第191回:『トランスフォーマー』最新作はビートルが大活躍
『バンブルビー』
2019.03.20
読んでますカー、観てますカー
トラヴィス・ナイト監督を起用した6作目
『トランスフォーマー』シリーズは、これまでに2回取り上げている。2014年の『トランスフォーマー/ロストエイジ』と2017年の『トランスフォーマー/最後の騎士王』だ。紹介しておいてこんなことを言うのもどうかと思うのだが、大人にオススメできる作品ではなかった。クルマが巨大ロボに変身するCGはよくできているし戦闘シーンは派手なのだが、いかんせん世界観が子供っぽい。
それは仕方のないことで、もとになっているのは日本でタカラトミーが生み出した変形ロボットのおもちゃなのだ。マンガやアニメでさまざまな作品が作られていて、初の実写映画が2007年の『トランスフォーマー』である。シャイア・ラブーフが主演して3部作となった。『ロストエイジ』と『最後の騎士王』はその後を描いたもので、主人公はマーク・ウォールバーグに代わっている。
『バンブルビー』は6作目となるが、予定されていた続編ではない。第1作から20年さかのぼる1987年の話で、スピンオフ作品と考えることもできる。『最後の騎士王』は米国内興行収入が製作費を下回ってしまい、シリーズの前途が危ぶまれていたのだ。
5作すべてを監督したマイケル・ベイは、良くも悪くも過剰なほどのサービス精神で知られる。見栄えのいいスタイリッシュな映像といえば聞こえがいいが、やたらに爆発するしカメラが激しく動き回るから何が起きているかわからなくなる。トランスフォーマーが恐竜時代から地球に来ていたという話まで出てきて収拾がつかなくなっていた。
プリクエルで物語を再設定するために起用されたのが、トラヴィス・ナイト。2016年に公開された素晴らしいストップモーションアニメ作品『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』の監督である。
黄色いけどカマロじゃない!?
『KUBO』は日本を舞台にした冒険活劇で、緻密に構成されたきらびやかな映像はアート作品のようだった。デビュー作で高い評価を受けたとはいえ、2作目でビッグバジェットのエンターテインメント作品をまかされたのには驚く。実写映画は初めてなのだ。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』の原 恵一は『はじまりのみち』を、『くもりときどきミートボール』のフィル・ロード&クリス・ミラーは『21ジャンプストリート』という傑作実写映画を撮っているから、才能のある監督にとっては表現手法など関係ないのだろう。
主人公チャーリーを演じるヘイリー・スタインフェルドは、14歳で『トゥルー・グリット』に出演して助演女優賞を取りまくった天才少女。今は20歳を超えているが、今回は高校生役。まだまだティーンでイケる。彼女は大好きだったパパが死んでから悲しみを抱えて暮らしており、新しい父親には拒絶反応。遊園地のチュロス屋のバイトは、制服が超ダサいデザインだから楽しくない。心が休まるのは、パパが好きだった1959年式の「シボレー・コルベット」をガレージで修理している時だけだ。
いつもパーツを取りに行くジャンクヤードで黄色のボロい「フォルクスワーゲン・ビートル」を見つけ、18歳の誕生日プレゼントとして強引に持ち帰る。コルベットの隣で早速整備に取りかかると、ビートルは不意に立ち上がってロボットに。トランスフォーマーだったのだ。ここで過去作を観ていた人は、違和感を持つだろう。これまでは必ず「シボレー・カマロ」に変形していたのだから。
『トランスフォーマー』の世界では、惑星サイバトロンの金属生命体が正義の戦士オートボットと悪の軍団ディセプティコンに分かれて争っている。彼らは近くにある機械をスキャンしてコピーする能力があり、地球にいる時にはクルマに変形していることが多い。オートボットのB-127はディセプティコンに攻撃されて絶命しそうになるが、ギリギリのタイミングでビートルをスキャンして変形していたのだ。
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80年代ヒットソングで会話
ボディーカラーが黄色でハチのような音を発しているので、チャーリーはB-127を「bumblebee(マルハナバチ)」と名付ける。孤独な少女にとっては、機械だって大切な友達なのだ。しかし、困ったことに会話ができない。ディセプティコンの攻撃で回路を破壊され、音声機能を失っていたのだ。
バンブルビーはコミュニケーションをとる方法を考えつく。ダッシュボードに装備されているカーステレオを使うのだ。いろいろなラジオ局の放送をキャッチしている中から、受け答えにちょうどいい音声を選び出してスピーカーから発すればいい。そんな能力があるなら音声機能を修理するほうが簡単だろうと言うのはやぼである。この設定から、すてきな状況が生まれるのだ。
ラジオから流れるのは当時流行していた曲。だから、会話は1980年代ヒットソングメドレーになる。 “パンツ千円”の定番『テイク・オン・ミー』をはじめとする名曲のコマ切れフレーズが、バンブルビーの言葉を代行する。かつてのヒット曲を物語の進行に利用する手法は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や『オデッセイ』で使われてからちょっとした流行なのだ。
デュラン・デュラン、ティアーズ・フォー・フィアーズ、ザ・スミス、ワン・チャン、シンプル・マインズ、エルビス・コステロ、ジョイ・ディヴィジョンなどが次々に聞こえてきて、気分はすっかりあの時代に引き戻される。1987年の日本はバブル真っ最中でイケイケだった。F1のイギリスGPでホンダが1~4位を独占し、市販車では限定販売のパイクカー「日産Be-1」が即完売してプレミアム価格がついた。『ノルウェイの森』『サラダ記念日』がベストセラーになった年である。
バンブルビーが変形しているのは、1967年式のビートル。20年落ちだからいい感じにヤレている。ロボットになった姿でも傷や汚れが目立っていて、親しみが持てるキャラクターになった。
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スタッフこだわりの1967年式
ビートルが1967年式だったのは、製作陣のこだわりだという。スタッフの中にビートルマニアがいたのだろうか。バッテリーが6V から12Vになるという重要な変化があった年だ。ディスクブレーキを装備してヘッドライトのデザインも変更されている。ボアアップした1.5リッターエンジンが前年から追加設定され、最高出力は4psアップの44psとなっていた。
映画のために用意されたのは8台。中にはEVに改造されたものもあった。クリアに録音するために静かなクルマが必要だったからだ。最高速は160km/hで130km以上走れたというから本格的だ。ディセプティコンが変形するモデルには、「プリムス・サテライト」や「AMCジャヴェリン」が使われている。変形はしないが、最後に「オールズモビル・ヴィスタクルーザー」がいい仕事をするのも見どころだ。
ディセプティコンだけでなく、地球外生物からの脅威に対抗する政府の極秘機関セクター7もバンブルビーを追っていた。リーダーのバーンズを演じるのはジョン・シナ。WWEのスターレスラーである。『パパvs新しいパパ』などのコミカルな作品でいいアクセントになっていたが、この映画では重要な役どころを担っていた。“ロック様”ドウェイン・ジョンソンに続き、アクションスターとして成功するかもしれない。
『バンブルビー』を鑑賞するにあたって、過去作を観ておく必要はない。始まりの物語なのだから、ゴチャゴチャした設定を知らないほうがむしろ素直に楽しめるだろう。単独の作品として十分に成立しているし、すてきな青春映画となった。トラヴィス・ナイト監督は、新鮮な解釈を導入して人気シリーズに新たな生命を与えたのだ。
ヒロインは美少女で、アクション映画としても上質な仕上がり。デート映画として絶好の仕上がりで、80年代カルチャーを知る世代も楽しめるだろう。ビートル好きならなおのこと。幸せを呼ぶといわれる黄色いビートルが世界を救う物語なのだ。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。