第597回:外装デザインのリーダーを直撃取材! デザインにみる新型「ルノー・ルーテシア」のキモ
2019.11.01 エディターから一言![]() |
第46回東京モーターショーにおいて、日本でもいよいよ公開された新型「ルノー・ルーテシア」。このクルマは、好評を博した従来モデルから何を受け継ぎ、何を刷新したのか? デザインに見るポイントを、モーターショーに合わせて来日したキーマンに聞いた。
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あまたのメーカーを渡り歩いてルノーへ
新型ルーテシアが日本初公開された今回の東京モーターショー。その開幕に合わせて来日したアンソニー・ロー(Anthony LO)氏は、ルノーの“エクステリアデザイン担当バイスプレジデント”の肩書をもつ。バイスプレジデントを直訳すると副社長だが、ルノーでは“理事”に相当する役職のようだ。
――公表されているプロフィールによると、ローさんは香港でお生まれになって、イギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(国立ロンドン美術大学)を卒業した後、まずはロータスに入社されたとか……。
はい、1987年にロータスに入社して、1990年にアウディに移籍しました。それからメルセデス・ベンツの東京デザインスタジオで7年ほど仕事してから、GMヨーロッパに移りました。GMではサーブやオペルのアドバンストデザインを担当しました。
ヴァン・デン・アッカーが主導した組織改革
――ローさんがルノーに招かれたのは2010年4月とのことですから、そのときはすでにデザイン部門のトップは現在のローレンス・ヴァン・デン・アッカー(ルノー・コーポレートデザイン担当常務)さんだったわけですね。
私が声をかけられた当時のルノーは、フランスのスタンダードからよりグローバルなブランドに脱皮しようとしていました。私のボスであるヴァン・デン・アッカーは2009年5月にルノーにやって来て、デザイン部門の組織を変えようとしていました。私の場合、いろいろな会社で働いた経験や国際的なプロフィールが評価されたのだと思います。
――現在のルノーデザインの組織は以前とは異なるわけですか?
以前はひとつの商品企画に対して3~4名の担当デザイナーでチームを結成して、専属で数年かけてデザインをつくり上げていました。ですが、現在のルノーデザインではコンセプトカーから実際の商品、しかも「メガーヌ」やルーテシアなどの乗用車と「カングー」のような商用車も分け隔てなく、多くのデザイナーが手がけるようになりました。そのなかで、私はルノー全車のエクステリアデザインを統括する立場にいるわけです。
大事なのは「ルーテシア」に見えること
――さて、いよいよ日本でも実車が公開された新型ルーテシアですが、第一印象は従来の4代目ルーテシア(ルーテシア4)の正常進化に見えます。
新型ルーテシアの開発プロジェクトを開始するにあたり、われわれはまずユーザーやマーケットの声を集めました。そこで共通して評価いただいたのは、とりわけエクステリアデザインでした。このときに得られたフィードバックを簡単にまとめると、ルーテシア4が選ばれた理由でもっとも多かったのがエクステリアデザインであり、逆に選ばれなかった一番の理由はインテリアのデザインや質感だった……というものです。
――それゆえにエクステリアデザインは正常進化。それにしても、新型ルーテシアは実際にはすべてが新しいのに、われわれ素人には、なぜルーテシアにしか見えないのでしょうか?
新型ルーテシアのエクステリアでルーテシア4を踏襲している最大のポイントはシルエットです。具体的には肉感的なフロントフェンダーやサイドビュー、そして筋肉質な印象を与えるリアのフォルムです。それとサイドウィンドウグラフィックにもルーテシアらしさを感じていただけるはずです。
このように、エクステリアデザインは“ルーテシアに見えること”を大きなテーマとしましたが、逆にルーテシア4から大きく変わったのは商品としてのストラテジーです。簡単にいうと、新型ルーテシアは“モアプレミアム”なクルマとして、すべてを“アップマーケット(=上級移行)”することを目指しました。
これはグレードにもよるのですが、各部のメッキをツヤが控えめのサテンクロームにして、ヘッドライトもフルLEDを基本としました。さらに今回の東京モーターショーに出展しているR.S.ラインでいうと、フロントバンパーのデザインも非常に高級感あるものになっています。
背景にあるBセグメントの“上級移行”
――そんなエクステリアとは対照的に、インテリアデザインは大きく変わっています。
先ほども申し上げたように、ルーテシア4では好評だったエクステリアに対して、インテリアはあまり評価いただけませんでした。ですので、新型ルーテシアのデザイン的な方向としては、エクステリアは正常進化としながらもよりプレミアムに……そしてインテリアはデザインから大きく変えることにしたのです。
さらにいうと、新しいインテリアデザインでは、まず大きな縦型ディスプレイを装備することが最初から決まっていて、これをいかにデザインに融合させるかが最大の課題となりました。
――確かにBセグメントに不似合い(?)なほど立派なディスプレイだけでなく、インテリアの質感は飛躍的に向上していますね。
ルーテシアのようなBセグメント車にアップマーケットが求められるようになった理由はいくつかあります。ひとつはもちろん、現在ルーテシアや他社Bセグメントに乗っているユーザーに“もっといいもの”を提供するためですが、もうひとつの大きな理由に、日本だけでなく欧州でもダウンサイズ需要が増えていることがあります。
たとえば、今までメガーヌに乗っていたユーザーは、従来のルーテシアにはどうしても物足りなさを感じていました。新型ルーテシアが機能・装備・質感のすべてでクラスを超えて、史上最高のルーテシアになったのは、そんな理由もあるのです。
(文=佐野弘宗/写真=峰 昌宏、ルノー、webCG/編集=堀田剛資)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。