海外のとはこんなに違う! 新型「カローラ」に見られる“驚異の工夫”とは?
2019.09.20 デイリーコラム満を持しての世界統一
現在の「カローラ スポーツ」が発売された2018年6月当時、そのチーフエンジニアだった小西良樹氏は「今度のカローラは、世界でひとつのカローラです」と語っていた。
カローラは約50年間ずっと世界ベストセラーの座をうかがい続けてきた超定番商品だが、仕向け地ごとに細かくつくり分ける“地域最適化”が、他銘柄に対する大きな強みでもあった。ただ、ここ数世代はそれが先鋭化しすぎて、先代ではプラットフォームが世界で3種類も存在するまで膨れ上がってしまっていた。プラットフォームがちがえば、もはや別のクルマである。とある調査では2017年にもカローラが世界ベストセラーとなったが、先代のような状況では「名前だけでしょ?」とツッコまれたら反論しづらかったのも事実だ。
というわけで、とっ散らかってしまって必要以上にコストもかさむようになっていたカローラの“世界(再)統一”が、通算13代目となる新型カローラ最大の任務であり、それが冒頭の小西氏の弁が意味するところである。ちなみに、先代まで日欧で「オーリス」だったカローラのハッチバックも、日本に続いて欧州でもカローラに回帰。これでセダン、ステーションワゴン(以下ワゴン)、ハッチバックの3種が世界中で等しくカローラを名乗ることになった。
日本のカローラだけが違う!?
実際、今回国内発売された新型カローラのセダンとワゴンもご覧のように、内外装の基本意匠は新しい世界統一デザインの路線上にある。その車体サイズも事前情報でも語られていたとおり、国内向けカローラセダン/ワゴンとしては史上初の3ナンバーとなり、2018年10月のパリサロンで初公開された欧州向けワゴンや同11月に広州モーターショーで公開された海外向けセダンと、写真では当たり前だが同じクルマに見える。……のだが、それは巧妙なデザイン処理による錯覚だ。日本のカローラセダン/ワゴンは3ナンバーに脱皮しつつも、ボディー本体は今回も日本専用なのだ。この点をいい当てた事前スクープはほとんどなかった。
日本向けの新型カローラはハッチバックも含めて全車形でホイールベースが2640mmだが、それは日本だけの特例。海外向けセダン/ワゴンのそれはハッチバックより長い2700mmである。日本仕様はさらにリアオーバーハングも削られており、4.5mをわずかに切る全長は海外向けより85~95mmも短い。それだけではない。フェンダーやドア、ルーフ、サイドパネルなどを日本専用とした全幅も、海外向け比で35~45mmナローな1740mm。つまり、日本のカローラの車体はハッチバックのカローラ スポーツのみが世界統一サイズで、セダンとワゴンは日本専用ということである。
この“全長4.5m未満×全幅1.74m”というサイズは、2009年から2015年にかけてバカ売れして“平成の国民車”となった3代目「プリウス」を参考に弾き出された数値という。新型カローラが世界統一で土台とする「GA-Cプラットフォーム」ではさすがに5ナンバー化は無理だそうだが、担当技術者によると「3代目プリウスはカローラからの乗り換えも大量に発生しました。その3代目プリウスのサイズまでなら日本での使い勝手には問題ないと証明されたということでもあります」との判断らしい。それにとどまらず、ドアミラー位置も独自に工夫することで、日本人の駐車スタイルである“ドアミラー格納状態”での車幅を5ナンバーだった先代と同等までせばめた。
なんだかんだで顧客第一
新型カローラの日本専用の工夫はまだある。5.0mという最小回転半径も先代同等なら、ドアの開口角度や厚みも独自の設計として“乗降時のドア開け幅”も先代と変わりないレベルにまで切り詰めている。これらによって「たしかに3ナンバーにはなりましたが、実質的な取り回し性やせまい場所での使い勝手は、先代にあたる『カローラアクシオ』『カローラフィールダー』と変わりありません!」というのが担当技術者の主張である。しかも「それでも5ナンバーじゃないとNG」という頑固者(もしくは自宅駐車場が物理的にギリギリ)の顧客のために、しばらくは従来型も併売するというのだから、これはもう涙ぐましい努力というほかない。
今回“TNGA”なる大方針のもとに世界再統一を目指したカローラだが、今回の日本仕様も結局は見た目以上に凝りに凝った日本専用モデルだ。考えてみれば、中国カローラのインフォテインメントには笑ってしまうほど巨大な縦型ディスプレイも用意されているし、日本以外でカローラのワゴンを売るのは欧州市場のみなので、欧州向けカローラワゴンもまた、じつは欧州“専用”のカローラなのだ。
カローラはひとつ……世界再統一……とかいっても、カローラはやっぱり、世界のお客さまのご都合に合わせた“地域最適化”が生命線ということだ。こういうクルマづくりは世界的に少数派になりつつあるが、いかにも日本製品らしい細やかな気配りをいまだに守るカローラは、日本人としては素直に、ちょっと誇らしくもある。
(文=佐野弘宗/写真=webCG/編集=関 顕也)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか? 2025.10.10 満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。
-
NEW
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】
2025.10.18試乗記「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。 -
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。 -
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか?
2025.10.16デイリーコラム季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。