トヨタGRカローラRZ(4WD/6MT)
懐かしのファントゥドライブ 2023.03.02 試乗記 ボディーもパワートレインも専用仕立て……なのだが、「GRカローラ」を走らせてみると、どこか懐かしい感じがする。何かが突出しているわけではなく、すべての要素が高バランス。この味わいはまぎれもなくカローラだ。ただし、その速さはとんでもない。昭和世代のクルマ好きに刺さるデザイン
夜明け前の薄暗い道路の脇に小さく喉を鳴らしながら野獣がうずくまっていた……的な情景を思い浮かべながら待ち合わせの場所に赴くと、白いボディーカラー(プラチナホワイトパールマイカ)のせいだろうか。意外にも(!?)爽やかな雰囲気で、「トヨタGRカローラRZ」がこちらにお尻を向けて止まっていた。
リアバンパー下部の大げさなディフューザーと3本出しマフラーが初見の者には奇異な印象を与えるが、センターのそれは、304PSにまでチューンされた1.6リッター3気筒ターボの性能を引き出すべく、回転数に応じて開閉するバルブを備えた機能部品。見かけのインパクトを狙っただけではない。
同様に、フロントバンパーやボンネット、大きく左右に張り出したフロントフェンダー後部などに設けられたエアアウトレットやインレットには、機能性を誇示するかのように実際に穴が開けられている。
言うまでもなくGRカローラは、5ドアハッチの「カローラ スポーツ」にビタミン剤とプロテインをふんだんに与え、ノスタルジーのスパイスを効かせてマッチョに仕上げたスーパーカローラである。いささか政治ショーの色彩が強いとはいえ内燃機関の禁止が取り沙汰される今日このごろ、そのトレンドに背を向けるかのように「高性能=たくさん熱が出る」を視覚化したデザインをまとった外観は、ことに昭和世代のクルマ好きには刺さるんじゃないでしょうか。ワタシのハートにもズキュンと来ました(キモッ)。
いやでも目につく車幅の拡張は、ノーマルカローラから+60mm。GRモデルの迫力をいや増しているのはコスメティックな変更にとどまらず、ハイスピードでのコーナリング性能を引き上げるべくトレッドが前後とも広げられていることで、フロントは60mm、リアは85mmワイドにされた。グッと大地に踏ん張る姿が、ちょっぴりユーモラス。
GRバージョンへの変容ぶりを見て個人的に思い出すのは、「ランチア・デルタ インテグラーレ」である。ジウジアーロの手になるクリーンな5ドアハッチがラリーフィールドを駆け巡り、年を経るに従って各所に穴が開きフェンダーが膨らんでいって、その即席風のモディファイがかえって実戦的でカッコよかったなァ。
しかし21世紀の東洋のスポーツモデルはそんなまどろっこしい過程を経ずに、いきなり「最終形態かッ!?」という姿で登場するらしい。弟分の「GRヤリス」には、WRC(世界ラリー選手権)に出場するためのホモロゲーションモデルという箔(はく)がついていたが、GRカローラにおいては、カローラに眠っていたモータースポーツの遺伝子を目覚めさせ、スーパー耐久シリーズで鍛え上げたというのが、トヨタの主張である。
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努力次第で車中泊も
無意識にカバンとダウンジャケットをリアシートに放り込んで、GRカローラの運転席に座ってから気がついた。後ろにもドアがあるって、便利ですね。
忘れないうちに記述しておくと、後席にはベースとなったカローラ スポーツに準じた実用的なスペースが確保される。座面の高さは順当で、膝前、頭部まわりともクリアランスに不満はない。ただし、フロントシートのバックレストが思った以上に大きく広く、シートベルトを締めてきちんと座ると、後席からの前方視界はほぼない。閉所恐怖症の人には薦められない。GRカローラ購入時の言い訳としては機能するが、本当に人を乗せるとなると嫌がらせになりかねないリアシートである。
朗報は、6:4の分割式である後席背もたれを倒せば、荷室の簡素なフロアボードとつながるフラットなスペースが出現すること。助手席を一番前にスライドさせると、荷室後端から前席背もたれまで実測177cmの長さがとれるので、倒した後席と助手席背後の隙間を埋める工夫さえすれば、身長制限こそあるが、はやりの車中泊もできそう。四駆で雪国にも行ける超速“旅グルマ”、爆誕!?
「GRヤリス」から32PSアップ
3ドアのGRヤリスと比較すると、GRカローラは全長で415mm長い4410mmのボディーを、同じく80mm長い2640mmのホイールベースに載せる。
ダイナミックフォースエンジンと大仰な名称が与えられた1.6リッター3気筒ターボは、GRヤリスのそれと基本的に同じG16E-GTSユニットながら、最高出力は32PSアップの304PS/6500rpm、最大トルクはカバーする回転域が広がった370N・m/3000-5550rpm。ちなみにGRカローラの車重はGRヤリスより190kg重い1470kgだから、パワートゥウェイトレシオでは4.7kg/PS対4.8kg/PSと、やや不利になる。
トランスミッションは、3ペダル式の6段MTのみ。駆動方式は「GR-FOUR」ことAWD。「レースの現場で最適化された」とうたわれるトヨタ自慢のスポーツ4WDで、前後のトルク配分を電制多板クラッチの圧着で制御する「アクティブトルクスプリット4WD」が採用された。フロアコンソールのダイヤルを使って、前後の配分を「6:4」「5:5」「3:7」から選択できる。デフォルトはFF寄りの6:4だ。さらにコーナリング性能の底上げや立ち上がりのよさを狙って、前後輪とも左右の差動制限のためにトルセンLSDが用いられる。
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クルマと一体になれる
「GR」ロゴがヘッドレストに縫われたシートは、全体にやんわりとしたタッチで、しかししっかりとドライバーを支えてくれる素晴らしいもの。HIとLOの切り替え可能なシートヒーター付き。ステアリングホイールにもヒーターが仕込まれるから、雪道ドライブも楽しかろう。パーキングブレーキが、コンベンショナルに左手で引き上げる機械式に変えられたことも見逃せない。これまたスノードライブを楽しめそう!?
GRカローラRZを運転するにあたって、3ペダル式MTという絶滅危惧種的技能を継承している人なら、特に構える必要はない。普通にクラッチをつないで走り始めるだけ。3気筒ターボは低回転域からトルクが厚いから、エンストの心配は要らない。その後のパワーカーブもナチュラルなので、突然のターボバンにおびえることもない。
「見えないはずのゲートがやけにクッキリしているなァ」とシフトフィールに感心しているうちに、スーパーカローラはスルスルと速度を上げていく。明るくなり始めた高速道路を矢のように疾走していく。足まわりはスポーティーに締められているが、路面からの入力は、構造用接着剤の塗布面積を延長し、レーシィにスポット増しを施した強化ボディーがガッシリ受け止め、はね返す。ルーフはプラスチックとカーボンを組み合わせた軽量複合素材だ。高剛性のボディーとリニアなステアフィール。精度が高くレスポンスのいい動力系。クルマとの抜群の一体感がドライバーを喜ばせる。
GRカローラのドライブフィールは、いうなれば「普通の運転感覚」を全方位的に大きく膨らませたもの。加速、減速、コーナリングと圧倒的なパフォーマンスを示しつつ、特殊なモビリティースーツと意識させることなく、ドライブトレインから濁音系のノイズを発するでもなく、二次曲線的な加速で運転者の顔から血を引かせることもなく、なんというか「カローラのように」運転できる。ハイパフォーマンスモデルにして、その庶民派ぶりがオソロシイ。マニュアル久しぶりのリターン組のためには「iMT」ボタンが用意され、これを作動させると、シフトダウン時の回転合わせまで自動でしてくれる。
GRカローラRZのファントゥドライブは、前世紀のそれとベクトルを一にしている。新しい技術を満載しながらも、ノスタルジックで新鮮味はまるでない。けれども、“ちょっと古い”クルマ好きにはそれがいい。久しぶりにネペンタやトゥーリアに行った気分だ。
価格は525万円。「カローラに500万円かぁ」と不思議な気持ちにもなるが、500台の初期出荷分はすでに売り切れているのだった。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
トヨタGRカローラRZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1850×1480mm
ホイールベース:2640mm
車重:1480kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:304PS(224kW)/6500rpm
最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/3000-5550rpm
タイヤ:(前)235/40R18 91W XL/(後)235/40R18 91W XL(ヨコハマ・アドバン エイペックスV601)
燃費:13.6km/リッター(WLTCモード)
価格:525万円/テスト車=568万2850円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイトパールマイカ>(3万3000円)/シートヒーター&ステアリングヒーター(2万7500円)/オート電動格納式リモコンドアミラー+ブラインドスポットモニター&安心降車アシスト+リアクロストラフィックアラート&クリアランスソナー&バックソナー+カラーヘッドアップディスプレイ(11万7700円)/おくだけ充電(1万3200円)/寒冷地仕様<ウインドシールドデアイサー、リアヒーターダクトなど>+LEDリアフォグランプ<右側のみ>(2万2550円)/ドライブレコーダー<前方>+バックガイドモニター<録画機能付き>+ディスプレイオーディオプラス<コネクテッドナビ対応>+ETC2.0ユニット<VICS機能付き>(19万1400円) ※以下、販売店オプション GRフロアマット(2万7500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1682km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:383.8km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:9.8km/リッター(車載燃費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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