アウディA6アバント55 TFSIクワトロSライン(4WD/7AT)
価格に見合った価値がある 2019.05.28 試乗記 世界的なSUVブームとなって久しいが、アウディは「アバント」の名称でスタイリッシュなワゴンを綿々とつくり続け進化させている。SUVに押され、このままワゴンは“オワコン”になってしまうのか? 新型「A6アバント」に乗り、ワゴンという選択肢をあらためて考えてみた。頼れるドイツブランド
猫も杓子(しゃくし)もSUV……そんな世界的なSUV大流行の波に押し出されるように、時の流れにつれてドンドンと影が薄くなっていくのがセダンやステーションワゴンといった、かねてのオーセンティックなボディー形態である。
もちろん、自動車メーカーとて紛(まご)うことなき営利事業主。「そっちがもうかる」となれば、皆一斉にそちらを向いてしまうのは、彼らにとってはいわば“やんごとなき事情”でもあるわけだ。
一方で、「それでもやっぱりセダンやステーションワゴンが欲しい!」というユーザーにとってみれば、こうしたトレンドはまさに困りもの。特に、この先の自国での需要減退をいち早く察知した日本車メーカー発の作品群は、もはや“見る影もない”という状況が続いて久しいのはご存じの通りでもある。
そうした中にあっても、きっちりと新世代のモデルを提供してくれる代表格は、いわゆる“ジャーマン3”を代表とした歴史と伝統に育まれたブランドの作品。まずはセダン、追ってこのブランドでは「アバント」を名乗るステーションワゴンが、ともに2018年にフルモデルチェンジを果たしたアウディの基幹車種A6シリーズも、もちろんそうした中のひとつのモデルとして取り上げることができる。
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フルチェンジを実感させるインテリア
そんなアウディとて、時とともに激しさを増していくSUVの潮流に乗り遅れているわけではない。それどころか、「Q7」や「Q5」のフルモデルチェンジに、「Q2」や「Q8」といったブランニューモデルの投入と、ここ数年の間に連続した「Q」の記号が与えられたモデルにまつわるニュースを振り返ってみれば、このブランドが世界で流行するSUVによって新たな顧客の取り込みに腐心していることが分かる。加えて、既存モデルの刷新についても決して手を抜かずに行い、かねての自社顧客も逃すまいとする布陣を張る。そうしたしたたかな戦略と、それを可能にする開発力のすごさを、あらためて教えられたような気がする。
ここに紹介するA6シリーズは、もちろん後者。セダンにしてもアバントにしても、まず一見した時点では「従来型と見紛うようなスタイリング」が採用されているのも、好意的に解釈すれば「ことさらに新鮮さや代わり映えを求めることのない、以前からのモデルに好意を寄せてくれているユーザーに対するひとつの回答」と受け取ることができそうだ。
一方、誰の目から見ても一瞬でフルチェンジを実感させるのは、むしろインテリアのデザインだ。
こちらはまず、従来の「タブレットを立て掛けたようなデザイン」が改められ、大型のワイドディスプレイがセンター部分にビルトインされたダッシュボードが大きな見どころ。同時に、センターパネル部にも新たにタッチパネル式ディスプレイが採用され、その一方で多くのメカニカルスイッチが姿を消しているのも目につく。実は、こうしてメカニカルスイッチをタッチパネル式へと変更する動きは、基本設計を他の車種にも流用しやすいといった点で、今やコストダウンにも大きな効果を発揮しているはずだ。
新しいスタンスによって見栄えがスッキリとした一方で、必ずしも“良いこと”ばかりではなかった。例えば従来型ではスイッチ部分に視線を落とすことなくできた多くの操作が、そうはいかなくなってしまった。特にアウディ車の場合、ひとたび慣れてしまえば“なんでもできた”機能性が練りに練られたデザインのコンソール上のボタンとMMI(マルチメディアインターフェイス)ダイヤルの組み合わせが廃止され、タッチパネル式へと改められてしまう動きは、個人的には「大いなる損失」にも思えるものだ。
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“積める”よりも“魅せる”を重視
今回の試乗車となったA6アバントは、マトリクスLEDヘッドライトやリアのLEDダイナミックターンインジケーター、フロントのスポーツシートやスポーツサスペンションなどを標準装備とした「Sライン」に、ダイナミックオールホイールステアリングやダンピングコントロールサスペンション、ダイナミックステアリングから成る「ドライビングパッケージ」や、サラウンドビューカメラ、リアサイドエアバッグなどから成る「アシスタンスパッケージ」、Bang & Olufsenのオーディオ等々と、121万円分ものオプションアイテムが上乗せされたゴージャスな仕様。
実際、ひとたびキャビンへと身を委ねてみれば、各部の素材の吟味や上質な仕上げの具合から、たちまち“良いモノ感”に包まれる。走り始める以前の段階で、「インテリアの演出がすこぶる上手だナ」と実感させるのは、昨今のアウディ車での得意芸でもある。
こちらもまるでキャビンの一部であるかのように、上質に仕上げられた直方体のラゲッジスペースは、テールゲートの開閉に連動したトノーカバーも含め、いかにも使い勝手が良さそうなデザイン。ステーションワゴンではあるもののリアウィンドウの前傾具合はかなり強く、ここは“積めるワゴン”よりも“魅せるワゴン”がデザイン上のプライオリティーであるとうかがえる。
「これで積載スペースが物足りなければ、SUVのQシリーズがありますよ」という口上が使えるのも、リアエンドに大胆な“前傾デザイン”を用いることを許容する、ひとつの要因になっていそうだ。
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違和感のないマイルドハイブリッド
前述した多数のオプションアイテムや4WDシステムを採用することもあって、テスト車は軽く1.9tをオーバーするという重量級。しかし、340psという大きな最高出力はもとより、500Nmという太いトルクを、わずかに1370rpmという低回転から発するターボ付きの3リッターV6ガソリン直噴エンジン+7段DCTによるパワーパックは、さしたる重さを感じさせることもなくスタイリッシュなステーションワゴンボディーを軽々と加速させてくれる。
ちなみに、今度のA6シリーズでのひとつのトピックは、「すべての心臓に、マイルドハイブリッドテクノロジーを採用」というもの。中でもV6エンジン車に組み合わされるのは、より大きな燃費低減=二酸化炭素排出量の削減の効果が見込める、10Ahのリチウムイオン電池やベルト駆動式で最高12kWの出力を持つスタータージェネレーターから成る48Vシステムだ。
その機能は、今やおなじみの減速時回生はもとより、「55~160km/hの速度域で最大40秒間のコースティング(惰性)走行や、22km/h以下でのアイドリングストップを実現」などとうたわれる。一方で、そんな複雑な制御は、走行中にも関わらずタコメーターの指針が“0rpm”を示すことなどから確認できる程度である。
すなわち、これまでにはなかったそうした効率向上のためのシステムを新たに採用することによる違和感は、「全くナシ」と言っても差し支えがないということ。コストの上昇はもとよりトラブルの発生要素を減らすといった観点からも、正直「ホントはそんな機構は付けないでほしい……」と言いたくなるところだが、エンジンのみではどうにも対応のできない罰則付きの燃費規制が目前、というのが今という時代。むしろ、こうして何の違和感もなく扱えるシステムをいち早く完成・搭載したことを評価すべきなのだろう。
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押しも押されもせぬ高級車
そんなパワーパックを筆頭に、このモデルに具現された走りのポテンシャルは、いずれもアウディA6というキャラクターにふさわしい仕上がりだった。
同じ新型A6でも、セダンに比べると路面の凹凸を拾った際のドラミングノイズがやや明確と思えたのは、やはりボディー後半部分のデザインと、それがもたらす剛性バランスの違いなどによる影響か。ちなみにそれは、「タイヤの摩耗などによってこれ以上増加するとやや気になりそうだが、現状であれば特に不快とは感じない」と、個人的にはそう受け取れるレベルだった。
一方、日常シーンではもはやほとんど耳に届くことのないエンジン透過音や、このクラスのモデルの中でも間違いなく小さな部類に入るロードノイズなどを含め、静粛性そのものが極めて高いというのは、セダンでも感じられた新型A6に共通の好印象。とにもかくにも、「A6は、いつしか押しも押されもしない高級車になっていた」というのが偽りのない実感である。
特に敏しょうでスポーティーといったわけではないものの、一方で、ノーズの重さを意識させられたりすることもないハンドリングは、「セダンと変わるところはない」というのが率直な印象だ。
「1000万円を超えるのだからそれも当然」という意見は、確かに一理ある。しかし、それを承知の上でも「どこをとっても高価なだけのことはある」と、そうした意見にもまた大いに納得の、アウディ発最新ステーションワゴンなのである。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アウディA6アバント55 TFSIクワトロSライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1885×1475mm
ホイールベース:2925mm
車重:1950kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:340ps(250kW)/5200-6400rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1370-4500rpm
タイヤ:(前)245/45R19 102Y/(後)245/45R19 102Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:12.3km/リッター(JC08モード)
価格:1041万円/テスト車=1162円
オプション装備:オプションカラー<グレイシアホワイトメタリック>(9万円)/パワーアシストパッケージ<電動チルト/テレスコピックステアリングコラム+パワークロージングドア>(16万円)/リアコンフォートパッケージ<リアシートヒーター+4ゾーンオートマチックデラックスエアコンディショナー+リアドアウィンドウサンブラインド>(26万円)/Bang & Olufsen 3Dサウンドシステム(18万円)/アシスタンスパッケージ<フロントクロストラフィックアシスト+サラウンドビューカメラ+カーブストーンアシスト+リアサイドエアバッグ+アダプティブウィンドウワイパー>(14万円)/ドライビングパッケージ<ダイナミックオールホイールステアリング+ダンピングコントロールサスペンション+ダイナミックステアリング>(38万円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2318km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:208.8km
使用燃料:21.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.6km/リッター(満タン法)/8.8km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。