BMW X3 Mコンペティション(4WD/8AT)/X4 Mコンペティション(4WD/8AT)
これからのスポーツカー 2019.07.02 試乗記 「BMW X3/X4」では初となる、“M”印のハイパフォーマンスバージョン「X3 M/X4 M」。日本でのデリバリーを前にアメリカ国内で試乗した筆者は、その新開発エンジンの仕上がりや自由自在なハンドリングに驚かされることになった。このクラスでは初のM
右を見ても左を見ても、さまざまなサイズやカタチのSUVが幅を利かせているというのが、昨今の世界の光景だ。そうした中で、ことさら高い独立心ゆえか、はたまた元来備わる自尊心の強さからなのか、BMWはあえてSAV(Sport Activity Vehicle)もしくはSAC(Sport Activity Coupe)という独自の呼称を用いてSUVカテゴリーへのアプローチを行っている。
2代目モデルへと移行する時点で、従前のFRレイアウトベースからMINIシリーズ由来のFFレイアウトベースへとプラットフォームを大刷新した「X1」を底辺に、圧倒的なサイズと「BMW史上最大」をうたうキドニーグリルが何とも強烈な存在感を醸し出すシリーズの頂点「X7」に至るまで、車名の頭に“X”の文字が与えられたSAV/SACの商品群は、今や1から7までの番号が隙間なくそろうという水も漏らさぬ充実ぶりだ。
そうしたバリエーションの中堅どころを担うのが、2003年に初代モデルが発表されたX3と、そんなX3の2代目をベースに2014年に初代が誕生したX4という2つのモデル。
ここに紹介するのは、そうしたミドルレンジのSAV/SACに初めて設定された純粋なMモデルだ。もちろん、ここでの「純粋な」という表現は、単にボディーキットをまとったり、エンジンやサスペンションに専用チューニングが施されただけではなく、「M3」や「M4」、そして「M5」などと同様の、車両全体の開発をM社が手がけたコンプリートカーであることを示している。
すなわち、X3/X4シリーズのホッテストバージョンであり、「X5 M/X6 M」の“弟分”に相当するのがX3 M/X4 M。そしてその最大のトピックは、実は「完全なる新開発」といわれるその心臓部にこそあるのだ。
新たなM用エンジンを搭載
オリジナルのX3/X4に対して、ハイグロス仕上げのキドニーグリルやブラックの4本出しテールパイプ、さらには、さまざまな“Mデザインエレメンツ”が、独自の迫力を醸し出すのがX3 M/X4 Mの外観の特徴。そんな両モデルのフロントフード下に、「Mステップトロニック」という愛称が与えられた8段ステップATとの組み合わせで縦置き搭載されるのは、ツインターボ付き3リッター直6ユニットだ。
ただし、ここまでの情報で「あ、それってこれまでM3やM4に積まれてきたエンジンね」と早合点をするなかれ。実はX3 M/X4 Mに搭載される心臓は前述の通り、“オールニュー”とうたわれるアイテム。すなわち、この心臓は今後のMエンジンの主力ユニットでもあり、次期M3を筆頭にさまざまなMモデルへと展開されることが予想される。となれば、物理的には、それは鳴り物入りでデビューした新型「トヨタ・スープラ」にも搭載が可能なはず……と、あらぬ期待(?)も膨らむことになる。
ちなみに、「M2」やM5と同様にX3 M/X4 Mにも、ベーシック仕様に加えて、さらにパフォーマンスを向上させたエンジンを搭載し、よりエクスクルーシブな装備を採用した「コンペティション」仕様も設定される。本社の発表では「2019年8月にも導入の予定」とされる日本のマーケットに向けては、その双方が用意されるという。
ちなみに、今回アメリカで開催された国際試乗会でテストドライブを行ったのは、いずれもアメリカ向けのコンペティション仕様。一周が5kmを超える本格的なサーキットでのドライブには、見た目にもよりスポーティーなX4 Mコンペティションのみが供されることとなった。
感性に響くパワーユニット
まずは公道でのテストドライブに連れ出したのはX3 Mコンペティション。前述のようにMモデルならではの化粧が施されると同時に、21インチと大径なホイールのスポーク間からはドリルドディスクローターと存在感を主張するブルーのブレーキキャリパーが顔をのぞかせる。それが「ただ者でない走りのパフォーマンスの持ち主」であることは、見る人が見れば即座に認識できそうだ。
一方で、さしてクルマに興味がないという人からすれば、少々武骨なまでにボクシーなそのスタイリングに、「これも昨今流行のSUVの一種だな……」と、その程度のモデルと映る可能性も皆無とはいえない。現代版の“羊の皮をかぶったオオカミ”とでも紹介すればいいだろうか。
レザー張りのゴージャスな2トーンシートに身を委ね、ドライビングポジションを決めてエンジンスタート。と、その瞬間耳に届くのは、期待通りの迫力に満ちたサウンドだ。
軽くブリッピングを試みると、タコメーターの針が即座に跳ね上がり、例のエンジンサウンドも瞬時にその周波数を高める。この時点で、すでに新エンジンに対する好感度は一気に高まろうというものである。
そんな好印象はもちろん、実際に走り始めてからも揺らぐことはない。生粋のスポーツモデルではあるものの、スタートの瞬間の動きがごく滑らかなのは、ステップATを採用することによる美点のひとつのはず。一方で変速は素早く、アクセル操作に対するダイレクトな加速感はDCTに見劣りしない。これも、動力性能全般の印象を高める大きな要因になっていることは間違いない。
エンジンフィールはあくまで滑らかで、低回転域中心の街乗りシーンに限ってもトルク感は十分。それでいながら、せいぜい4000rpm程度までしか用いる機会のない公道上の走りでも、回転上昇に伴うパワーやサウンドの盛り上がり感がきちんと演出されているあたりは、“Mエンジン”ならではの実に秀逸な仕上がりだ。
見た目に反して快適
しかし、そんなこのモデルの走りで感心至極だったのは、いわば期待通りでもあった動力性能面よりも、実は「期待と予想を大きく超えた」といえるボディーやシャシーの造りのよさにあった。
X3 M/X4 Mで走り始めると同時に感じられた、ベースモデルのX3/X4とは明らかに次元の異なるボディーの剛性感は、実はきちんとした理由があって得られたものだ。エンジンルーム内のバルクヘッドやストラットタワー周り、そしてリアアクスル付近を中心に、数多くの“専用の補強”が加えられているのだ。これが、まるで金属の塊からボディーを削り出したかのような、剛性感の源泉になっているに違いない。
もちろん、電子制御式可変減衰力ダンパーの標準採用など、シャシーやサスペンションセッティングの効用も大きいと思われるが、思いのほかしなやかな乗り味が実現されていた背景には、振動を瞬時に減衰させてしまうこの強靱(きょうじん)なボディーのポテンシャルが大きく効いていると実感できた。
加えれば、ファットな21インチのシューズを履いているとは思えない、ばね下の素直な動きも、そんな優れた快適性の実現に大いに貢献している。同じく、そんなシューズを履いているとは信じられないほどロードノイズが小さいことや、どのような場面でも思いのほか静粛性が高かったことも、望外に高い快適性を実感させてくれる、大きな要因となっていたことを付け加えたい。
と、そんな爽快な公道上の乗り味も見ものではあったX3 M/X4 Mだが、このモデルの真骨頂は、やはりサーキットにおける全開走行でこそ味わえた。
ハンドリングは自由自在
1リッター当たり出力が170ps超! とすこぶるハイチューンでありながら、街乗りシーンでもフレキシブルな特性を証明してくれた心臓は、性能を開放できる舞台を与えられ、いよいよそのポテンシャルをフルに発揮した。排気系やソフトウエアのチューニングによって、標準仕様を30ps上回る最高出力510psを発生する6250rpmまでよどみなく回ることはもちろん、それを軽々と飛び越え7200rpmに設定されたレッドラインまで、官能的なサウンドとともに吹け上がってくれる。これはスポーツ派のドライバーにとってはまさにたまらない瞬間だ。
燃費にも排ガスにもことのほか厳しい規制が掛けられつつあるこんなご時世ではありながらも、「とにかく、従来型を上回るパフォーマンスを発揮することを第一に考えて開発した」という、うれしいコメントも聞かれた。そして新しい心臓に加えて、このモデルの“Fun to Drive”を加速させてくれたのが、リアに駆動力のバイアスが掛けられたM5譲りの4WDシステムがもたらす、自由自在なハンドリングの感覚だった。
さすがにM5のような完全なる“後輪駆動モード”までは備えていないものの、2速あるいは3速ギアでターンをするコーナーでは、その立ち上がりで意を決してアクセルペダルを深く踏み込むことによって、明確に“テールハッピー”なファイティングポーズをとろうとする。特に、スタビリティーコントロールの効きが抑制されるスポーツプラスのドライビングモードを選択した場合には、そんなドリフト姿勢を次のストレートが始まるまで維持していくことすら可能なのだ。
そんなダイナミックな走りのキャラクターの持ち主ゆえ、これはもう完全に「こうしたスタイリングのスポーツカー」という印象で、基本的にスタイルのみ異なるという関係のX3 MとX4 Mとで、その走りのテイストに異なる感覚は事実上皆無だった。となると、「見た目と走りのポテンシャルが一致しない」という意外性で、より強い個性が感じられたのは、前述の通りスタイリングの上でスポーティーな演出が抑えられているX3 Mの方だ。
それにしても、「これまでサーキットで得られた知見をフルに活用し、冷却や潤滑の点で、連続的に限界走行を行っても音を上げることのない性能を意識した」という新開発の本格的スポーツエンジンが、クーペやセダンではなくまずはSUVのカテゴリーから初搭載されるとは、時代も変わったものだ。
同時に、より小さなキャパシティーからはるかに大きな出力を発する心臓を手に入れたことで、「ポルシェ・マカン」対策、ここに極まれり! というフレーズも脳裏をよぎる。ミュンヘン発の、ニューウェポンの登場である。
(文=河村康彦/写真=BMW/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
BMW X3 Mコンペティション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4726×1897×1669mm
ホイールベース:2864mm
車重:1970kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510ps(375kW)/6250rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/2600-5950rpm
タイヤ:(前)255/40ZR21 102Y/(後)265/40R21 105Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4S)
燃費:10.5リッター/100km(約9.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:1368万円/テスト車=--円
オプション装備:
※価格は日本仕様のもの。
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
BMW X4 Mコンペティション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4758×1927×1620mm
ホイールベース:2864mm
車重:1970kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510ps(375kW)/6250rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/2600-5950rpm
タイヤ:(前)255/40ZR21 102Y/(後)265/40R21 105Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4S)
燃費:10.5リッター/100km(約9.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:1399万円/テスト車=--円
オプション装備:
※価格は日本仕様のもの。
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードおよびトラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。