レクサスRC F“パフォーマンスパッケージ”(FR/8AT)
こだわりが伝わる 2019.07.23 試乗記 「限界走行性能の最大化」や「意のままに操れること」を目標に、徹底的に磨き込まれた「レクサスRC F」。その崇高な求道精神で“理想の走り”は実現できたのか? トップグレードの“パフォーマンスパッケージ”で確かめた。執念すら感じる改良策
今年2019年の5月にマイナーチェンジされたRC Fだが、その改修内容はとにかくマニア心をくすぐるウンチクがたっぷりである。基本意匠のアップデートや質感向上策はひとあし早く発売されたマイチェン版「RC」に準じるが、今回のF専用メニューでは、どんな細かいパートにもエンスーな理屈がいちいち付随する。
車体剛性アップ策については、すでにやり尽くされたのか、今回は特別にアピールされていない。ただ、それ以外のアシやエンジン、そしてとくに軽量化はいい意味で寒気がするほどの執念がほとばしっている。
新しいRC Fの車重は資料によると「従来型比約20kgの軽量化」とある。20kgという質量はけっして小さくないが、それでも車両重量全体の1~2%にすぎず、市販車でそのレベルの軽量化を明確に体感できる自信は、少なくとも私にはない。
ただ、その軽量化のマニアきわまりない内容には萌えまくる。例をあげると、アルミ鋳造の吸気マニフォールドを機械加工して0.7kg、フロントストラットアッパーサポートをアルミ化して0.7kg、リアバンパー裏補強材を世界初のアルミ/CFRP(炭素繊維強化樹脂、いわゆるカーボン)複合部品にして0.5kg、リアのトーコントロールアーム・ブラケットをアルミ化して0.5kg……といった具合である。
どれもいちいち地道なのがまた萌えなのだが、よくよく見ると、これらはエンジン部品でも比較的高い位置、車体やシャシーでもやはり、上部やオーバーハングにある部品ばかりなのが“低重心”や“慣性マス”といった単語に脊髄反応するマニア層にはたまらないのだ。
軽量化に加えてゴムブッシュ類の強化も今回の主眼である。リア側エンジンマウントを専用新設計して細かいコーナーでの切り返しにも「エンジンという最大慣性マスがシャシーに遅れない」ことに配慮したそうだ。また、シャシー部品でも、サブフレームやアームのブッシュ類をことごとく強化して横力による変形を抑制している。こういう快適性と走りをスレスレでせめぎ合わせる調律は、もともと日本車が苦手としてきた領域で、欧州スポーツカー信者が「だから日本車は……」という、お約束のツッコミどころだった。
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道をきわめたオタクなグレード
今回の“パフォーマンスパッケージ”は、そんなマニアックなRC Fを、さらにキリキリと突き詰めた究極的なオタクグルマである。
最初に確認しておくが、そのパワートレインやシャシーは基本的に標準RC Fと共通であることで、パフォーマンスパッケージのキモはさらなる軽量化と空力にある。その車重は標準RC Fより、じつに50kg(ボンネットやルーフをCFRP化した“カーボンエクステリアパッケージ”比でも40kg)も軽いのだ。
その軽量化手法は前記のベースモデルでのそれよりも分かりやすい。まず「1kgの軽量化がバネ上10kgに相当する」ともいわれるバネ下だけで、なんと22kgも軽くなっている。全車標準のBBS鍛造ホイールをパフォーマンスパッケージ専用にさらに軽量化することで、4本計2.8kg減、そこに前後のブレーキローターをカーボンセラミックに置換するなどで合計22kg減になるのだそうだ。
バネ下の次に大幅な軽量化はチタンエキゾーストに換えられた排気系で、ベースのステンレス比で7kg減、それ以降はさらにリアディフューザーのCFRP化、後席トランクスルーとカップホルダーの廃止など、ツメに火をともすような地道な軽量化メニューが続く。最後には、なんとステアリングのチルト&テレスコピック調整をわざわざ手動化(!)までしている。これだけで0.6kg減という……。
これらの内容はポルシェでいうと「GTナンチャラ」(?)に匹敵しそうな徹底ぶりだが、パフォーマンスパッケージで興味深いのは、そんなGTナンチャラとは異なり、これが別に国際競技目的のホモロゲーションモデルでもなんでもないことだ。こういういわば自己満足や美学だけをよりどころにした“求道精神”は、なんとも日本のオタク好みである。
乗り心地のよさにビックリ
新しいRC F……の、とくにパフォーマンスパッケージで印象的なのは、驚くほど乗り心地がいいことだ。5年前の発売初期から比較すると、もはやまるで別のクルマである。
すでにやり尽くしたとおぼしき車体剛性に、たとえば「トヨタ・スープラ」のような有無をいわせぬゴリゴリ感がないのは、設計年次の古さもあるだろう。それでもアシのタッチは徹頭徹尾しなやかで、最軟の「ノーマル」モードでもムダな上下動はほとんどなく、最硬の「スポーツS+」モードでも暴力的でない。
RC Fの前身となった「IS F」から共通してきた歴代“F”のキモは大排気量自然吸気エンジンと固定減衰ダンパーであり、ある意味で電子制御や可変技術を否定するところが売りだった。しかし、RC Fデビューから2年後(兄弟車の「GS F」では3年後)にあたる2016年秋にはその方針を転換して、電子制御連続可変ダンパーの「AVS」を装着するようになった。
F専用をうたうAVSは2016年の初投入から一貫してザックス製である。レクサスのAVSの多くがステップモーターによる9段階切り替えなのに対して、F専用ザックスは30段階で、リニアソレノイドによる切り替え速度もステップモーター式の約4倍という。
結果として、最新のRC Fの乗り心地はまるで「センチュリー」とはいわないが、路面からの衝撃はことごとく丸くなった。しかも、今回のブッシュ類強化は乗り心地にはネガティブ要因のはずなのに、実際にはそうとはまるで感じさせない。
個人的には中間の「スポーツS」モードの一択で、固定レートのバネとの相性もあらゆる場面でちょうどいい……と思えるほどバランスがいい。少なくとも公道で遭遇しうる山坂道ではスポーツS+では硬すぎて、ワンランク柔軟なスポーツSがほぼドンピシャだ。それでいて、さらに柔らかいノーマルでもアゴを出さない。可変ダンパーをこうして分かりやすく仕立てられるのは、低重心化や重量配分を実施して各部のフリクションなどの基本資質がきっちり磨かれている証明でもある。
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“踏める”クルマになっている
新しいRC Fはいよいよ正確さに磨きがかかった旋回性能にも感心するが、それ以上に快感なのは、ビターッと矢のような直進性とどこから踏んでもしっかり前に蹴り出してくれるトラクション性能だ。かつてのRC Fが軽微なワダチでもチョロついて、旋回中はもちろん、場合によっては直線でもエンジントルクが簡単にあふれてしまっていたことを考えると、まさに感慨深いものがある。
とくに今回のパフォーマンスパッケージは、そんな標準RC Fに輪をかけてまっすぐ走って、とにかく“踏める”クルマになっている。そこには今回の集大成的なシャシー技術の恩恵も当然小さくないだろうが、経験的にいうと、今回は専門家がいうところの“空力操安”の効果もかなり大きそうである。
今回のRC Fの外観に施された変更は、基本的にどんな細部もすべて空力目的という。巨大スピンドルグリルも、中央バンパー部分以外はすべて貫通している本物だ。次に目立つのは前後ホイールアーチの後方に開けられた排気スリットで、フロントのそれは当初からあったが、リアは今回初めて開口された。フロントも従来はエンジンルームの換気だけの目的だったものが、今回からホイールハウスの排気にも使われるようになり、同じく後輪ホイールハウスから風を抜くリアスリットともども、タイヤ付近の気流の乱れや空気抵抗を抑制して、直進性や旋回性能に多大に寄与しているという。
また、パフォーマンスパッケージ専用の固定式CFRP製リアウイング(主翼とステーが一体成形の逸品)や左右に20mmずつ追加で張り出したサイドシルも効果大。前者は標準の電動格納スポイラーより大きなダウンフォースを、空気抵抗値を低減しながら発生し、後者はロール方向の動きを抑制するのだという。
ボンネットフード開口も本来はグリルからの気流をきれいに抜いてフロント揚力を抑えるが、標準状態ではさすがに裏ブタが装着されていた(ただ、必要とあればすぐに外せる設計である)。
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長所もこつこつとリファイン
このクルマのもうひとつの美点はブレーキだ。それは日本車ではめずらしいほど“鳴く”が、絶対的な利きと、踏みはじめからジワッと反応するタッチは素晴らしい。
このクルマのブレーキというと、オタク筋の注目はカーボンセラミックディスクだが、そうした複合素材ディスク本来の利点は耐フェード性で、その次が軽量化である。だから、今回のような公道試乗で実感するメリットは、高価なディスクローターよりも、新設計パッドとリアディスク径の拡大、そしてレバー比を見直して踏力スイッチも廃止したブレーキペダルユニットによるところが大きいと思われる。なるほど、RC Fのブレーキはそのねらいどおり、ストロークによる微妙なコントロールがしやすくなった。
5リッター自然吸気にして排気量あたりの比出力がかぎりなくリッター100psに近い(実際は96.8ps/リッター)V8もレスポンスやサウンドチューニングを改善したというが、それ以前から少なくとも官能性についてはほぼ文句はなかった。今もなお4000rpm前後からいよいよ本格的に勢いがついて、5000、6000、7000rpm……とトルクとレスポンス、ハイトーンボイスを着実に上積みしていくドラマティックな展開はたまらない。
IS Fで初めて出会ったときには「これぞ究極のオートマ」と思わせた8段トルコンATは新たに「サーキットでも使えるDレンジ」を目指したという。しかし、少なくとも一般の山坂道では必要な減速Gまで到達しないのか、やはりマニュアル変速でないとうまく走れなかった。かつてはその精密かつ電光石火の所作に感動したものだが、今となってはシフトショックや変速スピードで他社同種品より古さを感じるとは、まさに隔世の感……。
古さが残る部分はある
前記のように操縦性に影響する横方向の動きを抑制したというエンジンマウントだが、それよりもスロットルのオンオフで、パワートレイン全体がときおりドシンズシンと揺れてしまうクセは気になった。これはまあ、最初からサーキット走行その他で乱暴にシゴかれまくった試乗個体特有の問題の可能性もあるが、それ以外の部分が見事なまでの改善・熟成ぶりであるだけに余計に気になってしまった。
また、アダプティブクルーズコントロールがいまだに全車速対応でなかったり、自転車や夜間歩行者に対応しないADAS(先進安全運転支援システム)、いまだに足踏みパーキングブレーキという設計の古さも、1000万円オーバーのレクサスとして純粋に物足りない。
それまでADAS(先進運転支援システム)には消極的(?)だったトヨタが、その分野で一気にトップグループに踊り出たのは2015年の「プリウス」からである。ご想像のとおり、そこには「TNGA」をうたった新世代プラットフォームが欠かせない。だから、その直前(2014年秋)に発売されたRC/RC Fは、そっち方面の技術ではちょうど過渡期のエアポケット世代である。
ただ、そういうRC Fだからこそ、連続可変ダンパーこそ備えつつも、トルクベクタリング機能デフ(TVD)やアクティブサウンドコントロール(ASC)まで省略したアナログをきわめる求道精神が似合う……ともいえる。
どう考えてもわれわれのようなアマチュアドライバーにはTVDのほうが安全で、しかもアクセルで容易に遊べる幅も広がる。それに単純にスピーカーで音を加えるASCは、コストも重量もほとんどかさばらないはずである。なのに、パフォーマンスパッケージでは、これらをあえて拒否してみせている。
考えてみればRC FがベースのRCと同時デビューしてから約5年だから、今回のマイナーチェンジはモデルライフの折り返し……というより総仕上げの感が強い。このV8エンジンも絶滅危惧……ならぬ絶滅確定種(?)である。RC Fを新車で購入して、趣味遺産として大切に動態保存するなら、このパフォーマンスパッケージがうってつけ、しかも残された期間はそう長くないはずである。
(文=佐野弘宗/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
レクサスRC F“パフォーマンスパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4710×1845×1390mm
ホイールベース:2730mm
車重:1720kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:481ps(354kW)/7100rpm
最大トルク:535Nm(54.6kgm)/4800rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 92Y/(後)275/35ZR19 96Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4S)
燃費:8.5km/リッター(WLTCモード)
価格:1404万円/テスト車=1449万7920円
オプション装備:クリアランスソナー&バックソナー(4万3200円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム<RC F専用チューニング>(23万8680円)/寒冷地仕様<ヘッドランプクリーナー+LEDリアフォグランプ+ウインドシールドデアイサー等>(2万8080円) ※以下、販売店オプション プロジェクションカーテシイルミ(2万3760円)/LEXUS Racing Recorder(11万8800円)/エアダム<カーボンフロントスポイラー用>(5400円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2864km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(7)/高速道路(2)/山岳路(1)
テスト距離:501.3km
使用燃料:81.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.2km/リッター(満タン法)/4.5km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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