メルセデス・ベンツC200/C250 ステーションワゴン【試乗記】
迷える傑作 2011.06.16 試乗記 メルセデス・ベンツC200 ブルーエフィシェンシー アヴァンギャルド(FR/7AT)/C250 ブルーエフィシェンシー ステーションワゴン アバンギャルド(FR/7AT)……578万4000円/641万8000円
デビューから4年を経て、大幅なテコ入れを実施した「メルセデス・ベンツCクラス」。その仕上がり具合を、セダン/ワゴンの両モデルで吟味した。
気合の化粧直し
「メルセデス史上最高傑作のC」と銘打って、「Cクラス」が新しくなった。なかなか挑発的なうたい文句に聞こえるが、“自社史上”なら、あたりまえのことを言ってるような気もする。
「アジリティ」(敏しょう性)という言葉をひっさげて現行の3代目Cクラス(W204)が登場したのは2007年。6〜7年がCのライフサイクルだから、これからがラストスパートだ。強敵、「BMW3シリーズ」や「アウディA4」らのライバルにあらためてファイティングポーズを取り直すのが、今回のフェイスリフトである。
まず外観では、前後のライトにLEDが使われるようになった。リアはフルLED化され、フロントのポジションランプはCの字を描く。メルセデスもちっちぇえことやるようになったなあと思うが、それも“時代”か。
インテリアはダッシュボードのデザインが刷新された。シルバーシャドーと呼ばれるメタル素材が多用され、ステアリングホイールの革は、質感の高いナッパレザーに変わった。
今回試乗したのは、新シリーズ第一弾の4気筒モデルだが、直噴1.8リッターターボに大きな変更はない。だが、変速機は「7Gトロニックプラス」にバージョンアップされ、アルミボンネットの採用で約10kg軽くなった。そのため、「C200」「C250」いずれも全モデルがエコカー減税をゲットしている。従来の「C300」に代わる新型3.5リッターV6搭載の「C350」は認定作業中で、今回は乗ることはできなかった。
C350も含めて、新型Cクラスはすべて直噴エンジンになった。従来、直噴を表していた“CGI”のモデル名は廃止され、代わりに“ブルーエフィシェンシー”を名乗る。
すきのあるカッコよさ
今度のフェイスリフトのテーマをひとことで言えば「よりカッコよく」である。LEDが埋め込まれたヘッドランプで、顔つきはよりシャープになったし、光り物の増えたダッシュボードも、イメージは少し若返った。
だが、撮影のとき、ボディを観察していてあらためて気付いたのは、チリ(パネルギャップ)の大きさである。Cクラスは、A4や3シリーズのボディと比べると、パネルギャップの詰めが甘い。そんなこと、クルマの本質にはなんの関係もないという見方はあろうが、カッコイイ路線で行くなら、つじつまが合わない。もう少し頑張って詰めたほうがいいと思う。
最初に乗ったのは、C200のセダン。これまでのCクラスは6割以上がセダン、エンジンは8割の人が標準の184psを選ぶというから、まさに日本での売れ筋モデルだが、試乗車は上級モデルの「アヴァンギャルド」で、さらに「AMGスポーツパッケージ」が付いていた。
ボディカラーは今後、日本で強力に売り出してゆくというレッド。走り出すなり、C200にしてはやけに乗り心地が荒っぽいなあと思って、試乗車の仕様を調べたら、18インチのAMGスポーツパッケージだったというわけだ。コーナリングの限界は高いだろうが、しなやかに、ゆっくりと伸び縮みする高級な“メルセデス・ライド”は硬さにかき消されて味わえない。C200はノーマルシャシーで味わったほうがいいように思う。
「史上最高」の再考
C250のエンジンは204ps。同じ1.8リッター4気筒ターボから、チップ・チューンでプラス20psを得る。走り出すとその差は歴然で、C200セダンより動力性能は伸びやかだ。この直噴ユニット独特の、高回転域での乾いたエンジン音が相変わらず気持ちいい。乗り心地もAMGスポーツパッケージ付きC200セダンよりはるかに落ち着いている。
しかし、これが果たして触れ込みどおり「メルセデス史上最高傑作のC」だろうか。今回は箱根ターンパイクを上り下りするだけのショートドライブだったが、「改善箇所2000以上、フルチェンジ並みの大型フェイスリフト」というわりには、正直言って、あまり変わり映えしなかった。
C250でいえば、この直噴エンジンが“CGI”の名で2010年モデルに初めて載ったときのほうが印象は鮮烈だったし、さらに振り返れば、もっと感動させてくれたCクラスも過去にあった。たとえば、2代目(W203)の後期型などがそうだ。
W204がアジリティという聞き慣れない言葉をうたい文句に掲げたのは、スポーティなBMW3シリーズを強く意識してのことだった。今回のフェイスリフトで、内装にシルバーのメタル素材を多用したり、ヘッドランプにLEDを埋め込んだりしたのは、なんとなくアウディの後追いという感じがしなくもない。Cクラス、ブレてないか?
アイドリングストップ機構をもつ新エンジンのC350に期待しよう。
(文=下野康史/写真=峰昌宏)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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