フォルクスワーゲン・ゴルフ1.5 eTSI(FF/7AT)/ゴルフ2.0 TDI(FF/7AT)
進化するベンチマーク 2019.12.14 試乗記 Cセグメントハッチバックの世界的ベンチマーク「フォルクスワーゲン・ゴルフ」がいよいよフルモデルチェンジ。劇的なまでのデジタル化に込められたフォルクスワーゲン(VW)の狙いとは? 8代目となる新型の出来栄えを、ポルトガルよりリポートする。電動ラインナップの拡充を見据えて
1974年の初代登場以来、世界では累計3500万台以上、日本でも90万台以上を販売したVWゴルフ。その8代目となるモデルが、この12月より欧州を皮切りに世界で順次発売となる。
ゴルフ8の進化のベクトルをひと言で言い表すなら「デジタライズ」ということになるだろうか。標準化された10インチの液晶メーターパネル、インフォテインメントパネルに機能を集約した各種操作系やAIを使ったボイスコミュニケーション、e-SIMによる常時通信を用いたアップデート体制の構築や、スマートフォンとのコネクティビティーの強化、進化および充実した運転支援システム(ADAS)の標準化や車車間通信の採用など、すべてを取り上げればキリがないほどの内容だ。
ローカライズの関係で、これらのどこまでが日本仕様に反映されるかは現時点では未定だが、VWがこのゴルフ8を皮切りに他モデルでも順次、電子系アーキテクチャーを大幅に更新していくことは間違いない。そしてこの流れは当然EVのサブブランドであるID.の展開ともリンクしている。つまりVWは、電気も内燃機も関係なく、「CASE」(Connected、Autonomous、Shared&Services、Electric)の「C」と「A」の領域で大幅なモジュール化を図り、コスト圧縮と競争力向上を図ろうということだろう。中核たるゴルフ8の容赦ないデジタルっぷりからは、そんな思惑がうかがえる。
ゴルフ8のプラットフォームは、この電子モジュールも基礎に織り込んだ新世代の「MQB」となった。サブフレームレベルから見直されたことで軽量・高剛性化を果たしたサスペンションは、搭載されるパワートレインの出力に応じてリアにトーションビームとマルチリンクが使い分けられる。オプションで選択できる電子制御可変ダンパーはESP(横滑り防止装置)ユニットとひも付けられており、要求値に応じて各輪支持を独立してコントロール。その調整もきめ細かくなった。これによってブレーキを用いたLSD機能との連携による高い敏しょう性や姿勢の安定化が実現した一方で、減衰力を一段と下げて、より乗り心地の側に振ったモードも選択できることになる。
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豊富に用意されたパワートレインとグレード
搭載されるパワーユニットにはCNG(天然ガス)エンジンやプラグインハイブリッドなども予定されているが、発売当初にラインナップされるのは、大まかに言うとガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン+マイルドハイブリッドの3種類。うち、日本に導入されることになりそうなのが「eTSI」と呼ばれるガソリンマイルドハイブリッドと「TDI」、すなわちディーゼルの2つだ。
eTSIは、1.5リッター直4直噴ガソリンターボエンジンにベルト駆動のスタータージェネレーターを組み合わせたもので、発進時や高負荷領域での駆動アシスト、巡航コースティング時のエンジンカットオフなどをサポートするほか、減速時には大型ジェネレーターとしてブレーキエネルギーを回生。前席下部に収められる48Vの小型リチウムイオンバッテリーに蓄える仕組みだ。バッテリー以外のシステムはエンジンルーム内にコンパクトに収められ、ワイヤハーネスの使用量も抑えて軽量化に結びつけている。150PS仕様のエンジンとの組み合わせにおける動力性能は、0-100km/h加速が8.5秒、最高速は224km/h。公称燃費は現在計測中とのことだが、欧州では併売される普通の1.5 TSIに対しての改善率は10%ほどになる見通しだという。
TDIの側は2リッター直4直噴ディーゼルターボエンジンで、最高出力150PSを発生。ドライバビリティーを語る上では360N・mの最大トルクが大きなアドバンテージとなる。SCR触媒コンバーターにはアドブルーを2つの射出口から噴射する、彼らいわくの「ツインドージング」という技術が用いられており、現在欧州域で問題視されている窒素酸化物(NOx)の排出量は、従来型に対して最大80%削減。ユーロ6d規制をクリアした。こちらの0-100km/h加速は8.8秒、最高速は223km/hと、いずれもeTSIに比肩するものだ。
ゴルフ8の日本への導入は2020年の後半以降ということもあり、装備仕様面の未定項目が多い。そんな中、試乗したのはくだんのeTSIとTDIの2モデルで、いずれもインフォテインメントや足まわりは“フルスペック”の個体となる。また、ゴルフ8は従来の「トレンドライン」「コンフォートライン」「ハイライン」および「Rライン」というグレード構成を改め、トレンドラインに該当するベースグレード、コンフォートラインに相当する「ライフ」、ハイラインに相当する「スタイル」、そしてRラインという構成になった。これも商標関係を調整中で、日本市場がこのままの名称で展開されるかは未定だという。試乗車はすべて上位グレードとなるスタイルで、シートはファブリックで統一されていた。
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インターフェイスは“スマホ感覚”
VWエンブレムがフラットデザイン化されたこととも相まってか、第一報の写真では冷淡な印象を抱いていたゴルフ8。が、実物はゴルフ7以上にパネルの表情が豊かなデザインだ。「ポロ」ほどの主張はないが、折り目の精緻なプレスラインの間を湾曲面が奇麗につなぎ、塊の中に張りと緩みがうまく表現されている。象徴的なCピラー形状と併せて見れば、形そのものがゴルフ以外の何者でもない。これからも変わらぬ大黒柱だという自覚を感じさせる。
今やプレミアム系のブランドも参入し、あまたのライバルがひしめく最激戦区となったCセグメントにあって、ゴルフ8の室内環境はまさしくど真ん中という印象だ。質感面で感動することもない一方で不満も全くなく、着座感は至って自然。運転席からの視界についても、外形デザインにいじめられることなくクリーンさをしっかり保ち、荷室も形状、容積ともに何のクセもない。このジャンルにおけるマスターピースの役割を、気負うことなくきっちり果たしている。
過去のモデルの美点を引き継ぐ一方で、大きく変わったのが操作環境だ。空調の詳細設定も含め、あらかたの機能は彼らが「イノビジョン」と呼ぶセンターコンソールのモニター内に収められ、タッチパネルでコントロールする。頻用する温度設定やボリュームコントロールには、モニター下に独立したタッチ式のスライドバーが設けられるほか、物理スイッチを継承するハザードランプのボタン周囲には、ドライブモード設定などをすぐに呼び出せるタッチ式のショートカットキーも用意された。欧州仕様においてはボイスコントロールによる機能設定も可能となっている。さらにイノビジョンのモニター上では、自分がよく使う機能やアプリケーションを階層の“一番手前”に置くようカスタマイズすることも可能……と、要するに限りなくスマートフォン的なユーザビリティーを車載機器で実現したことになる。
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洗練に磨きをかけたドライブフィール
シフトレバーもバイワイヤ化されたこともあり、内装のデザインは至ってシンプルだ。が、操作の直感性という部分では従来に劣るのも事実。それを補完すべく、ゴルフ8ではAIボイスコントロールシステムを搭載している。行きたい場所の指定や空調の調整も対話で行えるがゆえに、むしろ高齢者などには歓迎されるだろうというのがエンジニア側のもくろみだが、個人的にはゴルフというクルマのユーザー層を思うに、ちょっとデジタライズを推しすぎたように思えなくもなかった。
運転環境は相変わらずクリーンだ。ベルトラインも極端なキックアップはなく、視界も素直に切り取られている。サイズを大きくすることは避けたかったというエンジニアの良心通り、取りまわしにわずらわしさを感じることはない。全高は下がっているものの、後席は身長181cmの筆者が座ってみても、着座姿勢や視点に違和感はなかった。
動力性能はeTSI、TDIともに必要にして十分といったところだ。TDIのディーゼルユニットは構成部品単位からの見直しが奏功してか、常用域での音振レベルはゴルフ7のそれに対して確実に上質さを増している。一方でトップエンドの伸び感や力強さは、ゴルフ7の方に軍配が上がるだろう。eTSIの側は、低回転域でのトルクを48Vのモータージェネレーターで補いつつ、ECUのセットアップも洗練されており、モーターアシストとターボによるトルクの立ち上がりとのコンビネーションに段付きなどのクセは一切感じられない。アイドリングストップやコースティングからの再始動も、高トルクのおかげで至ってスムーズだ。
ベンチマークの座は譲らない
可変ダンパーとESP、電子制御LSDを連携させ、アジリティーとコンフォータビリティーの高次元での両立を目指したという新しいシャシー制御技術「ドライビングダイナミクスマネジャー」だが、その効果を十分に体感できる機会は、今回の試乗コースには設けられていなかった。が、そもそも高い限界領域まで穏やかに挙動が変化していくゴルフのシャシーキャラクターは、新型でもまったく陰りはない。乗り心地は18インチと17インチという装着タイヤのサイズ差による変化の大きさがやや気になるものの、17インチ側の快適さは間違いなくCセグメントの最高水準にある。なによりADAS系の進化は歴然。精度の高いレーンキープアシストはロングドライブの頼もしいお供となるはずだ。
昨今のCセグメントカテゴリーの勢力図は、プレミアムブランドの台頭もあって混沌(こんとん)としている。日本勢の話をしても「スバル・インプレッサ」に「ホンダ・シビック」「トヨタ・カローラ」に「マツダ3」と、ここ数年での商品力向上が著しい。一方で、このセグメントでも市場の嗜好(しこう)はSUVに傾いている。ゴルフ7の時に感じられた圧倒的な存在感が、そのまま継承できるような環境ではないのは確かだ。
それでもゴルフ8は、Cセグメントの総代の任を譲る気は全くない。走りの基礎はしっかり熟成を重ねつつ、あらん限りのデジタルテクノロジーの投入からは、時代を真っ先に切り開くという強い意志がみてとれる。変化を拒めば待つのは退化という現代のタクトにあって、その姿勢はすなわちVWの総代でもあるという覚悟の表れでもあるのだろう。
(文=渡辺敏史/写真=フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフ1.5 eTSI
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4284×1789×1456mm
ホイールベース:2636mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT(DSG)
最高出力:150PS(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:--km/リッター
価格:--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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フォルクスワーゲン・ゴルフ2.0 TDI
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4284×1789×1456mm
ホイールベース:2636mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT(DSG)
最高出力:150PS(110kW)/3500-4000rpm
最大トルク:360N・m(36.7kgf・m)/1750-3000rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91W/(後)225/45R17 91W(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
燃費:--km/リッター
価格:--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。