フォルクスワーゲンTクロスTSI 1stプラス(FF/7AT)
伊達を気取るのも楽じゃない 2019.12.25 試乗記 自動車販売の最激戦区であるコンパクトSUVカテゴリーに、フォルクスワーゲンは「Tクロス」を送り込んできた。「ゴルフ」や「ポロ」と同様、同社はこのクラスにも“ベンチマーク”を打ち立てることができるのだろうか。導入記念の特別仕様車に試乗した。久しぶりのニューフェイス
2018年3月のポロ以降、1年半以上もニューモデルの発表がなかったフォルクスワーゲン グループ ジャパン(VGJ)が、久しぶりに日本市場に導入するニューフェイスがTクロスだ。
Tクロスは、フォルクスワーゲンのSUVラインナップの中では最も小さなモデル。「小さい、小さい」と言うと、中も狭いんじゃないかと思われるのではということで、VGJでは「Tさい」SUVと呼ぶことにしたらしい……というのはさておき、ドイツ本国では、小さい順にTクロス、「Tロック」「ティグアン」「トゥアレグ」という布陣でSUVブームに対応しているところ。一方、日本では、ここしばらくティグアンが唯一の選択肢だったが、このTクロスに続き、2020年半ばにはTロックをラインナップに加えることで、日本でも人気のSUV市場でシェア拡大を狙っている。
そういう意味で重要な使命を与えられたTクロスは、成長著しいコンパクトSUVセグメントに属するモデル。4115mmという全長は、コンパクトカーのポロに近いサイズで、ポロ同様、フォルクスワーゲン グループの生産モジュール「MQB」を採用している。とはいっても、エクステリアを見るかぎりポロとの関連性は皆無なうえに、ボディーサイズの数字以上に存在感があり、堂々としたたたずまいも印象的だ。
室内も余裕たっぷり
SUVを選ぶ理由として、その見た目の立派さに加えて、セダンやハッチバックよりも高い機能性を挙げる人は多い。このTクロスも、コンパクトなボディーサイズのわりに広い室内が大きな魅力といえる。
ポロよりも100mm高いアイポイントのおかげで、運転席からの眺めはとても開放的。横方向の余裕もあり、ひとクラス上のクルマに収まるような感覚である。身長168cmの私が、そのまま運転席の後ろの席に移ると、さらにゆったりとした空間が広がっていた。全高が1580mmあるTクロスは、拳2個分のヘッドルームが確保され、さらにニールームもおよそ拳3個分、20cmを超える広さを誇る。
Tクロスの後席には前後14cmのスライド機構が備わり、荷物が多いときなどにはシートを前に出すことになるが、一番前のポジションでも膝と前席との間には拳1個分以上のスペースが残る。一方、ラゲッジスペースは、後席のポジションによって広さが変わるが、奥行きは約60~75cmと十分なうえ、高さと幅に余裕があるぶん、見た目以上に荷物を詰め込めるのがうれしい。もちろん、いざというときには後席を倒して、さらに荷室を拡大することも可能で、この室内の余裕だけでも、Tクロスを選ぶ理由としては十分かもしれない。
1リッターエンジンのFWD仕様のみ
一方、Tクロスの場合、駆動方式はFWD(前輪駆動)のみで、高い走破性を求める人には不十分といえる内容だ。ただ、SUVであっても4WDを必要としない人が少なくないのも事実で、ライトなSUVユーザーにとって、4WDが用意されないのはあまり気にならないのだろう。
燃費の点でも4WDよりもFWDのほうが有利といえ、さらに、このTクロスは、1リッターの直列3気筒直噴ターボとデュアルクラッチギアボックスの7段DSGを搭載することで、低燃費が期待できる。
そうなると、気になるのはその動力性能。Tクロスの「1.0 TSI」エンジンは、ポロに搭載される仕様に比べて出力で21PS、トルクで25N・m上回る最高出力116PSと最大トルク200N・mの実力の持ち主。早速走りだすと、動き出しはやや緩慢で、2000rpm以下では、もう少しトルクがほしいところ。また、常用することの多いこの回転域では、3気筒エンジン特有のノイズや振動が気になる場面もあった。
一方、高速道路の本線に合流するような場面でアクセルペダルを踏み込むと、十分な加速が得られ、高速巡航時の静粛性もまずまず。欲をいえば、さらに余裕ある1.4リッターの直列4気筒ターボを用意してほしいところだが、この1.0 TSIでも必要十分な性能を持つのは確かだ。
スタイリッシュな18インチホイールだが
ところで、Tクロスには日本導入にあわせて「TクロスTSI 1st」と「TクロスTSI 1stプラス」の、2つの特別仕様車が用意されている。発売の時点ではそのベースとなる標準的なグレードが設定されておらず、しばらくはこの2モデルだけの展開というのが不思議である。
それはさておき、今回試乗したTクロスTSI 1stプラスは、2種類のうちデザインや装備が充実した上級モデル。例えば、TSI 1stが205/60R16サイズのタイヤを装着するのに対し、TSI 1stプラスではサイズが215/45R18に2インチアップするとともに、シルバーとオレンジ、グリーンのホイールが用意されるなど、見栄えが良くなるのがウリである。
ただ、全高、最低地上高ともに高いSUVのボディーを支えるためにやや硬めにしつけられたサスペンションとの組み合わせでは、路面の荒れをコツコツと伝えてきたり、目地段差を越えたときのショックを遮断しきれなかったりと、乗り心地には不満を抱くことに。一方、ピッチングやロールといったSUVに見られがちな不快な動きはよく抑えられており、見た目から想像する以上に走りは軽快だ。
快適性という点では、一般的なハッチバック車に一歩及ばない部分もあるが、アクティブな印象のエクステリアや広く使いやすい室内など見どころも多いTクロス。流行のコンパクトSUVだけに、フォルクスワーゲンの新しいエントリーモデルとして、いい仕事をしてくれそうだ。
(文=生方 聡/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲンTクロスTSI 1stプラス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4115×1760×1580mm
ホイールベース:2550mm
車重:1270kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:116PS(85kW)/5000-5500rpm
最大トルク:200N・m(20.4kgf-m)/2000-3500rpm
タイヤ:(前)215/45R18 89V/(後)215/45R18 89V(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:16.9km/リッター(WLTCモード)
価格:335万9000円/テスト車=335万9000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2019年型
テスト車の走行距離:1217km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。















































