(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:12.6km/リッター(JC08モード)
価格:450万円/テスト車=453万8880円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(3万2400円)/カードキーカバー(6480円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:652km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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