レクサスRC Fトラックエディション(FR/8AT)
忘れがたきものになる 2019.05.01 試乗記 マイナーチェンジが行われた「レクサスRC F」に、日本での正式発表に先立ち米カリフォルニア州パームスプリングスで試乗。熱い走りを予感させる「トラックエディション」と名付けられた、新たなトップモデルのパフォーマンスに迫る。フェイスリフトを含む刷新
レクサスにおいては最もスポーティーな位置付けのモデルとなるだろうRC Fが、2019年1月にマイナーチェンジを受けた。これまでもサスペンションまわりや電子制御系のチューニング変更など、年次改良ごとに細かなリファインが重ねられてきたが、今回の刷新はフェイスリフトを含む大がかりなものだ。
まず今回のマイナーチェンジにおいて挙げられる第1の改善点は20kgの軽量化が施されたこと。これはレインフォースのアルミ&カーボン化やサスペンションブラケットのアルミ化といった中小部品の材料置換、インテークマニホールドの駄肉切削など、地道な努力の積み重ねによって得られたものだ。
第2の改善点は空力性能の向上。基準車たるベースモデル「RC」のアップデートによって得られたウィンドウモールのフラッシュサーフェス化とフィン形状化に加え、フロントバンパーコーナーはカナード効果をもたせた形状に変更。サイドロッカーモール後端部の凹面は後輪周辺の乱気流抑制を狙って設けられた。いずれもレーシングカーテクノロジーのフィードバックだという。
そして第3の改善点は、これらの基本特性進化を踏まえての、細かなキャリブレーションである。具体的にはサスセットの見直しに加えてエンジンマウントやステアリング支持マウント、リアサブフレームブッシュなどゴムものの強化、専用チューニングの「ミシュラン・パイロットスポーツ4S」タイヤの採用といったところだ。
軽量化にも腐心
動力性能に目を向ければ2UR-GSE型ユニットは吸気系の見直しによる中間域のレスポンスアップに伴い、最高出力は479ps、最大トルクは535Nmとわずかながらの向上をみている。加えてファイナルをローギアード化したことで連続するコーナーでの8段ATのつながり感を高めるなど、気持ちよくドライブを楽しむための改善も加えられた。ちなみにその8段ATには、新たにローンチスタート用の制御も設けられている。
と、これらの進化をみたRC Fの標準グレードをベースに、動的なパフォーマンスをさらに高めたグレードとして新たに設定されたのが「トラックエディション」(日本仕様では「パフォーマンスパッケージ」となる予定)だ。
その最大の特徴はやはり軽量化で、従来の「RC F“カーボンエクステリアパッケージ”」に相当するボンネットやルーフパネルに加えて、フロントスポイラーやリアディフューザー、リアバルクヘッド部のブレースなどをカーボン化。マフラー部をチタン製とするなど、大幅な材料置換を施している。
加えて、ブレーキにはブレンボのカーボンセラミックシステムを採用。ホイールは軽量設計の鍛造アルミとするなど、これらバネ下部だけで約25kg、合わせて標準グレード比で50kgの軽量化を達成。主要市場であるアメリカではパフォーマンスを示すひとつの指標とされる4秒以下の0-60mph加速タイムを捻(ひね)り出したという。
加えて空力性能はさらに強化されており、トランクに据えられたカーボン製の固定式リアウイングはGT3仕様開発の知見がフィードバックされている。また、ささいにみえるフロントスポイラー下のリップやサイドスカートもスタビリティー向上に少なからぬ役割を果たしているという。
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フィードバックは素早く正確
標準モデルたるRC Fの乗り味は、前型に対して如実に軽さがわかるほどのことはない。しかし低中速域での細かな揺れや上下動などの曖昧な動きが確実に抑えられて、きれいなライド感になったことはすぐに伝わってくる。
本来の車体剛性を生かし切るべく締め上げたマウント類によって、メカニカルセクションの揺れが少なくなったことがすっきりした乗り味につながった……というのは、基準車であるRCのマイナーチェンジにおける変化だが、RC Fもその特長を引き継いでいるようだ。
クローズドコースでのドライブにおいても進化の跡は、操作に対するフィードバックがより素早く正確なものになったことにみてとれる。特に操舵応答のカチッとした感触は前型とは大きく違うところ。アクセル操作に対するレスポンスも良く、ドライブモードをスポーツプラスの側に入れれば、スロットルで積極的に向きを変えることもたやすい。
さらに後左右輪の差動を電子制御で増減するオプションのTVD(トルク・ベクタリング・ディファレンシャル)が装着されていれば、大きくアングルを保ったドリフトも積極的に楽しむことができる。そういう体勢でのコントロール性が高まっているのも新型の特長だろう。
実はトラックエディションでは、このTVDがオプションでも選択できない。言い換えればそういうお楽しみは必要ないという、クローズドコースを求道的に走り込みたい人に向けたモデルとして企画されているということだ。もとよりトルセンLSDの差動に不自然さはなく、高い限界を持つシャシーのリアステアを積極的に引き出すには、相応のスピードや巧みな荷重移動が求められる。
大排気量NAユニットのありがたみ
トラックエディションの車重の軽さは歴然で、標準グレードに比べると一回り小さな車格のクルマに乗っているかのようだ。何よりバネ下の軽さはモノの印象を一変させており、気合を込めたブレーキングでの突っ込みから激しい切り返しにと車体に大きく負荷が掛かるセクションでの応答性、縁石の凹凸をなめていく時の追従性などはピュアスポーツと呼べるほど正確でソリッドな印象だ。
トラックエディションはステアリングのチルト&テレスコピックを手動にし、リアの小物入れを廃するなどの涙ぐましい軽量化を施しているが、一方でリアシート自体は生かされている。あるいは専用ホイールを用意しサスセットを変えているにも関わらず、最低地上高も標準モデルと同じだという。
すなわち、日常と非日常をシームレスにつなげ、すべての時間を楽しく豊かなものにするという“F”のコンセプトに忠実であろうというわけだ。その割には物騒な羽根を背負っているわけだが、あぜんとするほどダンピングが引き締まるスポーツプラスモードに入れない限り、トラックエディションは音・振動の類いも十分日常的だし、乗り心地も時に標準モデルより精緻さを感じるほど洗練されてもいる。
2日間にわたる試乗であらためて感じたのは、大排気量NAユニットのありがたみだ。絶対的な速さにおいてはターボ勢にかなわずとも、伸びやかな回転フィールや濁りのないサウンドなど、エンジンの気持ちよさではそれらライバルを上回る。
まさかそんなエンジンを最後まで残すことになるのがレクサスとは思わなかったが、それこそ先駆けた電動化の恩恵でもあろう。しかし、タイムリミットは確実に近づきつつもある。成熟の時を迎えたRC Fは、クルマ好きにとって忘れがたきものとなるかもしれない。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
レクサスRC Fトラックエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4710×1845×1390mm
ホイールベース:2730mm
車重:1770kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
最高出力:479ps(352kW)/7100rpm
最大トルク:535Nm(54.6kgm)/4800rpm
タイヤ:(前)255/35R19/(後)275/35R19(ミシュラン・パイロットスポーツ4S)
燃費:--km/リッター
価格:--万円
オプション装備:--
※スペックは北米仕様車のもの。
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラック&ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。