メルセデスAMG GT63 S 4MATIC+(4WD/9AT)/AMG GT53 4MATIC+(4WD/9AT)
体育会系4ドアクーペ 2019.04.20 試乗記 メルセデスAMGが独自に開発した“4ドアのスポーツカー”「AMG GT 4ドアクーペ」。デザインから走行性能、快適性にまでこだわりぬいたという欲張りな高性能モデルに、サーキットで試乗した。驚くほどの安定性
濃霧の中、「メルセデスAMG GT63 S 4MATIC+」で富士スピードウェイを走っている。真っ白な世界。手探りするような気持ちで1コーナーを曲がって坂を下っていくと、「しめた!」。少し霧が薄くなっている!!
100Rを終えてヘアピンを回ると、風で霧が飛ばされたのか視界がクリアに。「ここぞ」とばかりにアクセルを踏む……というほどにはスロットルを開けられませんでした。なぜなら、春だというのにやけに冷たい雨が先ほどまで降っていたから。
それでもウエット路面を警戒しながら右足に力を入れると、V8ツインターボを積むAMGの4ドアスポーツは羽が生えたかのように軽々と加速して、拍子抜けするほど安定したまま300Rの縁石を次々とパスしていく。うーん、気持ちいい! さすがは4WDモデル!!
Bコーナー手前でガッツリブレーキを踏むと、十分な“足応え”とともに「AMGカーボンセラミックブレーキ」が見事に速度を殺していく。右、左とステアリングを切る際に、あえて乱暴にスロットルを開けると、315というブッ太い「ミシュラン・パイロットスポーツ4S」が軽くスライドして、ドライバーを喜ばせる。ESP(電制スタビリティーコントロール)設定、ノーマルのままなのに。
すっかり気をよくして続くテクニカルセクションをこなすのだが、次第に霧が濃くなって、最終コーナーを登る途中で既にAMGの4ドアクーペはどっぷりとミルクに漬かってる……。
新たな立場のメルセデス
2019年2月14日から、日本でもAMG GT 4ドアクーペの販売が始まった。ラインナップされるエンジンは3種類。いかにもAMGらしい4リッターV8ツインターボ(最高出力639ps)は、トップモデルの「63 S 4MATIC+」(2353万円)に積まれる。
ストレート6の復活が話題になった3リッターターボは、「ISG」こと簡易型のハイブリッドシステムと組み合わされ、435psと367psのチューニング違いが、それぞれ「53 4MATIC+」(1593万円)と「43 4MATIC+」(1176万円)に搭載される。
トランスミッションは、V8モデルに湿式多板クラッチを用いた9段AT、直6はトルコン式の9段ATとペアを組む。全車とも電制多板クラッチを介して駆動力を前後に配分する四輪駆動システムを採用。状況によって、前:後=50:50から0:100までカバーする可変機構が備わったことが新しい。左右輪の差動制限は、スリップした車輪にブレーキをかけるほか、やはり多板クラッチを用いた「電子制御AMGリミテッド・スリップ・デフ」が、63 Sには標準、53にはオプションで装備される。
メルセデスとしては、「4ドアクーペ」という車型をひとつのトレンドにした「CLS」が3代目となり、周囲にライバルが増えてきた中、さらなる市場拡大を図りたいところ。ラグジュアリー寄りのスポーツクーペたるCLSとの差別化のため、AMGモデルには「AMG GTの4ドア版=本格派スポーツ」という立ち位置が与えられた。
後席は広いがやや硬め
単に強力なエンジンを積むだけでなく、フロントセクションを中心にしっかりボディー各部が補強され、一方、ラゲッジフロアにはカーボンファイバーを使用することで、重量アップを抑えている。例えばポルシェの「パナメーラ4」一族に対抗すべく、過酷なサーキット走行でも音を上げない体作りがもくろまれたわけだ。メルセデスのスタッフからは、「アウディA7スポーツバック」や「S7スポーツバック」の名前も競合車として挙がったから、AMG 4ドアクーペにかかる期待は大きい。
個人的におもしろいと思ったのは、「2ドアのAMG GTをやりすごして、4ドアバージョンを待っていた顧客が多い」というハナシ。「やはり後席がないと不便だから?」とうかがうと、「4WDという駆動方式が大事だったみたいです」との答え。もちろん900Nm(!)という巨大なトルクを路面に伝えるには「四輪駆動が適当」という合理的な理由があるけれど、むしろ、「『スーパースポーツは4WDでないと』という意識が(裕福な)ユーザーの間で共有されているから」だそう。エンジンをフロントに置くハイパフォーマンスモデルとして、「さらにプラスアルファの要素が必要だった」ということでしょうか。
ちなみに、AMG GT 4ドアクーペの乗車定員は5人。後席足元のセンターには太いトンネルが縦断するが、シート左右には十分な空間が確保される。大人2人用として実用的だ。ただ、富士の敷地内で走行中のGT 53のリアに座らせてもらったところ、リアタイヤが近く、足まわりがスポーティーに締まっていることもあって、路面からの入力がハッキリと伝わる。「AMGのスポーツクーペに同乗している!」という興奮が冷めたあとは、硬めの乗り心地が少々気になるかもしれない。
フレンドリーなモンスター
今回、霧のサーキットとレース場の敷地内という限られた条件ではあったけれど、63 Sと53に試乗することができた。モンスター級のスペックとは裏腹に、全体にスムーズで乗りやすい印象を受けた。よく調教されたステアリングのパワーアシストはもとより、洗練された車両制御群がいい。エンジン、トランスミッション、サスペンション、排気音に加え、前後+左右のトルク配分が、走行モード「AMGダイナミックセレクト」によって統合的にコントロールされる。
そのうえトラクションコントロールは9段階、ESPはオフを含めて3段階に強度を変えられる。少なくとも視界不良のサーキットでは、すべて「つるし」のままでもまったく不満を感じなかった。
ドライブモードも、「滑りやすい路面」に続くおとなしい「コンフォート」でも十二分に速いから、公道でよりスポーティーな気分に浸りたいときは、動力系の設定は「コンフォート」のまま、排気音だけ「パワフル」に変更するといいんじゃないでしょうか。如実にエキゾーストノートが派手になって、「やっている気」になれます。
もちろん、AMG GTは、スポーツ走行を存分に楽しむための電子デバイスのほか、安全運転支援システムも充実する。カメラとレーダーセンサーを駆使して周囲を監視、制限速度を読み取ったり、他車や歩行者の存在を警告、必要とあらばブレーキまで踏んでくれる。前走車との距離を維持しつつ追従したり、ステアリングやブレーキを自動で操作しつつ車線内を走行する機能も備わる。この調子なら、濃霧のサーキットでも、他車の存在を警戒しつつコースレコードで自動走行してくれる日がやってくるかもしれない。いや、冗談ではなくて。
(文=青木禎之/写真=メルセデス・ベンツ日本、webCG/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
メルセデスAMG GT63 S 4MATIC+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5054×1953×1447mm
ホイールベース:2951mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:639ps(470kW)/5500-6500rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 /(後)315/30ZR21(ミシュラン・パイロットスポーツ4S)
燃費:--km/リッター
価格:2353万円/テスト車=2700万1000円
オプション装備:フルレザー仕様<パフォーマンスパッケージ含む>(46万円)/Burmesterハイエンド3Dオーディオパッケージ(59万円)/AMGカーボンパッケージ(122万円)/AMGカーボンセラミックブレーキ(100万円)/スペシャルペイント<グラファイトグレーマグノ>(20万1000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:124km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
![]() |
![]() |
メルセデスAMG GT53 4MATIC+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5054×1953×1455mm
ホイールベース:2951mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:435ps(320kW)/6100rpm
エンジン最大トルク:520Nm(53.0kgm)/1800-5800rpm
モーター最高出力:22ps(16kW)
モーター最大トルク:250Nm(25.5kgm)
システム総合出力:--ps(--kW)
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y/(後)315/30ZR21 105Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4S)
燃費:--km/リッター
価格:1593万円/テスト車=1752万円
オプション装備:AMGダイナミックプラスパッケージ<AMGダイナミックパッケージ含む>(100万円)/ガラススライディングルーフ(12万5000円)/フルレザー仕様<ナッパレザー>(26万円)/グラファイトグレーマグノ<マットペイント>(20万5000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:56km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。