クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

第135回:「ほぼぶつからないクルマ」待望論

2019.06.11 カーマニア人間国宝への道 清水 草一

高齢者の運転は危険なのか

いまさらだが、高齢者の暴走事故が問題になりまくっている。これについて、高齢者予備軍である57歳のカーマニアとして、思うところを書かせていただきたい。

まず、昨今の報道によって、高齢者の運転が社会悪であるかのような認識が広がっている。かと思うと、「免許を手放したら生活できない地域もある」という、一種の擁護論もある。

大きな事故があった直後は、高齢者の運転を問題視する論調が激しくなり、しばらくすると擁護論が湧き上がるということを繰り返しているが、結局現実的な解決策は、ほとんど提示されないまま時が過ぎている。

まず、「高齢者の運転は危険」というのは本当だろうか。

確かに、全体の事故件数のうち、ペダルの踏み間違え事故が占める割合は、高齢者は他の年代の約3倍となっている。しかし、ドライバーあたりの事故率(すべての事故を含む)を比較すると、10代が他を引き離して圧倒的に高く、続いて20代。80代がそれに続く。

ペダル踏み間違えによって死傷者が出た事故は、2008年から2017年の10年間で6万件以上発生したが、こちらも年代別では10~20代が最も多くて1万6188人(26.9%)。次いで70歳以上の1万4623人(24.3%)なのだという。(神戸新聞2019年5月18日)

ただ、ペダルの踏み間違えによって死者が出た件数に関しては、例えば2015年の場合、全58件のうち、65歳以上が50件と大部分を占めていた(警察庁)。

理由として考えられるのは、高齢者の場合、ペダルを踏み間違えたことでパニックになり、そのまま踏み続けてしまうケースが多いから……と推測されている。

これはなんとかしなくてはならない。

筆者の現在の愛車「BMW 320d」には衝突回避・被害軽減ブレーキシステムが装備されている。(写真=池之平昌信)
筆者の現在の愛車「BMW 320d」には衝突回避・被害軽減ブレーキシステムが装備されている。(写真=池之平昌信)拡大
「BMW 320d」のフロントウィンドウ上部には単眼カメラが備わる。(写真=池之平昌信)
「BMW 320d」のフロントウィンドウ上部には単眼カメラが備わる。(写真=池之平昌信)拡大
全体の事故件数のうち、ペダルの踏み間違え事故が占める割合は、25~54歳と65~74歳との比較では後者が約2倍、75歳以上との比較では同約4倍となっている。(公益財団法人 交通事故総合分析センター ITARDA INFORMATION No.124より)
全体の事故件数のうち、ペダルの踏み間違え事故が占める割合は、25~54歳と65~74歳との比較では後者が約2倍、75歳以上との比較では同約4倍となっている。(公益財団法人 交通事故総合分析センター ITARDA INFORMATION No.124より)拡大

自分が加害者になるのだけは……

ただ、これだけをもってして、「高齢ドライバーは危険」と決め込むのは、それこそ危険だ。

別に、ペダル踏み間違えによる死亡事故が、他の死亡事故に比べて「悪」なわけではない。いうまでもなくすべての死亡事故、重大事故がイカンのですから。

で、全死亡事故に対する、75歳以上の高齢ドライバーが起こした割合はというと、2016年で全体の13.5%(459件)だった。この年、75歳以上の免許保有者は約500万人で、全免許保有人口の6%強となっていた。

つまり、75歳以上の高齢ドライバーが死亡事故を起こす確率は、平均の2倍強。高齢ドライバーの絶対数は年々増加しているので、高齢ドライバーによる事故件数は、ほうっておけば今後も増え続けるのは間違いない。

高齢者予備軍として、自分が加害者になるのはなんとしても避けたい。

で、どうするかですね。

まず、この問題を即座に解決する策はない。いや、例えば明日から「75歳以上の者は全員免許返上が義務!」とでもすれば、高齢ドライバーの事故はなくなるわけだが、死亡事故のリスクが2倍だからって、そんな乱暴なことができるはずがない。16~24歳のドライバーが死亡事故を起こすリスクも、75歳以上とほぼ同じ。だからって「若者は運転禁止」とするわけにはいかんでしょう。

ただ、若者は今後運転が上達していくのが自然だが、高齢者は今後運転能力が落ちていくのが自然。しかも、年齢が上がれば上がるほど落ちるはず。

となるとやっぱり、免許更新時の運転適性検査を、現状より何らかの形で厳しくするという方法以外、ないんじゃないか。

現在は免許更新時(71歳以上は3年ごと)の認知機能検査だけだが、75歳以上は更新期間を短くすることも必要かもしれない。1年ごとに更新が必要となれば、必ずしも生活にクルマが必要でなければ、更新が億劫(おっくう)だからもう免許はいらん、という人も増えるだろう。

警察庁が発表している「75歳以上の運転者による死亡事故件数及び割合(原付以上第1当事者)(平成18~28年)」。75歳以上の高齢ドライバーが起こした割合は、2016年で全体の13.5%(459件)だった。(内閣府ホームページより)
警察庁が発表している「75歳以上の運転者による死亡事故件数及び割合(原付以上第1当事者)(平成18~28年)」。75歳以上の高齢ドライバーが起こした割合は、2016年で全体の13.5%(459件)だった。(内閣府ホームページより)拡大
警察庁が発表している「75歳以上の運転免許保有者数の推移」では、高齢ドライバーの絶対数は年々増加していくと予想されている。(内閣府ホームページより)
警察庁が発表している「75歳以上の運転免許保有者数の推移」では、高齢ドライバーの絶対数は年々増加していくと予想されている。(内閣府ホームページより)拡大
警察庁が発表している「年齢層別免許人口10万人当たり死亡件数(原付以上第1当事者)(平成28年)」によれば、16~24歳のドライバーが死亡事故を起こすリスクも、75歳以上とほぼ同じであることがわかる。(内閣府ホームページより)
警察庁が発表している「年齢層別免許人口10万人当たり死亡件数(原付以上第1当事者)(平成28年)」によれば、16~24歳のドライバーが死亡事故を起こすリスクも、75歳以上とほぼ同じであることがわかる。(内閣府ホームページより)拡大

“ほぼぶつからない”を目指してほしい

もうひとつは、クルマ側の対策である。

現状でも、自動ブレーキなどの安全デバイスは、事故を減らすために確実に効果を上げている。

ただ、ドライバーがアクセルを踏んでいると、自動ブレーキはキャンセルされる。ドライバーが責任を負う以上、ドライバーの操作が優先されるようになっているのですね。

しかし、そろそろソレを見直す時ではないか。年々技術は進歩しているのだから、安全デバイスが「衝突の危険あり」と感知したら、ドライバーの操作(ペダル踏み間違えを含む)を無視して減速していいのではないか?

加えて、赤信号や一時停止標識を認識して、自動ブレーキをかけてもいいのではないか。これらは現状、国が認めていないわけですが、そろそろ認めてもいいんじゃないか。

ただし、クルマが目指すのは、自動運転である必要はない。私は、高齢者が自動運転を使いこなせるとは到底思えない。

現状、ACCを使いこなしている高齢者がどれくらいいるだろう。クルマに運転をゆだねるというのは、一部であっても勇気がいるものだし、完全自動運転でない限り、いざというときにスタンバイするのは、逆に高い技量がいる。

そして、混在交通の狭い路地などを考えると、完全自動運転の実現は不可能だ。できたとしても、とんでもないコストがかかる。

そうではなく、目指すべきは「ほぼぶつからないクルマ」ではないか。正確には、ぶつかりそうになったら、ほぼ衝突被害を軽減してくれるクルマですね。ボルボが目指している“Vision2020”そのものって感じですけど。

クルマが絶対助けてくれるのは絶対ムリだし、ドライバーにリスクを意識させる上でも「ほぼ」でいい。それで事故は激減するはずだ。

このふたつを組み合わせれば、20年後には、日本の年間交通事故死者は、1000人を切っているのではないか。その時私は77歳。もろもろの方策に助けられることで、自分もできるだけ長く運転したいと願っています。

(文=清水草一/写真=池之平昌信/編集=大沢 遼)

「日産リーフ」のエマージェンシーブレーキを体験中の筆者。(写真=池之平昌信)
「日産リーフ」のエマージェンシーブレーキを体験中の筆者。(写真=池之平昌信)拡大
「日産リーフ」は障害物の手前で十分な余裕を持って止まることができた。(写真=池之平昌信)
「日産リーフ」は障害物の手前で十分な余裕を持って止まることができた。(写真=池之平昌信)拡大
「トヨタ・プリウス」に搭載される「Toyota Safety Sense」は、単眼カメラとミリ波レーダーによって、クルマや歩行者、自転車運転者に対して衝突回避または被害軽減を行う。(写真=池之平昌信)
「トヨタ・プリウス」に搭載される「Toyota Safety Sense」は、単眼カメラとミリ波レーダーによって、クルマや歩行者、自転車運転者に対して衝突回避または被害軽減を行う。(写真=池之平昌信)拡大
ボルボは、2008年に「新しいボルボ車での交通事故による死亡者や重傷者を2020年までにゼロにする」というビジョンを発表している。(ボルボホームページより)
ボルボは、2008年に「新しいボルボ車での交通事故による死亡者や重傷者を2020年までにゼロにする」というビジョンを発表している。(ボルボホームページより)拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

この記事を読んだ人が他に読んだ記事
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。