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メルセデス・ベンツS560eロング(FR/9AT)

ガソリンだろうと 電気だろうと 2019.04.25 試乗記 渡辺 敏史 「メルセデス・ベンツSクラス」のプラグインハイブリッド車(PHEV)が大幅改良を受け、名前も新たに「S560eロング」となって登場。EV性能を大幅に向上させた“電気でも走れるSクラス”の姿に、時代を経ても変わらない最上級メルセデスの姿を見た。

パフォーマンスは4リッターV8ツインターボ相当

あえて“ベンツの560”と記してみれば、オッさん世代はバブルの街を夜な夜なはいずりまわるW126型を思い出すのではないだろうか。あの頃、Sクラスというクルマは高級車の象徴として日本であまねく認知を取り付けた。

それからおよそ30年の時がたつ。今、ベンツの560といえば指すSクラスはPHEVだ。厳密にはコンベンショナルな4リッターV8ユニットを搭載した「S560」もあるが、技術的先進性を示すのは「560e」の側となる。ちなみに両者の価格はイーブン。すなわち2つの560は完全同列の選択肢となる。

S560eのパワートレインは、バンク角60°のM276系3リッターV6エンジンと電動モーターを、クラッチで統合制御している。その基本的な仕組みは、前型にあたる「S550e」と変わりない。ただし、3リッターツインターボユニットはパワーを34ps、トルクを20Nm増強しており、最高出力367ps、最大トルク500Nmを発生。モーターも7psと90Nm増しの、最高出力122ps、最大トルク440Nmとなっている。両者を合わせたシステム最高出力は476ps、システム最大トルクは700Nm。確かにS560と同等のスペックを備えており、名前に偽りはない。ちなみに組み合わされるトランスミッションは9段ATだ。

2018年12月に日本に導入された「メルセデス・ベンツS560eロング」。「S550eロング」に代わる「Sクラス」のPHEVである。
2018年12月に日本に導入された「メルセデス・ベンツS560eロング」。「S550eロング」に代わる「Sクラス」のPHEVである。拡大
最新のマルチメディアシステムやBurmesterサラウンドシステムを標準で採用するなど、装備は充実。空調はプリエントリークライメート機能付きで、スマートフォンを介して車外からでも操作できる。
最新のマルチメディアシステムやBurmesterサラウンドシステムを標準で採用するなど、装備は充実。空調はプリエントリークライメート機能付きで、スマートフォンを介して車外からでも操作できる。拡大
試乗車にはオプションの「designoスタイルパッケージ」が採用されており、内装色は「シルクベージュ/ディープシーブルー」のツートン、シートはセミアニリンレザーのフルレザー仕様となっていた。
試乗車にはオプションの「designoスタイルパッケージ」が採用されており、内装色は「シルクベージュ/ディープシーブルー」のツートン、シートはセミアニリンレザーのフルレザー仕様となっていた。拡大
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PHEVならではのドライブの楽しみ方

そしてこのモデルで肝心なのは、搭載されるリチウムイオンバッテリーの容量だ。13.5kWhというそれは、前型比で55%近い向上をみており、今後の大容量化を見据えた6.0kW普通充電にも対応。メーカー側の正式リリースはないが、これを用いた残量10%からの満充電に要する時間は、3時間程度とみておけばいいだろう。電動での航続距離は40.1km(JC08モード)と伸びしろは電池容量ほどではないが、動力性能は大きく向上。130km/h巡航が可能となるなど、日常域では実質的にEV同等の使い方ができる。距離についても、東京的な物差しで例えるなら、都心から半径20kmの往復、つまり丸の内が拠点なら23区全域を余裕でカバーするというわけだ。実働距離を30kmで見積もっても、多くの社長さんの通勤はカバーしてくれるだろう。

この電池残量を頭脳的に使いこなすべく、S560eにはモーターの力だけで走行する「E-MODE」、負荷に応じてモーターとエンジンを使い分ける「HYBRID」、電池の使用量をセーブする「E-SAVE」、そしてエンジンで走行しながらバッテリーへと充電を行う「CHARGE」と、都合4つのエネルギーモードが備わっている。例えば、エンジンが低負荷で稼働する高速巡航中にCHARGEモードを用いれば、街中でのモーター走行に備えて電池残量を増やすことができるなど、賢く使いこなせば効率と快適を両立した移動が可能となる。このように、用途目的に応じてドライブプランを組み立てていくことも、PHEVが提供する新しいドライビングプレジャーといえるだろう。

さらにS560eには、アクセルペダルに電気的なフィードバックを加えることで、エコドライブのための微妙なアクセルワークを容易にする工夫も取り入れられている。単にモーター走行とエンジン稼働の境目を足の裏にクリック感として伝えるだけでなく、レーダーセーフティーシステムのセンサーを活用して前走車との車間を捕捉。適宜アクセルオフを促すべくペダルにノック感を与えるなど、ドライバーと車両の緊密な連携をアシストしている。

「S560eロング」に搭載されるリチウムイオンバッテリーの容量は13.5kWh、従来モデルの8.7kWhから大幅に容量を増やしつつ、同時に小型化も実現している。
「S560eロング」に搭載されるリチウムイオンバッテリーの容量は13.5kWh、従来モデルの8.7kWhから大幅に容量を増やしつつ、同時に小型化も実現している。拡大
電動パワートレインには「HYBRID」「E-MODE」「E-SAVE」「CHARGE」の4つのエネルギーモードを用意。バッテリーの電気のみで走ったり、エンジンで充電しながら走行したりできる。
電動パワートレインには「HYBRID」「E-MODE」「E-SAVE」「CHARGE」の4つのエネルギーモードを用意。バッテリーの電気のみで走ったり、エンジンで充電しながら走行したりできる。拡大
試乗車にはオプションの「ショーファーパッケージ」が採用されており、リアエンターテインメントシステムや電動ブラインド、フットレスト付きエグゼクティブリアシートなどが装備されていた。
試乗車にはオプションの「ショーファーパッケージ」が採用されており、リアエンターテインメントシステムや電動ブラインド、フットレスト付きエグゼクティブリアシートなどが装備されていた。拡大
「S560eロング」にはエコペダル機能が備わっており、EV走行時にはモーター走行の限界点(エンジンが始動するポイント)を、アクセルペダルの抵抗を増やすことでドライバーに感知させる。また前走車が減速した際にはペダルに2回ノックパルスを発生させ、アクセルから足を離すようドライバーに促す。
「S560eロング」にはエコペダル機能が備わっており、EV走行時にはモーター走行の限界点(エンジンが始動するポイント)を、アクセルペダルの抵抗を増やすことでドライバーに感知させる。また前走車が減速した際にはペダルに2回ノックパルスを発生させ、アクセルから足を離すようドライバーに促す。拡大

たとえ電気の時代を迎えようとも

S560eのパワートレインのフィーリングは、クラッチ式のハイブリッドとしては相当に洗練されていた。モーター走行からのエンジン始動、そして協調走行にいたる連携はとても滑らかだ。さすがトップレンジに与えられる心臓部だけに、遮音も振動対策も尽くされたのだろう。そしてモーター走行時の力強さも、確実に前型を上回るところにある。日本の平均的な交通下においては、モーターのみの動力性能でも過不足なく走ることができるはずだ。

アクセルを踏み込んでの協調モードでは、それこそ560を名乗るにふさわしい力強さで大きな車体をグイグイと引っ張ってくれる。巡航時などパーシャルスロットルからのワイドオープンでは、生のガソリンエンジンとは一味違ったモーターのずぶといトルクを感じることもできるだろう。ただし、急激なパワーの増減に際しても2つの動力源がシームレスに連携するかという点に注目すれば、やはり部分的にアラを感じることになる。いかなる運転パターンにおいても思い通りのレスポンスが得られるか否かについては、S560や「S400d」といった従来型のパワートレインに軍配が上がる。

このクルマは、自らのライフスタイルにおいてエコへのスタンスを示すアイテムとして選んでも、もちろん何ら不便を被ることはない。でも選択を実践的に利のあるものとするなら、やはり日々の業務において限定された距離を移動し、インフラ負荷の少ない夜間に充電しておくという規則的な利用が前提となるだろう。いずれにせよ、パーソナルユースというよりはビジネスやフォーマルの色が濃い。S560eというグレードはそういうところに落ち着くのではないだろうか。

それでもいちクルマ好きとして心引かれるのは、無音&無振動のモーターが放つきめ細やかな大トルクを、Sクラスのとろけるような乗り心地で味わえるという極上の二重奏だ。どんな高級車にも劣らないこの上質な移動時間を知ってしまうと、純然たる電気自動車の時代が訪れたとしても、SクラスはSクラスであり続けるのだろうと思わされる。

(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

オプションの「AMGラインプラス」に含まれる20インチアルミホイール。標準仕様のアルミホイールは19インチで、タイヤサイズは前:245/45R19、後ろ:275/40R19となる。
オプションの「AMGラインプラス」に含まれる20インチアルミホイール。標準仕様のアルミホイールは19インチで、タイヤサイズは前:245/45R19、後ろ:275/40R19となる。拡大
トランクルームの容量は395リッター。走行用バッテリーを搭載する都合により、他の「Sクラス」(470~530リッター)よりいささか狭くなっている。
トランクルームの容量は395リッター。走行用バッテリーを搭載する都合により、他の「Sクラス」(470~530リッター)よりいささか狭くなっている。拡大
フロントのフェンダーパネルに装着された「EQ POWER」のバッジ。「EQ POWER」とはPHEVによって構成されるメルセデス・ベンツの商品群で、現在は「E350eアバンギャルド スポーツ」「GLC350e 4MTAICスポーツ」「GLC350e 4MTAICクーペ スポーツ」「S560eロング」の4車種がラインナップされる。
フロントのフェンダーパネルに装着された「EQ POWER」のバッジ。「EQ POWER」とはPHEVによって構成されるメルセデス・ベンツの商品群で、現在は「E350eアバンギャルド スポーツ」「GLC350e 4MTAICスポーツ」「GLC350e 4MTAICクーペ スポーツ」「S560eロング」の4車種がラインナップされる。拡大
システム最高出力476ps、システム最大トルク700Nmという高いパフォーマンスも「S560eロング」の特徴、0-100km/h加速は5.0秒と公称されている。
システム最高出力476ps、システム最大トルク700Nmという高いパフォーマンスも「S560eロング」の特徴、0-100km/h加速は5.0秒と公称されている。拡大

メルセデス・ベンツS560eロング

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5285×1915×1495mm
ホイールベース:3165mm
車重:2330kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:367ps(270kW)/5500-6000rpm
エンジン最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1800-4500rpm
モーター最高出力:122ps(90kW)
モーター最大トルク:440Nm(44.9kgm)
システム最高出力:476ps(350kW)
システム最大トルク:700Nm(71.4kgm)
タイヤ:(前)245/40R20 99V/(後)275/35R20 102V(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5P)
ハイブリッド燃料消費率:11.4km/リッター(JC08モード)
価格:1697万円/テスト車=1988万6000円
オプション装備:AMGラインプラス(67万8000円)/ショーファーパッケージ(89万3000円)/designoスタイルパッケージ(123万7000円) ※以下、販売店オプション フロアマットプレミアム(10万8000円)

テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1992km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:143.6km
使用燃料:12.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.6km/リッター(満タン法)

メルセデス・ベンツS560eロング
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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