第634回:陽気なだけの国じゃないぜ! イタリアの安全に対する最新の取り組みをリポート
2019.12.13 マッキナ あらモーダ!コンビニなきイタリアで
今回はイタリアの国会で2019年末、俎上(そじょう)に載った自動車にまつわる3つの法案を紹介しよう。
その前に、東京から約3週間ぶりに戻ったイタリア・シエナでの、個人的な話から。
わが家で最初にすべき仕事は、「ゴミ税の振り込み」だった。イタリアでは、清掃作業に用いられる税金は、他の公租公課とは別に支払う。
まずは現金を引き出そうと、近所の銀行ATMに赴いたら、いつ間にかおそろしく頑丈そうな鉄板が装着されていた。パスワードを入力する顧客の指元を隠すのに加え、破壊防止を兼ねたものらしい。シエナはイタリアでも屈指の治安が良好な街だったはずなのだが。それはともかく、よく見れば「fuori servzio」の貼り紙が。つまり故障していた。
仕方がないので別の支店で引き出しを済ませることにした。
ゴミ税を無料で払い込みできるのは、市の指定出納金融機関1行のみだ。それも店内に入ってみると、2つある窓口のうち、1つしか窓口が開いていない。もういっぽうの窓口の行員はといえば、長蛇の列ができているにもかかわらず、悠長に別の仕事をしている。
結局、筆者は30分近く待たされたあとに支払い完了。コンビニであらゆる公共料金を振り込める日本に住む方々に、この苦労はわかるまい。イタリアに帰ってきたことを、図らずも実感した。
そのように生活がスムーズにいかないイタリアだが、意外に意欲的な自動車生活に関連する法改正が、ここのところ検討されていた。
家族に「運転がうまい人」がいるとお得
ひとつは「自動車保険料の等級改革」である。
日本で自動車の保険は、自賠責と任意保険の2階建てである。いっぽうイタリアの場合、自賠責保険の中に、保険金額やアシスタンスが異なるさまざまなタイプがある形だ。
「RCアウト(RC Auto)」といい、顧客は任意の保険会社と契約する。
RCアウトは日本と同様、契約者の事故歴に応じて等級が決まる。日本が原則として全20等級であるのに対し、イタリアの場合は全部で18等級。運転初心者は14等級から始まる。「1」が最も割引率が高く、逆に「18」が最も低い。数字が上がるほど保険料が安くなる日本と逆である。
今回の法改正は、家族で複数台のクルマや二輪車(原付きも含む)を所有している場合、「最も割引率が高い所有者に家族全員の等級を合わせるというものである。連立与党のひとつ「五つ星運動」から提出された法案だ。簡単にいえば、安全運転をする人が家族内に1人いると得をするというわけである。
これにはいくつかの背景がある。第1は高額な初心者の保険料だ。
最も高額な地域では、たとえ一般的な車両でも年間保険料が円換算で12万円以上に達し、ただでさえ低下している新車の購入マインドを下げている。
第2は、無保険車の数である。CONSAPという団体が『パノラマ』誌のために調査した2017年のデータによると、イタリアでは280万台の車両が無保険で運転されており、車両全体の7%に及ぶ。特に南部ではなんと10%、つまり10台に1台が無保険車両である(ANIA調べ)。日本のように「自賠責に加入していないと車検を通過できない」というような省庁間の連携プレイがないことも、無保険に拍車をかけている。
新たな制度における保険契約の手続きにあたっては、家族であることを証明する住民票を取得する――これがまた市役所で並ぶ!――という面倒がある。だが“家族割”には、高額な保険料と、無保険車両が横行する実態をわずかでも改善することが期待されているのだ。
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「二輪大好き」の国だから
次いで検討されたのは、二輪車用エアバッグの購入奨励金である。
二輪車用エアバッグは一般的にベスト状もしくはリュックサック状で、運転スタート時にワイヤを使ってサドルと連結しておく。事故などでソケットが強い張力で抜けると瞬時に膨張し、重大な後遺障害の原因となる頭部や脊髄、腰などを守る。
数社から発売されており、イタリアにおける実勢価格は300~800ユーロ(約3万6000円~9万6000円)といったところである。
イタリア中央統計局ISTATが発表した2018年のデータによると、自動二輪車による死亡者は842人を記録した。これは1986年に現在の方法で統計を取り始めてから最小の数字である。
しかし景気低迷で通勤用車両を四輪から二輪に乗り換えるユーザーが少なくない昨今、予断を許せないのが現状だ。実際、2019年1~9月の二輪車販売台数は、前年同期比で6.4%も増加している(ANCMA調べ)。
そうした中で、250ユーロ(約3万円)を上限に、二輪車用エアバッグ購入額の50%を政府が補助するという法案が、自動車保険改革と同様、五つ星運動の議員から提出されたのだ。
知人でアラフィフのルカ氏(仮名)は、通勤中にスクーターで転倒事故を起こしたのをきっかけに、一度は家族の薦めもあって「スマート」に乗り換えた。しかし、やはり二輪への思いは捨てがたく再びスクーターに復帰したところ、またまた転倒。現在治療中だ。
懲りないライダーである彼に二輪用エアバッグはどうか尋ねたところ、即座に「積極的に薦めたい」と答えが返ってきた。「バイクだけでなく、自転車乗りにも有効だと思う。イタリアは交通マナーが良くないからね」というのがその理由だ。
ブルートゥースで子ども放置防止
第3にイタリアで検討されてきたのが、「子ども車内放置警報装置」である。
日本と同様にイタリアでも、乳幼児の車内放置による死亡事故が発生するたび、ニュースで大きく報じられてきた。具体的には2008年から2019年9月までの12年間に、全国で8件が起きている(TG COM24調べ)。原因の多くは、勤務先や買い物先での降ろし忘れであった。
そこでイタリア政府は2019年11月7日、4歳以下の乳幼児の保護者を対象に子ども車内放置警報装置を義務化する省令を発効した。
違反した場合、最高で333ユーロ(約4万円)の反則金を科すほか、最高で2カ月の免許停止となる。
警報装置はチャイルドシートの下に敷くカーペット状の体重センサーや、チャイルドシートのベルトに取り付けるものなど数タイプある。価格は40~60ユーロ(約4800円~7200円)前後。装置を内蔵するチャイルドシートもすでに発売されている。
だが、スマートフォンとブルートゥースで接続し、保護者がクルマから一定距離だけ離れるとアラームが鳴り、それでもクルマに戻らないとあらかじめセットしておいた連絡先(例として祖父母など)に自動でメッセージが届くという機能はどれも同じである。
実際に使用していないので決定的な判断は避けるが、同じくブルートゥースを使用した「忘れ物防止タグ」を所有し、その作動の不確実さを知る筆者としては、やや不安が残る。
そもそも警報装置以前に、この国ではチャイルドシートを使用しない保護者が34%(イタリア高等衛生機関調べ)もいるという由々しき事態を解決すべきである。
だが、他国に先駆けた意欲的な取り組みであることは認めるべきだろう。
「禁煙」のリベンジを狙え?
ところで、これらの法案の審議結果はというと?
保険等級改革は、2020年に実現の見通しがついた。
いっぽうで二輪車用エアバッグへの奨励金は、下院は通過したものの、上院では可決されなかった。財源不足が理由だ。
子ども車内放置警報装置は、「購入したくても買えない」という批判の声が多数上がったことから、反則金の適用を2020年3月6日まで延期とすることが決まったばかりだ。
実際に筆者が子ども用品を扱うショップに、子どものいない筆者としては生まれて初めて赴いてみると、目下品切れで注文受け付け中だとスタッフが教えてくれた。
これらの3つの法案をあえて勝ち負けにすれば、「1勝1敗1引き分け」といったところだ。
しかし、筆者がイタリアで生活してきた23年だけでも、クルマまわりの環境はずいぶんと良くなってきた。
具体的には「自動車ラジオ税」なる奇怪な制度が廃止され、ちょっと前までやたら立派な紙製だった「自動車所有証書」も電子化されて廃止となった。ディーラーの認定中古車を買った際にも必要だった、公証人立ち会いの引き渡し手続きもなくなった。牛歩のごとくではあるものの、少しずつ改善されているのである。
蛇足ながら、クルマ以外の領域でいえば、イタリアでは2003年から職場や学校、飲食施設まであらゆる室内空間での喫煙が禁止となった。反則金は最高で275ユーロ(約3万3000円)に達する。
イタリア人の喫煙率が、2008年の22.2%から2016年には19.3%にまで低下している(オッセルヴァサルーテ調べ)のも、この法律が奏功しているといえる。
対して日本では、東京都がようやく2020年から飲食店に全面禁煙化を義務づけることになった。いやはや、イタリアより遅いとは。
ここはひとつ、日本は二輪用エアバッグあたりを、イタリアに先駆けて義務化すればリベンジできるのに。特別なナショナリズムはないが、日本生まれとして切に思う年の瀬である。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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