ハスクバーナ・スヴァルトピレン701(MR/6MT)
アドレナリン足りてる? 2019.09.02 試乗記 スウェーデン発祥のバイクメーカー ハスクバーナから、ニューモデル「スヴァルトピレン701」が登場。スリムで軽量なボディーに、パワフルな693ccの水冷単気筒エンジンを搭載したロードモデルは、とにもかくにも走りが楽しいマシンに仕上がっていた。“弟分”とは全然違う
ハスクバーナはスウェーデンで17世紀に誕生したメーカーだ。1903年から二輪の製造をスタートし、モトクロスやエンデューロでは何度もチャンピオンに輝いている。いつの時代も他にはない個性的なバイクをつくり出そうとする。時に偏屈ともいえるようなマシンづくりをするところが好きで、自分でも過去に2台ほどハスクバーナを所有していたことがある。現在はKTMの傘下で競技にも即出場できる高性能なオフロードバイクを中心にラインナップしている。そんなハスクバーナがつくり上げたストリートマシンが「スヴァルトビレン」だ。
以前乗ったスヴァルトピレンの「401」(エンジンが373cc)は、個性的なハンドリングのマシンだった。軽くて重心が高い車体に17インチホイールを装着しているから、クイックなハンドリングになりそうなのだが、トレール(バイクのハンドリングを左右する数値)を大きく取っているような感じで、フロントタイヤの直進性がとても高くなっていた。
今回のスヴァルトピレン701も同じようなフィーリングなのかなと思っていたら、これがびっくりするくらい違っていた。
どんな時も真っすぐ進もうとしていたフロントタイヤの直進性の強さは影を潜めていた。バイクが鋭く軽快にバンクして、それにフロントタイヤが遅れず追従。スッと内側に切れてバイクがバランスして旋回していく。そのフロントの動きがとても自然。しかも低速から高速まで全くクセもない。
前のめりなアナタにお薦め
実は401と701、デザインは似ているけれどまったくの別物。フレームも違うし足まわりはフルアジャスタブル。ホイールも401のようなスポークではなく、キャストになっている。
「KTM 690」用をベースとしたエンジンは、量産車用シングルの最高傑作だ。誕生してから20年近くになるけれど、改良が加えられ、魅力がまったく色あせていない。75PSというパワー、高回転の伸び、振動の少なさ、レスポンスの鋭さなど、どれを取っても今まであったシングルエンジンの常識を超えている。特にスロットルを開けた時のレスポンスの鋭さは、レーシングマシン並み。全域で素晴らしいトルクを発生するため、クルーズ状態から加速に移る時もマルチのように回転が上がるのを待つ必要はない。スロットルを全開にすれば、158.5kgの車体は瞬時に全力加速態勢に入る。
元気に走りたいライダーからすると、このエンジンとハンドリングの組み合わせによる楽しさは反則レベル。タイトなコーナーの進入で一気にバンクさせ、立ち上がりでスロットルを大きく開けると、フロントを浮かせながら勢いよく加速していく(トラクションコントロールが利くから過度にフロントが浮くことはない)。クロスしたトランスミッションとアップ、ダウンの両方で作動するイージーシフトを駆使しながらの加速は痛快だ。
![]() |
![]() |
![]() |
元気に走りたくなる
ただ、こういう性格のエンジンだから、回転を上げず、トコトコとノンビリ走るというのはあまり得意ではない。低速で走ってもギクシャクするようなことはないし、ライド・バイ・ワイヤのおかげでエンジンが過敏に反応することもないのだが、どうしても元気よく走りたくなってしまう。
もし、スヴァルトピレンのデザインが好きで、もう少しおとなしいものが欲しいというのであれば、401を選べばいい。あちらも十分すぎるくらいに速いけれど、排気量が小さい分、気楽に扱うことができる。落ち着いて走りたいライダーには、フロントの安定感もプラス要因になることだろう。
スヴァルトピレン701は、刺激的で元気なバイクだ。マシンと対話するように操る楽しさがある。スポーツバイクで同じような楽しさを味わおうとすると、とんでもない領域にいかなければならないのだが、スヴァルトピレンはそれが低い速度、日常的な走り方の中でも楽しめたりする。そして乗りこなすことができたら、そこには無上の喜びがあるはずだ。
(文=後藤 武/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1436mm
シート高:835mm
重量:158.5kg(燃料を除く)
エンジン:693cc 水冷4ストローク単気筒 OHC 4バルブ
最高出力:75PS(55kW)/8500rpm
最大トルク:72N・m(7.3kgf・m)/6750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:135万5000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。