第136回:われら教条主義者
2019.06.25 カーマニア人間国宝への道プジョー508が気になる!
カーマニア人間国宝を目指していながら、ここ2年間クルマも買わず、しかも趣味車の「フェラーリ328GTS」は、ここんとこほとんど「持ってるだけ」。もっぱらエリート特急こと「BMW 320d」(先代の激安中古車)で大満足しておりまして、人間国宝どころか完璧にフツーの人に成り下がっておりますが、最近は「もうフツーの人でイイ! フツーの人のシアワセなカーライフを探そう!」と開き直ってます。
で、先代BMW 320dオーナーとして、最近一番気になったクルマ。それは新型「3シリーズ」ではなく、「プジョー508」でした!
先代3シリーズは、最新の同クラス車と比べてやや重めのパワステに重厚感があり、それでいて切ればBMWらしくヒラリと曲がる、実に秀逸なデキのミドルセダンですが、新型3シリーズはパワステがグッと軽くなって、その重厚感がなくなった。その他はまぁ先代とそれほど大差ないので感動もなく、サイズが大きくなったのは逆にデメリット。
最大のプラスアルファは自動ブレーキやACCなどのドライビングアシスタンスの部分というのが率直な感想で、もう全然まったく欲しくない。もちろん新車でこのクラスのクルマを買う気はカケラもないですが。
ところが、プジョー508には大いに惹(ひ)かれた。508のキモは、羽毛のように軽い操作フィール! パワステなんかそれこそ小指一本で回せるくらい軽い! しかも例の小径楕円(だえん)ステアリングなので、そのライト感覚はわがエリート特急の対極にある。なにごとも対極って魅力的だよね!
508はカッコマン
508はカッコもステキだ。なにがステキって、どこか昭和っぽいカッコマンなカッコつけ感がイイのだ! フランスのカッコつけなので、アラン・ドロンの怪傑ゾロとかそんな感じですかね。
日本の中高年である私は、508を見て、19歳の時に親に買ってもらった「日産ガゼール」(S110系)を思い出し、目頭が熱くなりました。全然似てないんだけど、カッコつけ感がちょっと似てる。ちなみにガゼールは、『西部警察』で裕次郎が乗ってたハデなオープンモデルじゃなく、フツーの市販モデルをイメージしてください。
自分が乗ってたガゼールはノッチバックのほうだったけど、508はスポーティーなハッチバック。プジョーはファストバックと呼んでるが、その響きもどこか昭和っぽい。リアハッチを開けた時の姿なんか、昭和のファッション誌みたいで涙が出る。ゲートがスポーティーに寝た直線基調のハッチバック車って、いま、あんまりないでしょ? それだけでガゼールや「三菱ランサーセレステ」を思い出してしまう。古い……。
で、そのプジョー508のガソリンモデル(GTライン)を、1週間ほどお借りして乗ってみました。
これ、いいわ……。やっぱりイイ! 最大の魅力はこの微妙なカッコつけ感! フロントの頰ヒゲみたいなデイライトには、チャールズ・ブロンソン的なダンディズムを感じる。私も長年口ヒゲを生やしてるので、それだけで共感するものがある。
インテリアがまたダンディズム。センターディスプレイ前のピアノの鍵盤みたいなボタンを見ると、足でピアノを弾いていた『柔道一直線』の近藤正臣を思い出す。あのカッコつけ感っスよ!
スペックに縛られるな!
走れば、操作系のすべてがメチャ軽くて気持ちイ~! 先代BMW 3シリーズの適度に重いパワステも大好きだけど、この小径楕円ステアリングでクイクイ向きを変える感覚は、まったく別の魅力があって最高っす!
ちなみに、試乗車に1.6ターボのガソリンモデルを選んだのは、2リッターディーゼルより圧倒的に鼻先が軽いし、エンジンフィールも軽くてより「らしい」から。
このBMW系の1.6ターボ、かつて「シロトエンC5」で1年半ほど堪能しましたが、正直あの時はすぐに飽きた。ダウンサイジングターボは飽きる、つまらん! くらいに思ったけど、508のソレはパワーが180psに引き上げられており(C5は156ps)、フィーリングも断然軽やかかつスポーティー。低い回転でレスポンスのいいターボのトルクを生かして走るのも良し、ブチ回して最高出力をさく裂させるのも良し。どっちも適度に気持ち良くて、まさにブレッド&バターな快感! ちなみに燃費は下道や高速を適度に走ってリッター12kmくらいでした。
ところでこのクルマ、3シリーズとサイズ同じくらいだよね? と、最後にスペックを確認してビックリ。
全幅、1860mmもあったのか……。
新型3シリーズの全幅がついに1800mmを超え、1825mmになった、残念だ残念だと私どもカーマニアは叫んでおりますが、実際に508に乗っていて、3シリーズより取り回しが悪いと感じたシーンは皆無でした! 操作系が超カルカルな分、逆にラクチンなくらいで。
考えてみりゃ、これくらいの全幅はもう、日本でもフツーだもんね。なにせバカ売れ中の「RAV4」の全幅もこれくらいあるんだから。われらカーマニアが、いかにスペックに縛られた教条主義者であるかを自覚させていただきました。土下座。
(文=清水草一/写真=池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。