第602回:これからクルマはどう変わる? 日産の技術体験会に見る“ちょっと先のテクノロジー”
2019.11.12 エディターから一言2019年10月、日産の先進技術が体験できる「ニッサン インテリジェント モビリティ」のテクノロジーツアー(体験会)が、報道機関向けに開催された。これまでも、このイベントで紹介された新技術やコンセプトが最終的なプロダクトに落とし込まれたケースは多く、その点では、未来の車両技術を先取りできるチャンスといえる。事前の想像以上に多岐にわたっていた技術展示のうち、筆者が「これは!」と思ったものについてリポートしよう。
「5G」でバーチャルなドライブが現実に!?
今回の日産の取材は、神奈川県横須賀市にある「GRANDRIVE(グランドライブ)」と厚木市にある「先進技術開発センター」の2カ所を移動する形で行われた。
最初に横須賀で体験したのは、コネクテッド技術を活用した、リアルとバーチャルを結ぶ「I2V:Invisible-to-Visible(インビジブル・トゥ・ビジブル)」だ。今後のモビリティーの進化において自動運転やコネクテッド技術が重要な鍵とされているのは周知の通りだが、現時点でも通信技術を活用した渋滞回避をはじめ、目的地までの運転環境をスムーズに整える試みは(徐々にではあるが)行われている。その一方で、「将来の自動運転時代を迎えるにあたり、無数の車両からの情報をクラウドに集め走行情報として共有することで、各段に高度な演算ができるようになる」と日産は言っている。
そんな“レベル4の自動運転”での移動においては、従来の情報を伝えてくれるオペレーターなどによるエージェント機能をさらにレベルアップすることで“移動の質”を高めることができる。そのために考えられたのが、「Metaverse(メタバース)」と呼ばれる仮想空間で生成されたアバターを活用して、新しいコミュニケーションを実現しようという試みである。
会場ではAR(拡張現実)用のゴーグルやヘッドセットを装着した2人の女性が、センサー類に体の動作を読み取らせてアバター(分身)化。これを“バーチャルな同乗者”として取材陣が乗る実験車両へと転送してみせた。今はまだ、車両内にいる人間もアバターを認識するためにARゴーグルを装着する必要があるものの(将来的には無用になるそうだが)、車外にいる人間が、まるで同乗しているかのような感覚が得られるのだ。
まだ実験段階であるため、アバターを生成させるために多くの機材が必要。実用化にまだ時間がかかることは明らかだ。AIを使った、それぞれのドライバーに最適な専用のアバターを用意することも考えられているが、それもずいぶん先になる。それでも、I2Vという仕組みを作り上げようとする日産の志の高さとそれを支える技術、つまり現在パートナーとなっているNTTドコモが展開する「5G」技術次第では現実のものとなりそうだ。東京モーターショー2019でもドコモは5Gに関する自動運転や遠隔操作などのデモを行っていた。進化のスピードが早いIoT(Internet of Things:モノがインターネットに接続され、相互に制御できるようになること)の技術は、商用の観点からも早いタイミングで車両に搭載されていくことが期待される。
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制御次第で走りは変わる
今回の取材で一番の話題となったのが、新たな四輪制御技術を搭載した車両の試乗である。
これまでも日産は「リーフ」に代表される電動パワートレイン、R32型「スカイラインGT-R」などに搭載された電子制御4WDシステム「ATTESA(アテーサ)E-TS」、そして、懐かしい四輪操舵「HICAS(ハイキャス)」や昨今のステア・バイ・ワイア「DAS」に代表されるシャシー制御を磨いてきたわけだが、今回、これらを統合制御することで、「走る・曲がる・止まる」を飛躍的に向上させることが可能になったという。
ベース車両は現行型の「リーフe+」。ノーマル車ではフロントに搭載されているEM57型モーターを前後に2基配置、最高出力309PS(227kW)、最大トルクは680N・mを発生する。実験車両は専用サスペンションに加えて前後で異なるサイズのタイヤを装着しており、室内を見れば、専用ステアリングホイールのほかに、車両制御の状態を把握しやすくするための12.3インチの専用大型ディスプレイが備わっていた。
駆動方式は四輪駆動だが、日産はあえて“四輪制御”という言葉にこだわっている。もともとEVは、トルク配分については細かな電子制御を得意とするが、この車両も1万分の1秒というきめ細かい制御により、レスポンスのよさと滑らかな走りを可能にしているという。
今回は時間の都合で後席での試乗となったのだが、それなりにメリットはあった。後席に乗車すると、ドライバーがどのような操作をするか予測しにくい。ステアリングホイールのような“つかむもの”もない分、体の動きに敏感になるのだ。
ノーマル(FF)のリーフに続いて、テストカーに乗り込んだのだが、その差は歴然だった。パワー増大とトラクション向上による加速の鋭さは言うまでもないが、驚いたのは、減速時に前後のタイヤにかかる駆動力を緻密にコントロールすることで前後方向の挙動変化を抑えるという仕組みである。運転担当のジャーナリストは容赦なく(?)加減速をくり返し、ノーマル車では乗員の頭だけでなく上体まで大きく前後に揺すられたことで、気分が悪くなった。しかしテストカーで同様の運転をしてみると、減速が驚くほどスムーズかつフラットに行われるようになったのだ。
スラロームコースでも、前後の駆動力配分と4輪のブレーキの個別制御による旋回性能の向上が確認できた。約50km/hでのタイトコーナリングでもアンダーステアが出づらく、アクセルを踏み込んだところで外側へ膨らむことなくパイロンをスムーズに通過する。滑りやすい路面でのタイトな定常円旋回(30km/h)でも軌道を逸脱せずに、しっかりと目標通りに走ってみせた。
東京モーターショー2019では、この技術を採用したコンセプトカー「ARIYA CONCEPT(アリア コンセプト)」が出展された。近い将来、リーフより高めに価格設定される高級電動SUVのニューモデルなどに搭載されるのではないだろうか。
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ソフトウエア開発は社内で
四輪制御技術もすごいが、グランドライブで一番気に入ったのが「次世代インテリジェントミラー」である。日産は当初ディーラーオプションでこの商品を展開、その後はメーカーオプションを中心に数多くの車種に設定してきた。技術的には車載カメラの高画質化や夜間における画像合成HDRなどの技術、さらにスマートフォンやタブレットなどではおなじみの「フレームレス&狭額縁」設計により、コンパクトでありながらより多くの情報を的確に伝えることを可能にしている。
その最新バージョンで一番感動したのが、老眼などによる“焦点ボケ”が抑え込まれている点だ。前述した技術により映像自体も極めて高精細に表示されるのだが、デモ用車両の運転席で前方を見た後、すぐにルームミラーに視線を移してみてもピント合わせが非常に楽。従来型のインテリジェントミラーでこの動作を行うと「何となく頭の中がグリグリするような感覚」があって焦点が合わなかったのだが、次世代型ではそれがほぼ解消されたと言っていいだろう。開発担当者は長くこの技術を磨いてきたエキスパートの方で、この焦点合わせの問題に関しては「目がミラーから520mm離れていれば問題ありません」などと教えてくれた。いつごろ実装されるのか聞いたところ、あっさり「2020年の早い時期には」との答え。圧倒的に進化した装備が近い将来実現するとは、うれしい限りだ。
午後に移動した先進技術開発センターでは、冒頭、総合研究所の所長である土井三浩氏によるプロパイロットや電動化技術、そしてCASE時代に求められるコネクテッド技術などのプレゼンテーションが行われた。そこで非常に興味深かったのは、日産がこれらの技術を“内製”しているという点だ。IoTの領域で開発に求められるのは、品質はもちろん、スピードである。タイムリーなサービスを提供するためには内製にした方が結果としてすぐれた技術を生み出せるという。
日産は2017年に「ソフトウエアトレーニングセンター」を設立しており、すでにここを巣立ったエンジニアが現場で活躍している。ここ20年の日産の人材は中途入社が増えているのだが、それとは別に、新卒者も含め、新しい時代のエンジニア育成は行われているのだ。2007年に設立された先進技術開発センターの従業員数は約2000人。これだけ大きな開発環境を維持するのは大変なことだが、「アウトソーシングをすれば全体のコスト低減にもつながるのでは……」という筆者の考えは、どうやら浅はかだったようである。
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うれしい機能が続々と
先進技術開発センターにおけるワークショップで驚かされたのが「音響メタマテリアル」と呼ばれる技術だった。これは遮音材の一種で、非常にシンプルな構造ながら驚くべき遮音性能を実現する。この日は、疑似的にロードノイズを作り出す音源を使って遮音性のデモが行われたのだが、従来の分厚い遮音材を外し新遮音材に替えた瞬間、驚くほど静かになったのだ。さらに驚くことにこの素材は極めて軽く、すでに使われている発泡ウレタンと同じ重量密度で比較した場合、約5~7倍の遮音性能を発揮できるとのこと。実装される時期こそ教えてもらえなかったが、量産技術やコスト面での問題はほぼクリアされている。静粛性にすぐれる電動化車両に搭載されることで、より高いアドバンテージを得ることができるのではないかと思う。
インフォテインメントやテレマティクスの領域でも新たな技術提案が見られた。注目は「シームレスな統合型ディスプレイ」である。現在、輸入車を中心に搭載されている大型のパネル(12.3インチが多い)を左右に並べ情報を表示する点は見慣れたものだが、日産では、表示する情報自体を左右で行き来できるようにしているのだ。つまり、従来は、カーナビと速度計を別々のパネルに表示して機能させる必要があったのだが、新開発ディスプレイはすべての画面を活用して表示内容をカスタマイズすることが可能になる。
昨今、スマートフォンの世界でもサムスンの「Galaxy Fold(ギャラクシー・フォールド)」のように折り畳み式ディスプレイを閉じたり開いたりすることで新しいコンテンツの見せ方/使い方が提案されているが、こうした流れはクルマのディスプレイでも増えていくに違いない。もちろん、法規上の制約はあるとはいえ、「画面のカスタマイズをスマホで行い車両に転送する」といったことも可能になってくるはずだ。HMI(ヒューマンマシンインターフェイス)の将来は、使いやすさだけではなく、ユーザーにどれだけ魅力的な体験を提供できるかが重要だということも理解できた。
最後に、筆者が感動した技術をもうひとつ。それが「電動ロックによるスライド調整シート」である。そもそも電動シートが付いているクルマならば関係ないのだが、この技術はシートスライドを行う際に座面下の手動レバーを使わず、シート横にあるスイッチを押すことで電気的にロックを解除できる機構である。これまでのレバー操作では前傾姿勢になるため筆者のような肥満体では腹がじゃまして操作が面倒になっていた。筋力が低下した高齢ドライバーなども同様の悩みを持っていたのだが、これであれば姿勢を崩すことなく、シートの前後位置を正確かつ素早く調整できる。ロックを解除するアクチュエーターは非常に小型かつ耐久性もあるそうで、電動化することでスイッチの位置も適切に配置できたとのこと。技術的にはウオークインやリクライニングにも応用可能な技術だが、まずはシートスライドで装着を目指すそうだ。これも完成度は高いので、早いタイミングで実車に採用されるはずだ。
ほかにも紹介しきれない技術はあるのだが、CASEやMaaSといったモビリティーの大きな流れの中で次世代のクルマはどうあるべきかというこれらの提案には、ユーザーメリットも大きいはず。「技術の日産」の面目躍如といったところだろうか。
(文=高山正寛/写真=高山正寛、webCG/編集=関 顕也)
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高山 正寛
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