メルセデスAMG GT63 S 4MATIC+(4WD/9AT)
世に放たれたモンスター 2019.09.03 試乗記 2ドアクーペに続く、メルセデスAMGの独自開発モデル「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」に公道で試乗。5mを超える大柄なボディーに、最高出力639PSの4リッターV8ツインターボを搭載した高性能4ドアモデルは、どんな走りを見せるのか。その出来栄えを確かめた。ただならぬオーラ
何もこんなタイミングで……と、どことなく微妙な気持ちを抱えていたのは、日本中が“高級外車”だとか“あおり運転”だとか、そういう言葉に沸き立っている真っ最中だったからだ。それが理由かどうかは分からないけど、車間をツメツメに詰めるような走り方なんて断じてしてないのに、前を走っていたクルマは「お先にどーぞ!」とばかりにスッと避けてくれる。
そのままバシューン! と抜き去るわけにもいかず、続いて僕も走行車線に戻る。前を走っていたクルマはしばらく様子をうかがうそぶりだったが、こちらが普通に走っているだけだという確信を得られたのか、追い越し車線に出ると一気に速度を上げて逃げるみたいに遠ざかっていく。そんなことの繰り返しだ。……なぜ?
考えるまでもない。そのときステアリングを握っていたクルマが、ただならぬオーラを発していたからだ。確かに真横辺りから見たらきれいなフォルムを描いているけれど、前のクルマのミラーに映るのは、精悍(せいかん)と表現するにはあまりにも迫力たっぷりの引き締まった顔と、その中央にある威光に満ちたスリーポインテッドスターである。おまけに車体は不思議な光のはね返し方をする、マットなのに鮮やかなブルー。嫌でも目立つ。
羨望(せんぼう)の裏には嫉妬があって、嫉妬は憎しみに育つこともあるわけで……。このクルマが静止状態から3.2秒で100km/hまで達する加速力を誇り、そのままアクセルペダルを踏み続ければ315km/hの世界へと連れていってくれる実力の持ち主であることは承知だが、人生、何かを諦めなきゃならないときがある。
僕はアクティブディスタンスアシスト・ディストロニックを制限速度にピタリと合わせ、アクティブステアリングアシストも作動させて、目的地まで半ばクルマ任せでゆったりクルージングしようと決め込んだ。
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優れた巡行快適性
アクティブディスタンスアシストもアクティブステアリングアシストも、かなりよくできている。勝手にやってくれる加速も減速もスムーズだし、車線に沿ってステアリングを調整しようとするときの反力も思いのほか自然で、違和感がほとんどない。それにこの乗り心地のよさだ。シートが巧みに体を支えてくれることもあるのだが、何よりマルチチャンバー付きのエアサスペンションは、ドライブモードを“コンフォート”にしてさえおけば、何ひとつ気持ちに引っ掛かるものなどない快適至極な世界を提供してくれる。
エンジンもこうした巡航時だって余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)、どんなシチュエーションに遭遇しても力不足を感じることはない。そういう意味では抜群に優れたGT=グランツーリスモであることに疑う余地はない。
そう、このクルマはGTなのだ。メルセデスAMG GT63 S 4MATIC+。AMG GTのラインナップの一台にして、4枚以上のドアを持つメルセデスと名のついたクルマの最も高性能なモデルなのである。AMG GTと聞けば長いノーズにいかにもスポーツカー然とした短いテールが特徴的な2シーターのクーペを思い浮かべる人がほとんどだろうが、こちらは家族でドライブにだっていける5ドアのクーペだ。
その基本構造も2ドアクーペとは異なり、アルミ製のスペースフレームを使っているわけでもなければトランスアクスルが採用されているわけでもない。ガセットやクロスメンバーが追加され、フロアの一部にカーボンを採用するなど強化は加えられているが、プラットフォームは「CLS」のモノをベースにしている。
パワーユニットも同様で、同じ3982ccのV8ツインターボではあるものの、2ドアのAMG GTがM178型を採用しているのに対して、こちらは他のメルセデスAMGが搭載しているM177型だ。
確かにルックスとしての存在感は抜群というか強烈なほどだし、エンジンのスペックに至っては2ドアクーペのどのAMG GTよりも段違いに強力だけれど、でもそれなら車名は“メルセデスAMG CLS GT S63 4MATIC+”の方がふさわしいんじゃないの? と思っていた──実力の片りんに触れるまでは。
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どこまでも気持ちよく曲がる
全長×全幅×全高=5050×1955×1445mm、ホイールベース=2950mm。車重は2170kg。そうした大柄なサイズのクルマで峠道に滑り込むときに、あまり過大な期待を抱いたりすることはない。
そして、こういうときの決まり文句として次には“ところが”と続くものだけど、このクルマの“ところが”はこれまで体験した中で最上級に属するものだった。ドライブモードを“スポーツ”へ、そして“スポーツ+”へと段階的に切り替えてペースを上げていってみると、車体がまるでひとまわりどころかふたまわりも小さなクルマであるかのように感じられるほどだったのだ。
加速の強力さについては、最高出力639PS/5500-6500rpmに最大トルク900N・m/2500-4500rpmという数値からも想像がつくだろう。甘美というよりはハッキリとドスの利いたサウンドを素早く勇ましく高めながら、絶え間なくドライバーの体をシートにめり込ませる爆発力は、スーパーカーなどに慣れた身には心躍るような気持ちのいいものだし、逆に慣れてない人には気持ち悪さを感じさせるかもしれない。楽しいと感じるか怖いと感じるか、どちらか。この速さに不足を感じる人がいるなら、それはもう感覚が狂っているとしかいいようがない。
けれど、感銘を受けたのはそこではなかった。何しろ大柄で、間違っても軽いとはいえない車体が、どこまでも気持ちよく曲がってくれるのだ。コーナーの入り口ではクルマは俊敏に向きを変え、ノーズがグイグイと内側に入っていく。といって、2ドアクーペのAMG GTに初めて乗ったときに感じたイン側に突き刺さるかと思えるほどの鋭さはなく、その様子は驚くほど自然。コーナリング中は気持ちよくニュートラルで、脱出時にわずかに前輪がクルマを引っ張っていくような気配を感じさせることがあったのはドライバーの気持ちがやや先走ったからなのかもしれないが、かといってアンダーステアのようなものは全く感じさせることなく、自然なラインにのって絶大な力を路面に伝えながら前へ前へと進んでいく。
裏方に徹するハイテク装備
コーナリングスピードはクラクラしそうなほど速いのだけど、操作に対して素直に的確に曲がってくれる、意図したとおりに動いてくれる、という印象がとにかく強いのだ。それにステアリングの操舵感は徹頭徹尾濃厚だし重さも一定で、それも含めてクルマがどういう状況にあるのかを冗舌に伝えてくれるから、不安感なしに走らせていられる。
加えるなら、ルートの途中に中高速のコーナーの途中に大きなうねりが連続する箇所があって、しつけの悪いクルマだとそこで進路が乱れたり飛ぶような動きを見せることもあるのだが、このクルマは4つのサスペンションを大きく伸び縮みさせながらタイヤを路面にグイグイと押し付けて、何もなかったかのように通り過ぎていった。とんでもない安心感である。
前後50:50から0:100まで自動的に駆動力コントロールをする4WDシステム、100km/hまでは前輪と逆側に1.3度まで操舵し、それを超えると前輪と同じ方向に0.5度まで操舵する4WSシステム、電子制御LSD、アクティブエアロダイナミクス、それに可変ギアレシオのステアリング、マルチチャンバー付きのエアサスペンションや連続可変ダンピングシステムなどなど、AMGの開発陣はそうした最新テクノロジーを出し惜しみなく集結させ、それを巧みに調律し、ちょっと現実離れしたパフォーマンスを見事カタチにした。しかも、だ。それらデバイスは裏方に徹し、ドライバーが感知できそうにない水準にある。“乗らされてる感”など全くないくらいに洗練されているのだ。
ふと気がついた。AMG GTというのは単に車種を指し示すものではなく、クルマによって表現された“AMG独自の世界観”のことなんじゃないか? と。だとしたら、この4枚のドアを持った大型モデルは、紛れもなくAMG GTである。
個人的にはもう少し穏やかで落ち着いた感じのルックスであるといいのに……とは思うけど、何ともものすごいクルマができちゃったものだ、と身震いしそうになるほどの気分だ。
(文=嶋田智之/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデスAMG GT63 S 4MATIC+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5050×1955×1445mm
ホイールベース:2950mm
車重:2170kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:639PS(470kW)/5500-6500rpm
最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)265/40ZR20 105Y/(後)295/35ZR20 104Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4S)
燃費:7.7km/リッター(WLTCモード)
価格:2353万円/テスト車=2450万6000円
オプション装備:フルレザー仕様(4万5000円)/Burmesterハイエンド3Dオーディオパッケージ(59万円)/マットペイント<ブリリアントブルーマグノ>(20万1000円)/AMGフロアマットプレミアム(14万円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1740km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:272.6km
使用燃料:49.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.5km/リッター(満タン法)/5.3km/リッター(車載燃費計計測値)

嶋田 智之
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