ボルボV60 T6 Twin Engine AWDインスクリプション(4WD/8AT)
縦横無尽のプレミアムワゴン 2019.08.14 試乗記 ガソリンモデルから遅れること数カ月。ボルボの主力モデル「V60」のプラグインハイブリッド車(PHV)がデビューした。ボルボの金看板ともいえるステーションワゴンと電動パワートレインとのマッチングを試す。気を使わずに取り回せる上限サイズ
現行のV60は2018年9月に日本で発売された。左右それぞれに横倒しになった「T」の字をあしらったヘッドランプユニットは、TT兄弟を思わせないでもないが、よく目立ち、見る者に「新しいボルボがやってきた」と認識させるのに十分だ。ボルボがトールハンマーと呼ぶこのモチーフは、デイタイムランニングライトとして常時点灯し、右左折する際にはこれ自体がターンシグナルとなってオレンジ色に変わって点滅する。その真ん中にあるフロントグリルは「XC」モデルの場合には凸型なのに対し、「V」モデルは凹型のいわゆるコンケーブデザインとなる。「クロスカントリー」はドットタイプだ。
フラッグシップの「90」シリーズに続いて登場した「60」シリーズは世界の多くの市場で主力となるサイズだ。日本では“オワコン”と言われるワゴンだが、昔からワゴンのつくり方、売り方がうまかったボルボは別で、SUVと人気を二分しながら今もSUV大国かつミニバン天国の日本で、堂々とワゴンで商売ができている。
ボルボ・カー・ジャパンが言うには、新しいV60は日本市場に配慮し、全幅が1850mmに抑えられている。道路の狭い各国で言っているのではないか!? というのは冗談。仮にそうだとしてもわが国で使いやすいことに違いはない。素直にうれしいじゃないか。“何がなんでも5ナンバー”と呪文のように叫ぶ人まで満足させることはできないが、全長4760mm×全幅1850mmというパッケージは、実際に街中を走らせてみて、またいくつかの駐車枠に収めてみて、気を使うことなく取り回すことができる上限サイズに収まっているなと感じた。
とはいうものの、「アウディA4アバント」が全長4750~4755mmで全幅1840mm、「メルセデス・ベンツCクラス ステーションワゴン」が全長4705mmで全幅1810mm、「フォルクスワーゲン・パサートヴァリアント」が全長4775mmで全幅1830mmだから、実はV60の1850mmという数値はライバルに比べて小さいわけではない。にもかかわらずボルボがわざわざリリースに「日本市場に配慮し……」とアピールするのは、先代V60に比べて15mmナローに仕上がっているからだ。
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V60にはディーゼルなし
それにしても端正なシルエットをもつワゴンだ。フロントオーバーハングが短く、前輪とバルクヘッドの距離が長く、ロングホイールベース。まるでエンジン縦置きモデルのようなデザインだが、実際には横置き。V90がリアウィンドウを寝かせたスタイリングなのに対し、V60は限られた寸法で荷室容量を稼ぐ必要があるため、これが立っている。流麗さを重視した先代に比べるとボクシーで、ボルボのワゴンが帰ってきたという印象を受ける。またその形状のおかげでラゲッジ容量は先代の430リッターから大幅増大の529リッターとなった。
V60には、2リッター直4ターボエンジンの「T5」に加え、いずれも2リッター直4ターボ+スーパーチャージャー+電気モーターのPHVながらエンジン出力が異なる「T6」「T8」の、計3種類のパワートレインが設定される。ややこしいことに90シリーズにはPHVではなくIC(内燃機関)のみのT6もある。ボルボは2015年に日本でディーゼルモデルを幅広く展開したブランドだが、V60にはガソリンモデルしかない。前々から同社が打ち出した方針に従い、90シリーズや「XC60」に設定されるディーゼルはこの先も設定されない。残念だが、その選択と集中っぷりは潔くもある。
今回試乗したのはT6。最高出力253ps/5500rpm、最大トルク350Nm/1700-5000rpmを発するエンジンを、必要に応じて同87ps、同240Nmのリアモーターが加勢する。フロントにも回生などに用いるモーターが備わる。モーターの電力を出し入れするリチウムイオンバッテリー容量は30Ah(10.8kWh)。WLTCモードでの燃費は12.3km/リッターで、同モードでの一充電あたりのEV走行可能距離は45.1kmだ。乗ったのはこのスペックだが、これから注文して届くモデルはバッテリー容量が34Ah(12.2kWh)に変更されていて、同モード燃費は13.7km/リッター、EV走行可能距離は48.2kmに向上しているようだ。なお動力性能には影響しないもよう。
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操作系に対する不満は1つのみ
ウッドとクローム、レザーが最適配置された質感の高いインテリアを視覚、触覚で楽しみながら運転開始。走行用バッテリーにはそこそこ残量があったため、エンジンは始動せず、モーターのみで静々と走らせることができた。一般道をジェントルに走行する限り、モーター走行で事足りる。ピュアモードでは可能な限りモーター走行を続けるほか、なるべく電気を食わぬようエアコンを最適化する(要するに効きを弱める)。ハイブリッドモードはモーターとエンジンのベストミックスによって効率を最大化する。パワーモードもあって、これはエンジンもモーターも積極的に稼働する最もパワフルな状態。
モードによってしきい値に差はあれど、強い加速を求めてアクセルペダルを速く深く踏み込むとエンジンが始動する。その際の音と振動ははっきり認識できるが、不快な印象はない。面白いのは、Dレンジで走行中、ATシフターを一度手前に引くと回生ブレーキが強まるBモードとなるのだが、さらに引くと今度はATがマニュアル変速に切り替わり、引く度にギアが下がる。マニュアルでギアを上げることはできない。なぜなら実用上不要だから。上手な割り切りだなと思う。
ブレーキの利き自体に不満はないが、ブレーキペダルの感触がスポンジーなのは残念だ。ボルボのみならず世の中の多くのICモデルは、ブレーキペダルを踏むと途中からぐっと踏み応えが増し、ストロークも体感で3~4cmと短いが、T6の場合、踏み応えがほとんど変わらぬまま結構奥までいってしまう。モーターによる回生ブレーキの機能が備わるクルマはこうでありがち。乗っているうちに慣れるといえばその通りだが、日常的に別のクルマも運転する場合、毎回違和感と付き合うことになるかもしれない。これが操作系に対する唯一の不満だ。
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横置きプレミアムのダントツ成功例
路面状態やスピードを問わず、乗り心地はおおむね悪くない。不整路面や大きなうねりを走行する際にはボディー剛性が高いことを感じさせ、サスペンションはしなやか。プレミアムカーの水準を十分クリアしている。今回は山道でペースを上げる走りを試していないが、重量物であるリチウムイオンバッテリーが左右乗員の間の低い位置に置かれているせいで重心の低さを感じさせる挙動に終始する。その代わりコンソールボックスが非常に浅く、後席中央のフロアが大きく盛り上がっている。
V60が属するDセグメントの、プレミアム輸入ワゴンの日本における販売台数シェアを見ると、V60(「クロスカントリー」含む)が26%、アウディA4アバントが16%、モデル末期の「BMW 3シリーズ ツーリング」が10%。これらの各モデルが、47%というお化けシェアを誇るCクラスのワゴンに挑む図式だ(2019年1~5月。ボルボ調べ)。全体の販売台数ではBMWやアウディのほうがボルボよりも多いが、Dセグワゴンではボルボがその2ブランドを上回っている。ボルボワゴンの面目躍如といったところか。
ライバルの3モデルはいずれもかつて高級車の条件であったエンジン縦置きレイアウトなのに対し、V60はエンジン横置き。けれども今やそのネガはない。「縦置きじゃなきゃ」とこだわるのが恥ずかしいほどによくできている。スタイリングがよく、質感が高く、先進的で、安全性の高さは折り紙付き。価格は高いが手放すときも高い。ボルボは“横置きプレミアムのダントツ成功例”として歴史に名を刻んだと思う。
(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ボルボV60 T6 Twin Engine AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4760×1850×1435mm
ホイールベース:2780mm
車重:2050kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:253ps(186kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1700-5000rpm
フロントモーター最高出力:46ps(34kW)/2500rpm
フロントモーター最大トルク:160Nm(16.3kgm)/0-2500rpm
リアモーター最高出力:87ps(65kW)/7000rpm
リアモーター最大トルク:240Nm(24.5kgm)/0-3000rpm
システム最高出力:340ps
タイヤ:(前)235/40R19 96W XL/(後)235/40R19 96W XL(コンチネンタル・プレミアムコンタクト6)
ハイブリッド燃料消費率:12.3km/リッター(WLTCモード)
価格:749万円/テスト車=799万3000円
オプション装備:ボディーカラー<ペブルグレーメタリック>(8万3000円)/アルミホイール<19インチ 5ダブルスポーク 8.0J×19 ダイヤモンドカット/ブラック>(10万円)/Bowers & Wilkinsプレミアムサウンド・オーディオシステム<1100W、15スピーカー>サブウーファー付き(32万円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1937.0km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:275.1km
使用燃料:36.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.7km/リッター(満タン法)/8.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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塩見 智
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