トライアンフ・スクランブラー1200 XE(MR/6MT)
“身の丈”なんて忘れちまえ 2019.05.23 試乗記 クラシカルなスタイリングと本気のオフロード性能を併せ持つ「トライアンフ・スクランブラー1200 XE」。870mmという高いシート高が気になるところだが、実際に乗ってみると、「それでも欲しい」と思わせる魅力にあふれた一台に仕上がっていた。ライダーのM心を刺激する
クルマを運転する時、最初にすることはシートやハンドル位置の調整だ。安全に操作できる環境を整えてから走りだすのが当たり前で、もしも調整機構が付いていなければ批判にさらされる。
ところがバイクにその感覚はない。調整機構など備わっていないのが普通のことで、あったとしても可動範囲は数mmからせいぜい20mm程度。車体サイズが身の丈に合わなければあきらめるしかないのだ。そうでなければスキルアップを果たすか、体を鍛えて出直すか。クルマと比べると絶望的なおもてなしの欠如ながら、そういうハードルを強いられても納得できるバイクがある。トライアンフから登場したスクランブラー1200 XEがまさにそれで、ライダーなら少なからず持ち合わせているドM心をくすぐる一台だった。
スクランブラー1200 XEのデザインはネオクラシックに属する。それゆえ、一見すると穏やかな癒やし系ながら明らかに腰の位置が高い。それを察知した編集スタッフのSさんは、賢明にも「バイクの引き取りと返却もお願いできますか?」とリクエスト。リスクを回避するのも重要な仕事である。
とはいえ、筆者の身長は174cmほどだ。低くもないが高くもない極めて平均的な日本人サイズであり、股下もしかり。トライアンフジャパンの地下駐車場で車両を受け取った時、いかにも「全然余裕ですから。こんなの毎日ですから」という体で発進したものの、緊張感はそれなりにあった。
サスペンションのストローク量は250mm
ただ、地上に出てからは快適そのものだった。目線は高く、前傾姿勢とは無縁のため、イメージ的には乗馬に近い。エンジンのマッピングもよくしつけられ、トコトコと常足(なみあし)のように車体を進めることも許容。エンジンモードには、レイン/ロード/スポーツ/オフロード/オフロードプロの5種類があり、ユーザー自身で各種デバイスの介入度を設定できるライダーモードも用意されているが、いずれを選択しても低回転域のフレキシビリティーは失われず、いたずらにアグレッシブさが増す領域もない。
最大トルクを3950rpmの低回転で発生するパラレルツインエンジンは、トラクションがつかみやすい270°クランクを採用し、スロットルのオン/オフに対して過不足なくレスポンスする。エンジン回転の上下動にサスペンションのストロークがぴったりと追従してくれるため、右手の動きひとつで走りのリズムを作れるところがいい。そのせかされないアナログ感がほどよく、ハンドリングもネオクラシックなデザインに見合うように仕立てられている。
とはいえ、サスペンションのストローク量は前後ともに250mmずつある。これは、一般的なオンロードモデルの倍ほどの数値で、同クラスのオフロードモデルでも180~200mm程度であることを踏まえると絶望的に(?)足が長い。870mmのシート高もかなり高い部類で、身長が180cmあってもツマ先立ちはまぬがれない。それくらいのサイズ感である。
もしもこれで車重が重たければ心底ツラい日常が待っていそうだが、装備重量は227kgと常識的で、車幅もスリムだ。そのため、取り回しやUターンは比較的容易である。もちろん、街中での扱いがまったくストレスフリーとまでは言わないものの、この抜群のスタイルとの引き換えなら、利便性や快適性に少々目をつぶるだけの価値はある。少なくとも体を鍛え、筋力をつけて挑むほどのストイックさは必要なさそうだ。
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アドベンチャーモデルとしての資質が高い
それでも「いくらなんでもこれは……」というライダーの受け皿もちゃんと用意されていて、それが「スクランブラー1200 XC」である。
これはXEを少しコンパクトにしたバージョンで、エンジンやフレームを共有しながらサスペンションのストローク量を前後とも200mmに制限。それに伴ってホイールベースは40mm短くなり、シート高も30mm下げられたフレンドリー仕様だ。
ただし、XCを選ぶとバンク角や加速度を検知するIMU(慣性計測ユニット)が省略されるところが痛し痒(かゆ)し。これによってトラクションコントロールやABSの制御範囲がせまくなるため、オフロードも含めて本気でスポーツしたいライダーは、やはりXEに優位性がある。
レバー比の変更が可能なブレーキレバー、精度の高いシフトフィーリングをもたらすチェンジペダルとギアボックス、直感的な操作が可能でグラフィックも美しいメーターなど、操作系コンポーネントの完成度は最近のトライアンフに共通する美点だ。ライダー本位のバイク作りは明らかに他メーカーをリードし、エンターテインメント性も持ち合わせている。
今回、オフロード走行の機会はなかったため、本当のポテンシャルには迫れていない。しかしながら、ネオクラシックやスクランブラーという枠組みを超え、1台のアドベンチャーモデルとして高い資質を備えていることは十分伝わった。
シートにまたがり、スロットルを開けた先にある縦横無尽の感覚。実際にそこへ至るかどうかは別にして、その入り口に立てることの意味は大きい。車名の末尾に付く「XE」に込められているのは「エクストリーム」の意味だ。それこそがこのモデルの本質に他ならない。
(文=伊丹孝裕/写真=三浦孝明/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2325×905×1250mm
ホイールベース:1570mm
シート高:870mm
重量:227kg
エンジン:1200cc 水冷4ストローク直列2気筒 SOHC 4バルブ
最高出力:90ps(66.2kW)/7400rpm
最大トルク:110Nm(11.2kgm)/3950rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.9リッター/100km(約20.4km/リッター、WMTCモード)
価格:217万4100円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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