ハーレーダビッドソン・ローライダーS(MR/6MT)
帰ってきた一匹狼 2019.12.19 試乗記 ハーレーダビッドソンのラインナップに、走りのよさが身上の「ローライダーS」がカムバック。怪力Vツインの「ミルウォーキーエイト114」を搭載し、足まわりもスポーティーに仕立てられたニューモデルは、“大人の不良”にふさわしい一台に仕上がっていた。“走り”のハーレーダビッドソン
Low Rider. 何といっても語感がいい。しかし意味はよくわからない。けれどたぶん、英語圏の人にしても響きのよさでおおむね納得できるものがある気がする。例えば低く身構えて世間に牙をむく、孤高のローンウルフみたいな。って、孤高とローン(lone)で意味がカブッてるじゃないか。
文字通りロー&ロングの、個人的にはハーレーの中で最も男っぽいスタイルだと思う「ローライダー」。2020年モデルで既存のローライダーの他に「S」が付いた新機種が追加されたら、二輪通の間では「Welcome back!」と歓喜の声が上がったという。まずはその辺の説明から。
ローライダーは、かつて「ダイナ」ファミリーに属していた1977年発表の「FXSローライダー」を祖とするモデルだ。ダイナというのは、軽快な「スポーツスター」と重厚な「ツーリング」の間に位置していた“いいとこ取り”のファミリーで、なかでもローライダーは、初代以降“走りのいいビッグツイン”の看板を掲げ続けた。そんなローライダーに最初のSモデルが登場したのが2016年。台数限定でリリースされるCVO(Custom Vehicle Operations)に用いられていた「スクリーミンイーグル・ツインカム110B」エンジンを搭載しており、通常版の1584㏄に対して1801ccの排気量を有していた。
その後、ダイナファミリーは2018年モデルの登場に際して「ソフテイル」ファミリーに統合される形で消滅。ローライダーだけがソフテイル家に婿入りする形でその名を残していた。このような経緯もあって、最新のラインナップで通常版とは別にローライダーSが発表されたので、ファンの間で「ようこそお帰り!」となったわけである。そうした系譜への筋の通し方はいかにもハーレーらしい流儀なので、あえて触れておくことにした。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
「ミルウォーキーエイト114」はまさに怪物
さて、最新のローライダーS。採用されるエンジンはかつてのような特別版ではなく、他のモデルにも使われているミルウォーキーエイト114だが、そもそもこいつは「こんなものをレギュラー化していいのか!」と机をたたきたくなるような化け物だ。
114とは排気量を示す数字。単位はキュービックインチで、耳慣れた単位に直すと1868㏄(ちなみに通常版ローライダーは1746㏄)である。そのトルクは同排気量クラスの四輪ガソリンエンジンに匹敵する155N・m。バイクではまずやらない2速発進を試したら、すんなりクラッチがつながった。もちろん、スロットルをうかつに開けるとあなたは瞬時にロケットマンになれる。いや本当、思いっ切り開けると冗談ではなく後方へふっ飛ばされそうになるのでご注意を。その一方で、強大なトルクは走りの余裕となり、街中ではちょいとアクセルをひねるだけで楽に流せる。
通常版とは足まわりでも差異を設けている。フロントブレーキはABS装備のデュアルディスク。フロントフォークは剛性の高い倒立式で、レイク角は通常版の30度に対して28度に設定されている。「よりスポーティーなハンドリングを」ということなのだろうけれど、そうはいっても、さすがにこの車格と排気量でビュンビュン切り込む勇気はなかなか持てない。ただ、試乗の際、思いのほか操作系に重さを感じなかったのは事実だ。
![]() |
![]() |
![]() |
強大なトルクを独り占め
とまぁ、ここまで紹介しておいてなんだが、このバイクについてはスペックに関してあれこれ口にするのはヤボだと思う。なぜならハーレーは、バイクの中でも特に“嗜好(しこう)品の類い”と言っていい代物だからだ。その中でもローライダーSは、おそらくハーレー史上最もバランスの取れたデザインであろう元祖ローライダーのスタイルを踏襲し、なおかつ至る所をブラックで締めた“おとこ気”に満ちたモデルなのである。
蛮行と呼ぶべき設定はソロシートだ。普通乗用車なら5人で共有できるトルクを独り占め。それを(お値段250万円にもかかわらず)家族を説得した上で手にできるなんて人は、この世知辛い世間に残るヒーローだ。平日は社会の一員として然(しか)るべき立場と役目を全うしつつ、週末には黒一色をまとった不良を装う。そんな姿を平日の姿しか知らない誰かに見られたら絶対モテる。ギャップ萌(も)えだ。ハーレーには、そういう演出機能が備わっている。そういう大人になりたい。なれたら「孤高のローンウルフ」と呼ばれたい。でもって、「孤高とローンがカブってるよ」とツッコみたい。
(文=田村十七男/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2355×850×1160mm
ホイールベース:1615mm
シート高:690mm
重量:295kg
エンジン:1868cc 空冷4ストロークV型2気筒 OHV 4バルブ
最高出力:--PS(--kW)/--rpm
最大トルク:155N・m(15.8kgf・m)/3000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:244万0900円

田村 十七男
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。