アルピーヌA110S(MR/7AT)
アルピーヌ流ストイシズム 2020.02.26 試乗記 新生「アルピーヌA110」のハイパフォーマンスバージョン「A110S」に試乗。+40PSのエンジンパワーと固く引き締められた足まわりがもたらした、ノーマルモデルとの走りの違いをリポートする。より力強くより硬く
2017年に復活したアルピーヌA110に、2019年11月、A110Sなる新しいバリエーションがニッポン上陸を果たした。広報資料にいわく「スポーツ性が際立つダイナミックな走りとスタイリング」を与えられた高性能版だ。
どこが違うかといえば、まずはエンジンである。1.8リッターの直列4気筒DOHCターボの基本は同じだけれど、ターボチャージャーのブースト圧を0.4bar増やしている。最高出力は40PSアップの292PS。それを6420rpmで生み出す。ノーマルは252PS/6000rpmだから、420rpm余分に回って出力を稼いでいることになる。320N・mという最大トルクのカタログ数値はいささかも変わっていない。けれど、発生回転数が2000rpmから2000-6420rpmへと広くなっている。7段DCTのギア比は同じだ。
最高出力の40PSアップにより、パワーウェイトレシオはA110の4.3kg/PSから3.8kg/PSに向上。0-100km/h加速は4.5秒から4.4秒へと、コンマ1秒速くなった、とされる。
足まわりは、スプリングレートがキリリと締め上げられている。フロントは30N/mmから47N/mmに、リアは60N/mmから90N/mmへ。ちなみにN/mmとは、ばねの硬さを表す単位で、そのばねを1mm縮めるのに必要な力を意味する。具体的にどれくらいの力なのかを説明するのは難しいけれど、少なくともフロントは1.6倍弱、リアは1.5倍ほど、ばねが硬くなっていることは読み取れる。
同時にアンチロールバーの剛性も高められ、ダンパーはこれらに対応してチューニングされている。アンチロールバーは、前が17N/mmから25N/mmに、後ろは10N/mmから15N/mmに強化されている。日本での全高の届け出値は1250mmで、A110と同じだけれど、実際は最低地上高が4mm低いという。
黒内装にきらめくオレンジ
外見では、カーボンルーフの採用が目立つ。それと、タイヤのトレッドが、前は205から215に、後ろは235から245へと、それぞれ10mm広くなっている。ホイールのサイズは「A110ピュア」と同じ前7.5J×18、後ろ8.5J×18で、40偏平の18インチであることはピュアと変わらない。つまり、前が215/40R18、後ろが245/40R18になる。でもって、専用構造・専用コンパウンドの「ミシュラン・パイロットスポーツ4」が選ばれている。
このほか、前後のブレーキキャリパーがオレンジ色になり、フロントとリアの「ALPINE」の文字がシルバーからブラックになる。
ボディー色は3色ある。試乗車の「ブランイリゼ(Blanc Irise)」は、玉虫色の白という意味。あとはおなじみの「ブルーアルピーヌ(Bleu Alpine)」と、A110S専用の新色「グリトネールマット(Gris Tonnerre Mat)」というつや消しのグレーで、このつや消しは+40万円のオプションで受注生産となる。ちなみに、フランス語でグリはグレーを、トネールは雷を意味する。
内装では、光を反射しない黒一色の無機的な宇宙のなかで、オレンジ色が効果的に使われている。「ディナミカ」という旭化成のスエード調人工皮革をルーフライニングやサンバイザー、ドア内張に用いて、真っ黒けの世界を構築。座面と背面にディナミカが貼られた軽量のサベルト製モノコックバケットシートは、A110ピュア用と同じ一脚13.1kg。ピュア用はレザー部分がキルティングみたいになっているのに対して、Sはシンプルにレザーをそのまま使っている。そのシンプルさを補うのが鮮やかなオレンジ色のステッチなのだ。
シートと同じくディナミカとレザーのコンビのステアリングホイールにもオレンジ色のステッチが入っている。さらに12時の位置にはオレンジ色のマーカーが加えられ、これだけでコンペティションムードを高めている。センターコンソールのスターターのボタンまでオレンジ色になっているところがオシャレだ。
アルピーヌとオレンジ色にどんな関係があるのか、筆者は寡聞にして知らないのですが、少なくとも新生アルピーヌA110においては、高級版の「A110リネージ」のスターターボタンとモード切り替えボタンにオレンジが使われている。つまりA110Sは、リネージとの関連をそこはかとなく漂わせつつ、より上位モデルであることを訴えている、ということだろうか。
ノーマルよりも早く踏める
そのオレンジ色のスターターを押して、40PSパワフルになった1.8リッター直4ターボを目覚めさせ、いざ走りだす。乗り心地はそうとう硬い。端的に申し上げて、例えば高速道路の目地段差のようなところでは跳ねる。でも、目地段差さえなければ、ジャンプすることはめったにない。
ステアリングに設けられたモード切り替えボタンでスポーツモードにして全開走行を試みると、292PSを6420rpmで生み出す直噴ターボエンジンは、5000rpmから上でモリモリッとパワーがもうひと伸びする感がある。サウンドも、直接比較ではないので微妙だけれど、A110より豪快な気がする。
A110はもともと重心が乗員の腰のあたりにある。最低地上高が4mm落ちているということは、わずか4mmとはいえ、さらに低重心になっている。おまけにカーボンルーフで、上屋が軽い。
人車一体感がA110の真骨頂だとすると、そこはA110Sも同じ。でも、A110が軽やかにロールしながら曲がっていくのに対して、「シャシースポール」のA110Sはほとんどロールしない。軽やかさということではA110に軍配が上がるけれど、そのかわり、A110Sはコーナリング時の姿勢がものすごく安定している。同時にリアもものすごく安定している、と感じる。タイヤのトレッドが10mm広がっている分、グリップがいいのだろう。だから、コーナーの出口で早めにアクセルを開けられる。パワーアップのみならず、足まわり全体を見直して、サーキットのような平滑な路面でプッシュしやすいチューニングを施しているのだ。
ミドシップで、軽量オールアルミボディー。40PSパワフルになっても、車重は1110kgと、A110ピュアと変わらない。タイヤが太くなっている分だけでも車重が増えていそうなのに増えていないのは、カーボンルーフが効いているのだろう。前後重量配分は車検証の前後荷重でも480kg:630kg、つまり43:57とリアヘビーで、リアヘビーということはトラクションがいいということである。
どちらを選ぶべきか
少々硬い乗り心地ゆえ、路面の悪いところでは上下に揺すられつつ、「なにくそ」という反骨心でもってアクセルを踏み続ける。背後の横置き4気筒ターボがグオオオオオオオオッとほえ、アクセルオフでバラバラバラッという燃焼音を聴かせてくれる。高回転域だとキィーンという高周波音も加わる。A110はこういう音を出さなかったように記憶する。
ただ、筆者個人としては、A110ピュアのほうが軽やかだし、A110Sは40PSパワフルで速いにしても、乗り心地が少々硬くて、しかも899万円と、ピュアより1割ほどお高い。A110ピュアを選んでおくべきでしょう。
と思ったりしたけれど、そう決めつけるのは早計だとも思う。少し長い目で見ると、A110Sのほうが貴重品になる可能性があるからだ。想像してみよう。A110Sを買ったとして、どこかでA110ピュアに乗った人を見かけた時、あ、あっちにしておけばよかった、と後悔するだろうか。乗り心地がかなり硬いといっても、ま、ちょっと硬いだけで、ガマンが必要なわけではない。カーボンルーフはボディーをキュッと引き締め、グレー、もしくはブラックのホイールからオレンジのキャリパーがチラリとのぞく。カッコいい!
A110Sは走りに対してストイックなだけではなくて、そのストイックさをオシャレに表現しているのだ。にくいね。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アルピーヌA110S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4205×1800×1250mm
ホイールベース:2420mm
車重:1110kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:292PS(215kW)/6420rpm
最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/2000-6420rpm
タイヤ:(前)215/40ZR18 89Y XL/(後)245/40ZR18 97Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:12.8km/リッター(WLTCモード)
価格:899万円/テスト車=899万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:4812km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:460.2km
使用燃料:51.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)/10.0km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。

















