アウディRS 4アバント(4WD/8AT)
クールエリートの頂点 2019.04.15 試乗記 アウディ スポーツが開発を手がけた、「A4」シリーズのトップモデル「RS 4アバント」に試乗。その走りは、ドイツで生まれた高性能マシンならではの“クールな全能性”を感じさせるものだった。代々続いた“超速四駆”
自分にとって、「アウディ・クワトロ」のピークは、20代の頃。つまり30年以上前にやってきた。当時はクルマでスキーに行くのが大変なブームで、そのクライマックスは1987年公開の映画『私をスキーに連れてって』だった。自分自身は「セリカGT-FOUR」のようなフルタイム4WDとは無縁で、FRやFFにチェーンを巻いて出撃していたが、だからこそアウディ・クワトロは、名前だけでひれ伏したくなる存在だった。
その後も私は、雪道でも二輪駆動にこだわった。基本的に「クルマは滑ったほうが面白い」という思考回路なので。スーパースポーツに関しても同様で、4WDに逃げたら終わりだと思っている。ただしスーパースポーツの場合、雪はもちろん、雨が降っても絶対乗りません。
つまり、雪や雨が降ったら、ハイパワー車は4WDじゃないとどうしようもないということは認識している。そういうコンディションでは、相変わらずクワトロの威光は絶大だ。もちろん現代には、優れた4WD機構を持つスーパースポーツは腐るほど、イヤになるほどたくさんあるが、若い頃の刷り込みは絶大。私の脳内では、クワトロブランドの頂点に立つ「アウディRS」系こそ、バカッ速4WDの頂点に君臨する、伝統の名門ブランドのままである。
そのアウディRS系の中核というか王道というか、メインとなるモデルは、RS 4だろう。近年は「RS 3」と「RS 5」が人気らしいが、本来はRS 4がメインでなければならない気がする。
RS 4は伝統にのっとって、ステーションワゴンのアバントしか設定がないというのが泣かせる(2代目だけはセダンもあったが)。まさに1980年代の「スキー超特急」の血脈が受け継がれているじゃないか。ユーミンの『BLIZZARD』が聞こえてきそうで涙が出る。
新パワートレインに安心感
ところで私、すでにウインタースポーツから引退して長いこともあり、現在のRS 4アバントがどんなパワートレインを積んでるかまったく知らないのですが、どうなってるんですか? 最後に乗ったときは確か4.2リッターV8で、なじみの“スバリスト”マリオ高野がそのウルトラ精緻なフィールに涙を流していましたが。
ちなみに私はソレに乗っても、それほど感動しませんでした。そしてふと気づいたのです。「人は自分にないものに感動する」と。私はもともと人間が精緻なので、精緻なメカにはそれほど感動せず、フェラーリのようなエモーショナルなメカに感動するけれど、マリオ高野のような人間の精度が低いカーマニアは、こういう精緻なメカにコーフンするのだなぁ、ということでした。
話がそれた。どうも私の記憶にあるRS 4は先々代モデルのようだ。しかし先代RS 4も同じく4.2リッターV8を搭載していたので、たぶん似たようなものだったのだろう。
一方新型はついにダウンサイジングターボ化され、2.9リッターV6ツインターボに。トランスミッションは安心のトルコン式8段ATとなった。フォルクスワーゲン グループ自慢のデュアルクラッチをやめてトルコン化したのは、耐久性の問題だろうか。あるいはターボのトルク対策なのか。いずれにせよ、トルコンATの超速化により、もはやツインクラッチの時代は終わったようなので、これは歓迎すべきこと。トランスミッション交換なんてことになったらシャレじゃ済まされない。イタリア車がブチ壊れるのは許せるが、ドイツ車がブチ壊れるのは絶対に許せません。
見て興奮、乗れば快適
前置きがとても長くなってしまったが、ようやく新型RS 4アバントの予習が終了。実車に対面させていただきます。
おお、意外とコンパクトじゃないか! 現行A4は同クラスの中でも一番デカいというか長いが、RS 4はそれを感じさせない。実際には普通の「A4アバント」よりさらに少し長いのだが、全身をエアロで武装しているのに、逆にコンパクトに見える。メチャメチャ上品に戦闘的なので、カタマリ感が高まり、かえって小さく見えるというすばらしい逆転現象が生じているらしい。その迫力はあくまでなにげないものだが、無言の威圧がすさまじい。まるでドイツの軍人さんだ。さすがアウディRS。
これだけコンパクトに見えるんだから、後席は狭かったりするんだろうか? というあらぬ疑いが発生したため、まずは後席ドアを開けて座ってみた。足元メチャメチャ広いじゃん! なにせ現行A4と変わらないのだから当たり前だが、この凝縮感でこの広さはスゴイ! と勝手に感動した。
そのまま後ろ側に回り、離れてリアビューを眺める。ものすごくトレッドが広く感じる。全幅はノーマルA4に対して25mmしか広がっていないが、踏ん張り感がウルトラ高い。テコでも引っ繰り返りそうにない、大地に根を張ったイメージだ。まさにクールエリートの頂点である。
運転席ドアを開いて乗り込むと、インテリアも超クールエリート。特にシートの亀甲型ステッチがステキだ。インテリアの端々から、“エレガント兵器”の香りが漂ってくる。エンジンをスタートして発進する。普通に走っているとまったくもって普通だ。まるで普通のA4と変わらないような、拍子抜けのフレンドリーさ。エンジンレスポンスが特に鋭い雰囲気もないし、なによりも乗り心地がものすごく普通にカイテキなのだ。当たりの硬さがまるでない! ただ、超偏平&極太化されたタイヤと、低められた最低地上高の効果で、ステアリングの反応が相当にシャープであることだけは感じる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
どんな時も冷静沈着
試乗当日は雨上がりの曇り空。都内の路面は乾いていたが、東名高速に入るとまだぬれていた。通常ならガックリするところだが、なにせこれはクワトロの頂点に君臨するRSモデルだ。ウエット路面こそ水を得た魚のはず。
コンフォートモードからダイナミックモードにチェンジすると、足は格段にしっかりした。ただあくまで「しっかり」という印象で、ガチガチという印象はない。恐ろしいほど高級な足まわりである。さすがアウディRS。同時にエンジンサウンドもスポーティーに変化したので、がぜんヤル気になってくる。東名から圏央道へ。交通量がぐっと減った。ウエット路面のハイウェイでRS 4アバントの走りを、ほんの一瞬堪能する。
すげえ。これはすげえ! ひたすら矢のように直進し、何も起きない。何の不安感もない! サウンドはクールエリートな重低音。エンジンは超フラットトルク。タコメーターがどこを指していようと、加速感にはほとんど変化がない。レッド手前までブチ回しても特に感動はなく、ただ感心があるのみだ。どんな回転域であろうと、ただひたすら冷静に回り、眉ひとつ動かさずにパワーとトルクを絞り出す。
これだけのハイパフォーマンスモデルなので、回転の高まりとともに、もうちょっとエモーショナルな部分があってもいいような気もするが、しかしウエットのハイウェイで、どんな速度でも矢のように直進し、絶対的に何も起きないことが身上のアウディRSとしては、エンジンがあまりドラマチックだったら、その平穏が崩れることになる。それはイカン。どんな時にも弱みは見せずに冷静沈着。このクルマは徹頭徹尾クールエリートなのである。妥協はない。
ハイウェイから箱根のワインディングに向かったが、あいにく小雨となった。しかも濃霧。さすがの全天候型エレガント兵器も、濃霧には勝てない。というか私の目が勝てません。軍曹殿、前が見えません! しかしそれでもこのマシンが、コーナーでも超クールであることは確認できた。確認というより予感ですけど、この予感は絶対に裏切られないと確信できる。なにせこれはアウディRS 4アバントなのだ。どこかの国の能天気なスポーツモデルなら、「聞いてないよ~!」みたいな挙動もいまだ無きにしもあらずだが、このクルマには絶対にない。その予感はウルトラ絶対的なものだった。
(文=清水草一/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
アウディRS 4アバント
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4780×1865×1435mm
ホイールベース:2825mm
車重:1840kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:450ps(331kW)/5700-6700rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/1900-5000rpm
タイヤ:(前)275/30ZR20 97Y/(後)275/30ZR20 97Y(コンチネンタル・スポーツコンタクト6)
燃費:11.2km/リッター(JC08モード)
価格:1196万円/テスト車=1336万円
オプション装備:RSスポーツエキゾーストシステム(17万円)/シートヒーター<フロントおよびリア>(6万円)/ヘッドアップディスプレイ(14万円)/カーボンスタイリングパッケージ グロスブラック<エンジンカバー+エクステリアミラーハウジング+ルーフレール>(90万円)/カラードブレーキキャリパー<レッド>(5万円)/アシスタンスパッケージ<アウディプレセンスリア+アウディサイドアシスト+パークアシスト+サラウンドビューカメラ>(8万円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:3289km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:248.0km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.1km/リッター(車載燃費計計測値)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。













































